第9話 何でもは知らない

「はぁ。楽しそうだ」


 お祝いで騒ぐ街並みを、僕はしっかりと心に刻み付け、孤独と乾杯してぐいっと酒をあおった。

 初めて飲む酒は、一人で飲む酒はとてもまずかった。

 そして次の日。

 塔の部屋にて父、アリエス、僕の三人だけの適性検査が行われた。


「これは……!」


 なんと、僕の持つ水晶玉が煌びやかに輝いている。

 それを見る父は目を丸くして驚き。


「まさか!」


 アリエスも目を見開いて驚いている。


「陛下! アリエスさん!」


 この輝きは間違いなく適性Sクラス。

 五年前に三度見た輝きだった。

 輝きが収まり、現れた色はというと。


「なん、ですかこれ」

「むう……まさかこんな事になろうとは……」

「困った事になりましたね……」


 水晶玉が茶色に染まれば、海の中で針を拾えたということ。

 しかしながら、水晶玉は何とも奇妙な色合いを映し出していた。


「灰色……いや、緑……少しだけ茶色も……紫に青……?」


 水晶玉が混乱しているのか、これが正しいのか分からないけれど、色とりどりの絵の具をぶちまけてごちゃ混ぜにしたような。

そんな色合いがぐるぐると渦を巻いて、次々と色彩を変えていた。


「陛下、おそれながら……これは地の派生魔法の適性ではないかと……」

「派生魔法か」

「はい。ですがこの色合いはあまり見ない、いえ、滅多に見ない鉱石系の魔法かと」

「えっと……つまり」


 熱が入りかけているアリエス、難しい顔をしているい父。


「ガイアスよ、残念だ」

「ですよねー」


 はぁ、と溜め息を吐き首を振る僕と父。

 地の適性は出なかった。

 それが結果だ。


「しかし陛下! 派生といえどSクラスです! お考え直しを!」


 アリエスが興奮を押さえながら父に問うが。


「ならん」


 父は首を横に振る。

 という事で僕の国外追放が決定した瞬間だった。

 それにしても派生魔法かぁ……。

 鉱石ねぇ……。

 鉱石といえば鉱山、鉱山都市ドミニオ。

 クルレルダイト王が治めるミネルヴァ王国の一都市だったか。

 祝賀パーティーのワンシーンが脳裏によぎる。

 はぁ、ラピスさん可愛かったなぁ。

 とか考えていると、右手の甲がズキリと痛んだ。


「いた……いたた、なんだこれ」

「どうしたガイアス」

「いえ、その、右手の甲が急に痛み出して」


 そう言って僕は手の甲を見せた。

 

「これは……!」


 手の甲には不思議な模様がアザのように浮き出ており、微弱な光を放っていた。


「陛下、これは恐らく……」

「アリエスよ。私もお前と同意見であろう」

「はい。これは鉱物神ミーネラールの紋様と同じです」

「やはりな……地の神の子、鉱物を司る神ミーネラール……分教の紋様よ」

「それがどうして手の甲に……? 鉱物だけに甲ですか?」

「ふざけている場合か、馬鹿者め」

 

 怒られてしまった。

 仕方ないだろう、何が起きてるのか訳が分からないのだから、冗談の一つや二つ言いたくなるってものだ。

 鉱物神様は分教、他国が崇拝している神だったな。

 教徒は主にドワーフ族やら鉱夫やら、あとは宝石商人、鍛冶士あたりがメインだ。


「なぜお前にミーネラールの紋様が出たのかは分からん。何か意味があるのだとは思うが……現状ではな」

 

 そりゃそうだよな。

 これで分かったら世話の無い話だ。

 いくら父といえど、出来る事と出来ない事くらいあるのだ。


「陛下お待ち下さい。これは聖紋では……?」

「むぅ……恐らくは、な」


 あれれ、分かるんですか?

 アリエスと父が、手の甲と僕の顔を交互に見る。


「陛下、今しがた分からん、と仰いませんでしたか」

「分からんのは何故お前にミーネラールの聖紋が出たのかという事だ」

「あ、なるほど……」


 それにしても父とアリエスさんは何でも知ってるな。

 知らない事なんて無いんじゃなかろうか。

 昔、アリエスさんに同じセリフを言った事がある。

『何でもは知りません。私が知り得た事しか私は知りません』

 と言われた。

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