第33話 自転車操業
☆雄大サイド☆
俺は全てが幸せになれば良いって思っていたのだが。
それが正解だと思っていたのだが。
だけど俺自身の事を忘れていた様だ。
悲しみを抑え込んでいた様だ。
俺は.....自分自身を忘れていた様だった。
「.....馬鹿だな。俺も大概」
「お兄ちゃん。もう一度言うけどそれは情けないんじゃないよ。お兄ちゃんは一生懸命だから」
「.....」
沈黙しながら俺は考える。
すると双葉は歩いている歩調を早め俺の前に出た。
それから見上げてくる。
大袈裟に上目遣いになりながら、お兄ちゃん、と言いつつ。
俺はその様子に、?、を浮かべる。
そして双葉はこう切り出しながら俺に微笑む。
「許可が取れてからで良いけど。私、和子さんのご両親にお会いしたい」
「.....!.....双葉.....」
「私達が会いたい、とも思う」
「.....しかし.....」
「この痛みはお兄ちゃんだけじゃない。私たちが抱えないといけないと思うから」
「.....」
俺は考える。
この痛みは俺自身の痛みだ。
だから双葉達が抱える事では無いと思うのだが。
思いながら俺は双葉を見るが。
双葉は念を押してくる。
「お兄ちゃん。1人では抱えれないよ。絶対にこの痛みは」
「.....双葉」
「私達を見たら分かるでしょ?絶望にもがいている私達を見れば」
「.....だけど」
お兄ちゃん大丈夫。
だから私達を頼って、と言いながら俺を見る双葉を見てから。
何かが重なる気がした。
それは和子と、であるが。
俺は、!、となる。
『大丈夫。もう一人じゃ無い』
「.....やれやれだな」
「?.....お兄ちゃん?」
「分かった。じゃあ少しだけでも同じ様に背負ってもらいたい」
「.....有難う。お兄ちゃん。それでこそお兄ちゃんだ」
そして俺に笑顔を浮かべる双葉。
俺はその姿を見ていると何だか心の中が軽くなった気がした。
成程な。
これがみんなの願いなんだな。
和子の願いなんだな、と思ってしまう。
「.....何だか話して楽になったよ。まさかこんな事になるとは思わなかったけど」
「そうだね。私も良いタイミングだったって思ってる」
「.....色々あって人に頼る大切さを忘れていたのかもな。俺は」
「まあこういうタイミングもあるっていう事を覚えておいて損は無いと思うから」
私としてはお兄ちゃんの痛みを全て抱えても良いけどね、と言いながら俺を見る。
だけど、とも言いながら。
それから俺を見てくる。
それじゃ人は成長しないってお兄ちゃんが証明してくれたから、と話す。
「.....まあ確かにな」
「お兄ちゃんが行った事だから。忘れちゃダメだよ」
「そうだな。それは確かにな」
「.....うん」
それから俺の手を握ってくる双葉。
俺はその手を優しく握り返した。
すると.....電話が掛かってくる。
その電話の主は.....瑛一だ。
え?
「もしもし!?瑛一!?」
『雄大。結構久々』
「いや、久々、じゃねーよ!?お前も大概だな!」
『すまん.....忙しくてな』
しゅんとする感じの瑛一。
俺はその瑛一に、ったく、と言いながら向く。
それから、無事か、と聞いてみる。
瑛一は、ああ。まあな、と答えながら返事をする。
「お前に会えなくなっているぞ。本当に大丈夫か」
『会えなくなっているのは俺の意思だ。.....だから気にしないでくれ。.....御免な』
「.....そうらしいな。.....他に方法なかったのかお前」
『無いな。それに相模のアホに万が一.....200億円が渡れば簡単に言えばチェックメイトだな。多分アイツは会社を立て直したりしてそして更に暴走するだろうな』
「.....?.....ちょっと待て。会社を立て直す?」
『そうだな。相模グループは実は事業があまり上手くいってない。それは食中毒による事実上の色々な停止が問題でな。.....それで金を必要としている』
お前も知らないか?3年前の食中毒事件、と話す瑛一。
俺は考えてからハッとする。
そうかあれは相模スーパーの事だったか、と思いながら。
それから俺は真剣な顔をする。
「.....創業者は相模帝を利用したという事か?自らの事業の立て直しの為に」
『まあな。所詮は金だろ。.....相模の親父さんは表立っては普通だけど中身はかなり卑劣みたいだしな。ブランド物を買い漁って金を欲している。足りなくなる。自転車操業って事だろ。その中で目をつけたのが桃月一葉姉妹だったという事だな』
「冗談抜きで外道だな」
『女も買えるしウィンウィンの関係だったという事みたいだけどな。まあ相模が何か取り損ねる事もないだろうしな』
しかし他人の遺産?金はどうやって手に入れるのかな、と瑛一に聞くと。
瑛一は、さあね。俺は弁護士とかじゃないから分からないけど。だけど相模一族はどうにかして200億円を手に入れるんじゃないか、と言ってくる。
事業立て直しで200億とか簡単に消失しそうなんだが。
そんな奴らの手に渡っても。
双葉もそうだが一葉も全ての幸せについて考えるなら阻止しなければ。
「.....お兄ちゃん。大丈夫?」
「.....ああ。瑛一と200億円について話していた」
そんな会話をしながら電話に戻る。
すると瑛一は、あくまで俺はお前らの幸せを守る。だから今はそっとしておいてほしい、と話してきた。
俺は、そうしたいがお前とコンタクトも取れなくなるんじゃないかって不安なんだが、と聞いてみる。
この言葉に瑛一は、それは大丈夫。.....またコンタクト出来る様にする、と答えてきながら笑みを浮かべる声を発する。
『まあ仮にも今村も居るしな』
「.....それなら良いけど。.....瑛一」
『何だ?』
「また学校来いよ」
『.....相棒の言葉なら叶えないとな』
それから瑛一は、じゃあな。また今度な、と切り出してそのまま電話は切れた。
そして俺は切れた後のスマホの画面を見る。
アイツはアイツなりに頑張っている、か、と思いながら。
双葉を見る。
そんな双葉は不安そうな感じで俺を見ている。
「大丈夫だ。双葉。俺は.....もう」
「お兄ちゃん.....まあそれなら良いけど」
「.....あまり心配する必要は無いよ。俺も一歩を歩み出せば良いんだからな」
「そっか。あまり心配しすぎても良くないよね」
「そうだな」
そして俺は軽くなった身を動かしながら歩き出す。
とは言ってもまだ状況は改善に向かっている訳じゃない。
油断は大敵だな、と思いながら。
俺は目の前を見据えた。
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