第15話 雨が降っていたな

「えっと、じゃあこの果物二つください」

「はいよ! トリコロの実だね! こいつは今が旬で美味い、日持ちもする! も少し買ってかないかい?」

「何日くらい持つんです?」

「大体六日は持つ。六日目になると成熟が進むからもっと美味くなる」

「おお、それじゃ六つください」

「まいど!」


 トリコロの実なんて初めて聞くが、丸くて黄色くてサイズも手頃。

 持ち歩くには良いかもしれない。

 代金を払い、お隣さんへ。


「燻製肉ってありますか?」

「あるぜ! デイリーピッグの肉が殆どだがいいかい?」

「デイリーピッグ、ですか?」

「なんだいあんちゃん知らんのかい」

「はい、この辺りには初めて来たもので……」

「んん? そうかい? この辺りじゃよく出回ってる肉なんだがな……」

「あはは……世間知らずなものでして」

「まぁ買ってくれるなら何でもいいさね! どうだい! 十本くらい買ってくかい?」

「はい。じゃあそれで」

「おっ! 気前がいいねぇ! まいどあり!」


 燻製肉を受け取った僕はおっちゃん達に手を振りつつ、井戸へと向かった。



「あらあらぁ」

「まぁまぁ」

「あらあらあらぁ」


 井戸に着き、水を汲もうとすると、井戸のそばで話し込むおばちゃん達に出会った。


「王都の成人の日、行った?」

「もちろん行ったわよ! 子供が迷子になって大変だったの!」

「あらあら!」

「まぁまぁ!」

「それにしてもご不幸よねぇ、アース様がお亡くなりになるなんて」

「本当ねぇ、変な事とか起きないといいけどぉ」


 あらあら奥様方、僕の話題ですか。

「空席になった地の使徒候補はどうなるのかしら」

「きっと揉めるわよぉ」

「そうねぇ、でも私達には関係ないわね」

「そうねぇ、おほほほ」

「おほほほ」


 おばちゃん達はおほおほ言いながら別れ、それぞれの家路についたらしい。

 僕が死に、国をあげての葬式が行われたのが遠く感じる。

 葬式が行われたのは五年前なのだから、遠く感じるのも当たり前と言えばそうなのだけど。

 僕は葬式の間、部屋で勉強をしていた。

 国民達は三日間の喪に服し、その間は実にひっそりとしたものだった。

 僕の棺桶は王都の大通りをしずしずと進み、王家の墓地へと埋葬された。

 空の棺桶を見送る僕の微妙な気持ちを洗い流すように、その日は途中から雨が降り始めた。


「ほんと、使徒候補はどうなる事やら」


 過去にも不慮の事故や病気で、使徒候補や使徒が亡くなってしまった事は何回かあるらしい。

 その度に空席になった使徒の座を巡り、貴族の間で大いに揉めたそうだ。

 もっとも、貴族が使徒の座を得るという事は、王族と同列では無いにしても、貴族相手への発言権などは大きくなる。

 そりゃ皆必死になるってもんだよな。

 くわばらくわばら。

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