第10話 解せぬ

「しかし派生魔法の聖紋など聞いた事がない。過去に聖紋が現れたのは……」

「およ二千年前、ですね」

「うむ。その事がきっかけで四元教が設立される事ととなった……」

「その話は僕も知っています。というよりこの国の民であれば皆知っている話……降魔大戦でしたよね。突如として湧いた魔族と人類の長い戦い……神の使徒と呼ばれる四賢者はその証と共に人類を率いて戦った。そして人類は魔族を退けて見事勝利した。という伝説……陛下、まさか証というのは」

「うむ。聖紋の事だ」

「知りませんでした」

「四元教が設立されてから今日まで、聖紋が全て現れるというのはありませんでしたからね。一番多く現れた方で三分の一ほどでしたか」

「しっかり、とか三分の一と言うのは……?」

「ふむ……」

「陛下、この際ですのでお話しになってもよろしいかと思いますが」

「そう、だな」


 父は少し眉を寄せた後、何故か着ていたローブをたくし上げ、ふくらはぎを見せた。


「えっ……このアザは……まさか」


 顕になった父のふくらはぎには、初めて見たのにも関わらず、どこか見た事があるような奇妙なアザがあった。


「これは火の神であるサンクレスト様の聖紋の一部だ。我ら王家の者はみな、それぞれの神の聖紋が一部浮かびあがるのだ」

「初めて聞きました」


 なるほど、サンクレストの紋様か。

 どうりでどこか見覚えのある模様だと思うわけだ。

 何しろ、王宮になびく国旗にしっかり描かれているのだから。


「口伝のみでしか伝えておらんからな。聖紋が現れる時期や場所、規模はそれぞれ違うが、おおよそ二十歳までには必ず体のどこかに現れる。使徒の証であり、王家の証とも言える」

「そうだったのですね……だから先程は全て現れた方はいないと」

「その通りだ。鉱物神はいわば派生魔法と同じ、四元教からの派生神。いわば子供のようなものだが歴史は長い……その聖紋とはな」

「しかも一部ではなく全て、というのが……」

「うむぅ……」


 父とアリエスはひどく難しい顔をして、うんうんと唸っていた。

 そんな中、右手の甲にある聖紋の光が弱くなっていき、やがて聖紋も消えてしまった。


「消えた……」

「消えましたね」

「はい。消えてしまいました……」


 聖紋が消え、沈黙が続く。


「「「解せぬ」」」


 三人の声が見事にハモッた。


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