二章 外の世界

第11話 いざさらば

「ガイアスよ。出れるか?」


 後日の事、部屋の前で父が落ち込み気味に言う。


「はい。陛下」


 出れるというのは勿論、部屋の外へ、王宮の外、国外に出れるのかという話だ。

 この日の為に、しっかりと準備を進めてきた僕だ。

 死角は無い。

 胸を張ってこの五年間を過ごした部屋を出れる。

 腰に小剣を下げ、穂先を布で包んだ槍を手に、大きめのバッグを背負う。

 

「よいのか?」

「はい、陛下」

「これから先、健やかに過ごせよ」

「ありがとうございます」

「行く先は決めているのか?」

「いえ。特には。足の向くまま気の向くまま、自由に旅をしてみようかと思っています」

「そうか」

「はい。王族では出来ない自由を謳歌してまいります」

「言うではないか」

「不敬罪になってしまいますか?」

「構わん。今は私とお前しかおらんのでな」

「ありがとうございます」

「ではな」

「はい。陛下もご健勝で」


 僕はそこで言葉を切り、差し出された父の手を握った。

 ここで父とはお別れ。

 不思議と涙は出て来ない。


「ガイアス様、もし何か困った事があれば、私を訪ねて下さいね。手紙もお待ちしていますよ」

「はい、ありがとうございます。アリエスさん」

「差し出がましいようですが、これを」


 そう言ってアリエスは、一通の便箋を僕の手に握らせる。


「これは……?」

「私からの餞別です。中には私の名で紹介状が書いてあります。国外で仕事に困った時はジョブギルドに行き、それをお見せください。きっと貴方の力になります」

「分かりました。ありがとうございます」

「では、お元気で」


 便箋をバッグにしまい、アリエスと硬く握手を交わし、離す。

 そしてそのまま、僕は振り返らずに歩き続けた。

 石礫のペンダントを付け、王宮内を歩いていく。

 もう二度と訪れる事のない廊下を、足早に抜けていく。

 城門をくぐり、城下町へと出た。

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