第12話 イオ
足早に城下町を歩いていると、露店や店先から美味しそうな匂いがふわふわと漂ってくる。
「記念に何か買って行きたいんだけどな……」
この世に生を受けてから十五年、城下町に来た事は無かったし、この匂いも嗅いだ事がない。
次にこの地にくるのはいつになるのか、二度とこの地を踏む事もないかもしれない。
そう思うと、何か土産物でも買って行こうかという気分になる。
けど王都を出るまでは、ペンダントを外してはいけないという父との約束だ。
僕はこみ上げる気持ちをぐっと抑えて城下町を抜け、日が沈む前に王都を出たのだった。
■
「ふぅ。だいぶ遠くまで来たな」
小さく見える王都の街並みを見ながら、誰ともなしに呟いた。
「今日は野宿だな」
街道から少し外れ、良さげな場所に荷物を置く。
薪を拾って火を起こす。
アリエスさんから使わなくなったキャンプ道具の一式を譲り受けているので、火起こしだって苦にならない。
「保存食が無くなる前に、どこか村か町か、人のいる所まで出ないとな」
干し肉を齧り、乾パンを口に放り込む。
明日は日の出と共に出発しよう。
満腹とも言えない腹持ちだが、今日はもう寝る事にした。
魔物避けの簡易結界石を起動させ、寝袋に包まる。
すぐに寝れるかどうか少し不安だったが、案外すぐに眠気は訪れ、僕はそのまま眠気に身を委ねた。
次の日、起きた僕は寝ぼけた頭で洗顔やら何やらをしようと考え、野宿していた事を思い出した。
「水の魔法が使えたら今頃水飲み放題、洗顔し放題、水浴びもし放題、歯も磨き放題なのになぁ……あぁ鉱石魔法の使い道も模索しないと」
持参した歯ブラシで手早く歯を磨き、ちょぴっとの水で口をすすぎ、サクッと出発した。
水だって有限なのだから大事に使わないといけない。
人間水さえあれば、しばらく食べないでも何とかなる。
が、その何とかなる状況だけはごめんだ。
この先にある村で、少しばかり食糧を分けてもらう事にしよう。
なぁに、金ならまだある。
そして半日ほど歩き、小さな村【イオ】に辿り着いた。
「おや、旅の人かい?」
村の入口をくぐると、恰幅のいいおばちゃんが声をかけてきた。
「はい。旅といっても目的地は決まっていないんですけどね」
「そうかいそうかい! 大した名物もないつまらない村だけどゆっくりしていきな!」
「そうさせていただきます。そうだ、この村に泊まれる場所はありますか?」
「そうさねぇ。旅の人は大体ここを素通りしていくからねぇ……宿屋ってのもないのさ」
「そうですか……あの、馬小屋とかでもいいのですが……」
「うーん。あんた悪い人には見えないし、どうだい。よかったらウチに泊ってくかい?」
「よろしいのですか?」
「いいよいいよ! 汚いとこだけど我慢しておくれよ?」
「はい。ありがとうございます」
気のいいおばちゃんで良かった、今晩はお世話になるとしよう。
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