第23話 人の役に立つという事

☆双葉サイド☆


相模帝は完璧な悪人だと思う。

私達の仲を根本から破壊しようとしている。

絶対に止めなくてはならないと考えながら私は授業を受ける。


それから外を見渡してみる。

何だか、そうだな。

正直言ってこの不安な気持ちをどうしたら良いのだろうか。


私はお姉ちゃんもそうだが。

お兄ちゃんも危害を加えられたく無いと思ってしまう。

私は贅沢だな。

思いながら私は授業が終わってから歩いていると美術部の女子部員に絡まれているお姉ちゃんを見つけた。

何をしているのだ。


「お願いします!一葉先輩。時間がその.....部員も少なくてみんなコンクールとかで練習で時間が。.....貴方しか居ません。こういう絵が描けるのは.....噂は聞いています。物凄く絵がお上手だって.....」

「私も新聞で思い出して.....!」

「是非お願いします!」


3人の私の同級生の人達はお姉ちゃんに目を輝かせる。

ああそうか.....体育祭の旗の設計、着色などの事か。

それから応援幕の事だろう。


思いながら私は見ていると。

お姉ちゃんは、私は.....そんなに大々的に絵を描くつもりは、と控えめになる。

その姿に盛大に溜息を吐いた。


「お姉ちゃん」

「.....双葉?」

「ねえ。みんな。.....お姉ちゃんは絵を描くのがとても上手いよ。でもみんなの気持ちに応えられるかどうかは分からないよ」


そう言葉を発してから橋本達を見ると。

橋本達は頷き合ってから目を輝かせて私達を見てくる。

それから、良いんだよ!、という感じで。

そして私達に向いてくる。


「それでも良いからお願いします!」

「うんうん!」

「だってよ。お姉ちゃん」

「でも.....私は.....」

「人の役に立ちたいんでしょ?お姉ちゃん」

「!」


お姉ちゃんはハッとした様な感じで顎に手を添える。

そして後輩達に向く。

それから、分かりました、と返事をしてから。

描くよ、と苦笑気味に返事をした。


「あ、有難う御座います!!!!!」

「部員が少なかったから.....本当に良かった.....!」

「助かります!」


橋本達はそんな感じで手を叩いて喜ぶ。

そしてお姉ちゃんを見るとお姉ちゃんは何か嬉しそうな顔をしていた。

その姿に、期待されるって良いでしょ。お姉ちゃん、と話し掛ける。

するとお姉ちゃんは、だね、と苦笑いを浮かべる。


「少なくとも私の悪さよりかは遥かに快楽だね」

「.....こうやって反省の気持ちを重ねていったら良いんじゃないかな」

「有難う。双葉」

「私は何もしてない。お姉ちゃんの背中を押しただけ」


そして私は、じゃあね、と去ろうとする。

すると、え!?もう行くの!?、とお姉ちゃんがまるで子供が可愛いものを取り逃がした様な顔をする。


私は、私が行っても邪魔なだけだよ、と答える。

そうしてからお姉ちゃんの顔を見る。

お姉ちゃん。大丈夫だよ、という感じで。


「お姉ちゃんなら上手くやれる。そして全てに向き合える。大丈夫。自信を持って」

「.....私はそんなに強い人じゃないし.....それに私は.....」

「お姉ちゃん。罪に向き合うのも大切だしそれに歩み出すのも大切。だから行ってあげて。橋本達を手伝ってあげて」

「分かった。双葉が言うなら頑張ってみる」

「その意気だよお姉ちゃん。きっと大丈夫。今のお姉ちゃんならね」


それから私は優しく羽でも触るかの様にお姉ちゃんを押す。

そしてお姉ちゃんを見送った。

お姉ちゃんは私を見ながら不安そうな顔をする。

だけど何かを決意したかの様にグッと拳を握ってから歩いて美術室に向かう。


「.....」


私はそれを見ながら踵を返すと目の前からお兄ちゃんが手を挙げてやって来た。

一連の流れを全部見ていたかの様な感じの顔をする。

優しげな感じの草原の様な笑顔を。

それを見ながら私は目を丸くしながら、お兄ちゃん。見ていたの?、と聞いてみる。

すると、ああ、という感じで苦笑する。


「双葉に用事があって探していたんだ」

「用事?何の用事?お兄ちゃん」

「今度さ。.....一緒に買い物に行かないか」

「.....えぇ!!!!?お兄ちゃんからなんて珍しいね!?」

「アイツに貰ったんだよ。佳代子ちゃんに映画館のチケットを」


え、ええ!?、と思いながら私は動揺する。

どうしよう!?服を新調しないと.....で、で、で.....デートじゃん!?

私は赤くなりながら目を回す。

するとお兄ちゃんは、デートじゃないぞ!?勘違いするなよ!?、と慌てる。

でもデートだよね!?、と動揺する私。


「デートって.....お前.....恥ずかしいんだが!?」

「私はデートとしか思えないよ!も、もう。お兄ちゃんのデリカシーの無さ!」

「デリカシーの無さ!?」

「お兄ちゃんのえっち.....」

「エッチ!?」


お兄ちゃんは唖然とする。

あまりに嬉しすぎて滅茶苦茶な言葉を放っている。

頭の中をちゃんと整理しなくては。


思いながら私はゲホンゲホンと咳払いをして整理してからお兄ちゃんを見る。

だが私は急激に真っ赤になる。

何これアカン。


「と、とにかく。お兄ちゃん。.....喜び過ぎ」

「お前がな」

「お兄ちゃん。私はそんな事ありませーん」

「そんな事ありますって」

「無いですって」

「あります」


そうやって言い合いながら。

私達は見つめ合い噴き出してクスクスと笑い合った。

それから、まあとにかく。付き合ってくれ。せっかく頂いたしな、とニコッとするお兄ちゃん。

私はその言葉に俯いて赤面しながら、はい、と手を差し出す。


「.....?.....何だ?」

「お兄ちゃんの手を握りたい」

「???.....何で?」

「良いから」


よく分からないと思っている様だ。

私は心臓を落ち着かせる為に握るのだ。

じゃないと映画館デートが嬉しすぎて.....。


思いながら私は頬を掻きながら差し出された手を暖める様に握りしめた。

それから私は私自身の心臓の鼓動を聞く。

ヤバいな.....治らない。

治るわけないよな。

だって愛しい人だから。

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