第6話 幽閉
「ガイアス様。お食事ですよ」
「アリエスさん、ありがとうございます」
王宮の西端にある小さな尖塔。
その最上階に僕の部屋はあった。
「ガイアス様……さん付けも敬語も、いい加減おやめになってはいただけませんか」
アリエスが食事の乗ったトレーをテーブルに置きつつ、困ったように微笑んだ。
アリエスは僕の死が発表された次の日から、毎日こうして食事を運んで来てくれている。
僕の死の真相を知るのは父、アリエス、母、そして兄姉だけだ。
そしてその誰もがこの部屋に近寄る事はない。
父は身内にすら、僕がどこで何をしているかを明かしていない。
僕の事は徹底的に秘匿するつもりなのだろう。
けど僕はそれでいいと思ってる。
僕はもう、王家の人間ではないのだから。
「僕はもう王子じゃないんです。何度も言っていますが僕に敬語を使う必要なんてないのですよ」
「そう言われましても……私はずっとこうですので……」
「すみません。意地悪を言ってしまいました」
アリエスは困った顔をして、頬をぽりぽりと掻いた。
僕が死んでから数週間、数日に一度はこう言ってくる。
彼としてもどう接していいか分からないのだろう。
アリエスは齢五十を越える。
十二ある宮廷魔導師団の筆頭師団長であるのに、誰に対しても必ず敬語を使う。
それが部下の子供でも、だ。
いつでも笑みを絶やさない柔和な方だ。
それでいて魔法の腕は芸術といってもいいほどの練度であり、エレメンタリオの、いや、世界中の魔法を扱う者にとっての憧憬の対象だ。
魔法に限らず色々な事に対して造詣が深い。
それも相まって、彼の事をエレメンタリオの大賢者と呼ぶ者達も多い。
「ところでガイアス様。この本らはもう全て読了されたのです?」
「はい。面白くて寝る間も惜しんで読んでしまいました」
「なんとまぁ……」
アリエスの視線は、窓際に置かれたテーブル、その上に積まれた本達だった。
この部屋に通された時、何か欲しい物はあるかと聞かれた時、お願いした本だった。
この国に伝わる御伽噺を集めた本、絵が多めに描かれた娯楽本、魔物に関する本などなど。
アリエスの独断と偏見で渡された本はとても読みやすく、分かりやすいものばかりだった。
「それとガイアス様。陛下より教師の任を命じられましたので本日より、お勉強の開始ですよ」
「いいんですか!?」
「はい。僭越ながらこの私が全知識と技術を持ってガイアス様に手ほどきをさせていただきます」
「あ、ありがとうございます!」
これほどまでに素晴らしい事があるだろうか。
エレメンタリオの大賢者から直々に、一対一で教えを受けられるのだ。
こんな事は兄姉達ですら無いだろう。
五年後、地の適正が出ようが出まいが、この経験は絶対に僕の宝となる。
「それでは、お食事が済んだら始めましょうか」
「はい。よろしくお願いします!」
期待に胸を膨らませ、食事で腹を膨らませた僕はさっそく勉強に精を出したのだった。
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