第24話 絵の凸凹コンビ

☆一葉サイド☆


私は『姉』という立場だった。

いつだってどこであっても『姉』だったのだ。

だから私は体調を崩し。

全ての罠に嵌ってしまった。


迷惑ばかりだ。

私は駄目な人間だって思っていた。

だけどみんな私に希望を寄せてくる。

その事は本当に涙が溢れる程嬉しかった。

それから私はようやっと立ち上がる事が目に見えてきたのだ。


「どんな旗のデザインにしよう」

「あ、すいません。旗のデザインは既に入ってきています。問題は着色ですね」

「そうなんだ。だったら聞かないとね」

「はい。確かにそうですね。私、全クラスに一応聞いてきてます。それを参考に.....」


私は美術部員と相談しながら描いていく。

昼休みに着色していく。

すると、一葉先輩。やっぱり上手ですね、と周りの人達が言ってくる。

アクリルで汗をかきながら塗っていく。

すると、一葉さん、と声がした。


「上野先輩」

「.....一葉さん。有難う」

「え?何がですか?」

「君がこの場所に戻って来て嬉しいよ。有難うね。それと覚えてくれていて有難うね。私を」


美術部員がみんな目を丸くする。

この場には2年生があまり居ない事も影響しているのだろうけど、この場所に一葉さんがかつて居たの!?、的な感じで驚く皆さん。


忘れもしないと思う。

上野小百合(うえのこゆり)先輩。

私を一年生の入学当初、美術部員にならないか、と誘った。


今はどうも美術部の部長をしている。

かなり有能な先輩だ。


昔より若干にふくよかな感じの体型に。

大きな丸メガネ。

そして和かな姿.....だ。


母性があると言えてだから好きな人であるが私はそんな先輩を2度も突き放してしまったのだ。

絵はもう描けません、という感じで、だ。

だけど先輩はそれでも待っていた様だ。


「一葉さんは一か月だけ美術部に居ました。彼女は彼女なりの理由があります」

「上野先輩.....」


アクリルガッシュで汚れている皆さんに笑みを浮かべる上野先輩。

それから私から目線を逸らしながら、はいはい。じゃあみんな!作業に戻るよ!、とパンパン!と思いっきり叩いて大声を出す。

そしてみんな作業に戻って行く。


私はそのリーダーシップのある姿に、相変わらず。本当に変わらないな、と思いながら上野先輩を見る。

それから笑顔になる。


「一葉さん。.....楽しんでね」


上野先輩は柔和になりながら私を見る。

それから上野先輩は作業に戻る。

私は.....何だか更にやる気が出てくる。

そして、有難う。上野先輩、と思いながら1年生に指示をする。

そうしてから下書きの有る旗とかにアクリルガッシュを塗っていった。



私は頬にもアクリルガッシュが飛びながらも綺麗に仕上げていく。

それから塗った旗を見て笑顔になる。 

良かった。

1枚が仕上がったなって思う。


「素晴らしい仕事ぶり」

「上野先輩.....」

「メチャクチャ綺麗だね」

「貴女には全然敵いませんよ。上野先輩」

「私はそんなに力は無いよ。貴女よりかは遥かにね」


私を見ながら愛しい、という感じの。

複雑な顔をする上野先輩。

周りが、?、を浮かべる中。

私はその顔を見ながら同じく複雑な顔をする。


私だけが上野先輩のこの顔を知っている。

何故か。

それは簡単だ。


上野先輩は私の最初で最後の絵の張り合っていたコンクールのライバルだったから、だ。

後輩と先輩同士の。

飛び出したり引っ込んだりで凸凹コンビとかよく言われた。


だが。


私が右手骨折、故とかで絵を描くのを辞め。

上野先輩はライバルが居なくなった、と。

同じ様に絵を描くのを天才なのに辞めてしまう。

それから私達は引越しもあり離れ離れになったのだが。

だがこの高校で再会してしまった。


「部長。一葉先輩に昔会った事が?」

「.....昔ね。でも昔の事だから」

「.....?」


周りの皆さんは首を傾げる。

そんな上野先輩は私を見ながら苦笑いを浮かべる。

その姿に私は皆さんに向く。


それから、説明するね、と切り出す。

まさかの言葉だったのだろう。

上野先輩も慌てる。

そんな言葉を遮る私。


「勿体無いです。上野先輩。.....こんな世界に羽ばたける様な才能を秘めるなんて」

「良いんだって私は」

「ダメです」


そんな力強い私の言葉に、!、となる上野先輩。

それから私は皆さんを見る。

皆さん。上野先輩は昔から天才です、と話す。

そして上野先輩は何度も何度も何度も絵の賞を獲得しています、と言葉を発した。


「「「「「.....!?」」」」」


そんなの知らないぞ、とザワザワする皆さん。

そんな皆さんを見る私。

そして、私は誰よりも上野先輩を凄いって思っています、と胸に手を添えてありのままに告白する。


皆さんは知っているかもしれないですけど、と付け加えながら。

私は重大なミスを犯しました。

あなた方を裏切る行動もしたりしました。


でもその中で。

自らの行動を誤った時も.....絵が私を救った。

そして上野先輩を思い出しました、とも。

宝箱でも大切に開ける様に胸から溢れたその気持ちを告白する。


「上野先輩は私を救ってくれた命の恩人の1人です」

「知ってます!」

「.....橋本さん?」


私が話し終えると早速と声が上がった。

それから橋本さんが前に出て来る。

私はその姿を見ながら、???、を浮かべる。

すると橋本さんは、当時と眼鏡を掛けている点とかで違いましたけど.....やっぱり凸凹コンビの上野先輩ですね、と尊敬の眼差しを向けられる上野先輩。


「凄いです!こうやって凸凹コンビの天才が.....!」

「マジかそれ!聞いた事あるぞ?!」

「俺も俺も!天才って言われていましたよね!」


橋本さんと部員が上野先輩に有名人にサインを求める様に駆け寄って行く。

上野先輩は、ちょ、ちょっと待ちなさい、という感じになる。

私はそれを見ながら、さてさて、と思いながら部室から出て行こうとする。

すると上野先輩から声を掛けられた。


「ちょっと貴女も待ちなさい」

「え?」

「このまま逃げるつもりかな?一葉さん。いや(カズ)」

「.....!」


眼鏡を取る仕草をして私を見据える眼差しは本物の眼差しだった。

気迫が。

当時を思い出す。

そして俯いてから震える。


何か思いっきりお湯が湧き上がる様に湧き立つものがあった。

それから顔を上げる。

ライバル心が鮮明になっていた。


「いや。終わらせないよ。上野先輩.....いや。(コユリ)ちゃん」

「ははは。その意気だね。やれやれ。相変わらずだね。貴女は」

「私は色々とするのが得意だから」

「全く貴女って人は」


そして昔の様に髪の毛を結ぶコユリ。

私はその姿に自然とライバル心の笑顔が溢れる。

ニヤニヤが止まらない。

気迫が.....物凄い。

私は髪留めをずらした。


「凄いこんな気迫な巨匠が2名も」

「マジかこれ.....めっちゃ身が震える」

「絵でこんなに.....?」

「まるでスポーツの決勝みたい.....」


周りがそう言ってくる。

私達は見つめ合いお互いに笑みを浮かべる。

その姿は。


おおよそ5年ぶりの景色だった。


そして私は。

かつてを取り戻そうとしていた。

コユリとか皆さんのお陰で.....だ。

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