第5話 死

 お前は必要ないから、と路肩にポイっと捨てられないだけいい。

 能無しは必要ない、と命を消されないだけいい。

 

「西側の塔に今は使っていない独立した部屋がある。明日以降はそこで暮らすがいい」

「え?」


 そういえばなぜ、父は僕にペンダントをくれたのだろうか。

 僕はてっきり五年間、地下牢かどこか誰の目に付かない所でひっそりと生かされていくのかと思っていたのだけれど。

 違うのか?


「それから、お前の身の回りの世話はアリエスに任せる事になっている。事情を知るのはあやつだけだからな」

「ありがとうございます。何から何までしていただいて……」

「構わん。魔法適正が出ずともお前は私の息子だ。ただ、こちらの都合でお前には辛い思いをさせてしまうな」

「いえ……グランシャリオの三男として、出すべき結果を出せない僕が悪いのです」

「……」

「……」


 そこで会話が途切れた。

 沈黙が場を支配する。

 神は、なぜこんな事をするのだろう。

 ただの気まぐれか、戯れか。

 それにしては、度が過ぎるではないか。

 四元素を司るそれぞれの神、四神。

 火の神【サンクレスト】。

 水の神【アクアレイル】。

 風の神【ゲイルヴェント】。

 地の神【タイタニア】。

 神法国家エレメンタリオを守護するとされている四神であり、四元教が信奉する神達。

 僕に何の意味を求めてこんな事をするのか。

 恐らく意味なんてないのだろうな。

 僕が信ずべき神、タイタニア。

 神がそうあれというのなら、それが絶対。

 四人同時に産まれた子供の中で、唯一神に認められなかった子供、それが僕なのだ。

 仕方ない。

 ……仕方ないのだ。


「……くぅ……」

「ガイアス……」


 自然と涙が溢れた。

 悔しいのか悲しいのか寂しいのか切ないのか。

 僕にも分からない。

 ただ涙だけが止めどなく溢れて止まらない。


「ぐすっ……失礼しました陛下の御前でお見苦しい姿を」

「……よい。泣きたくなる気持ちも、わかる」

「はい」


 泣いている場合ではないのだ。

 泣いた所で神は何もしてくれない。

 それに、大事な事を聞かなくては。


「陛下。一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

「なんだ?」

「もし、もし五年後。僕に、地の適正が出なかった場合は……どうなるのでしょう」

「……そうなった場合、お前は城から出なければならない」

「そうですか、よかった」

「よかった、だと?」

「はい。命までは取られないという事ですよね?」

「そうだが……」

「であれば、良かったです。もしそうなった場合、私はガイアスとして、外の世界で生きていきます」

「……すまぬ」

「大丈夫です。五年後、地の適正を出せばいいだけの話なのですから! 頑張ります!」


 僕はそう言って、出来る限りの笑顔を浮かべた。

 そして次の日。

 僕の死が発表された。


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