第14話 自殺の過去
☆双葉サイド☆
私は目の前に居るお姉ちゃんを見る。
お姉ちゃんは私から視線を外しながら目の前を見ている。
このままでは休み時間が終わってしまう。
私は立ち上がる。
それから、私は戻るけど。.....お姉ちゃんはどうするの、と聞いてみる。
するとお姉ちゃんは、私はもう少しだけここに居る、と回答した。
「この場所に居るのは良いけど迷惑掛けないでね。糸永先生とかに」
「あはは.....厳しいね。双葉」
「当たり前でしょう。お姉ちゃんは何をするかも分からないから」
「それもそうか。私の価値はナッシングに近いもんね」
「0に決まっているでしょ。浮気したのはお姉ちゃんだから」
「.....そうだね」
それからお姉ちゃんは疲れた様な態度を見せる。
その姿を見ながら、本当に浮気相手と別れてよ。お姉ちゃん、と釘を刺した。
隙あれば浮気するだろうし。
思いながら私はお姉ちゃんを見る。
お姉ちゃんは、.....そうだね、と同じ様に返事をしながら膝を抱える。
「お姉ちゃん。お願いだから本当に反省して。.....思った以上に私もお兄ちゃんもみんなもダメージがデカいんだから」
「分かってる。.....分かる」
「姉妹としての縁も切りたくなるよ。これじゃあ」
「そうだ.....ね」
そして泣き始めるお姉ちゃんを置いてから。
私は表に出る。
すると佳代子が立っていた。
飯山佳代子(いいやまかよこ)。
私の友人である。
16歳、一つ編みの泣きぼくろのある少女。
頭脳が良く私に張り合っている感じのライバルでもあり大親友の。
「聞いたよ。双葉」
「佳代子。もしかして.....お姉ちゃんの浮気を」
「そうだね。正直言って穢らわしいけどだけど双葉のお姉ちゃんだから」
「.....まあそうだね。.....あんなのでも仮にもお姉ちゃんだし。まあ大切だから」
佳代子はその言葉に私に苦笑する。
それから、そうだね、と目線をずらす。
私はその顔を見ながら私も目線を逸らす。
何が起こっているのか。
それは簡単だった。
佳代子にも10歳離れた姉が居た。
昴(すばる)さんという姉が。
元この学校の生徒会長でメチャクチャに天才だったらしい。
だがその昴さんは自殺した。
その自殺理由は。
今も分からないままらしいが。
だから私を大切にする。
お姉ちゃんを大切にする。
どんな形であれ姉妹だから、と。
「自殺だけはさせちゃ駄目だよ。あれは周りに迷惑ばかりで憎すぎる。気を付けないと」
「昴さんの事もあるしね」
「そうだね。だから見守らないとね」
「そうだね.....」
そして私達は1年生の教室に戻る。
その際に保健室をもう一回見た。
それから階段を登って行く。
今の行為は何だろうか。
強迫観念だろうか。
☆一葉サイド☆
私は教室に行く気も起こらなかった。
多分こういう噂は蔓延している。
そもそも私の噂は元から良く無いものだ。
私は考えながら丸まった膝を濡らしていた。
涙が、止まらない。
馬鹿だなぁって思って。
「一葉さん」
「.....糸永先生?」
「随分とこの場所に居るけど。もう戻らないと」
「3時間目ですしね」
「そう。だから.....」
すると私の横に腰掛けた糸永先生。
それから私を見てくる。
30代ぐらいの女性の先生だが。
何か抱えている様にも見える先生。
私よりも更に重い物を抱えている様な。
「戻りたく、帰りたく無いです」
「.....何かあったのかしら?」
「.....ちょっと彼氏とかに嫌われまして」
「.....そうなのね」
じゃあ今日の放課後までこの場所に居るかしら?、と言ってくる糸永先生。
私は構わないわよ。教員を説得してくるわ、と言ってくれる。
その言葉に私はのそのそと動き出す。
それから糸永先生を見上げる。
そして控えめの笑みを浮かべた。
「非常に有難いです。でももう戻らないと」
「ふむふむ。偉いわ。そう思えるだけ」
「先生。実は私。彼氏以外の人と浮気しまして」
「そうなのね」
「私自身が周りを裏切ってしまって。.....そして罰を受けました」
「それで睡眠不足なのね」
その言葉に涙を浮かべながら、はい、と答える。
すると糸永先生は、私は.....そうあっても立ち直る事が出来ると思うわ、と天井を見上げる様にする。
糸永先生?、という感じになる私。
そうしていると糸永先生は、私は女子生徒を自殺で亡くした、と自嘲する。
「その女性もハメを外しすぎたと反省して生徒会長をやっていた。.....かれこれ15年ぐらい前の話ね。.....昴っていう女子生徒なんだけど」
「昴?それって飯山昴さんですか?」
「あら。知っているのかしら」
「.....私の妹の友人の女子生徒の.....名前です」
そんな言葉に。
そう、と言いながら靴をまるでサンダルの様に脱ぐ先生。
それからつま先で行儀悪く靴を弄り始める。
私はその姿を見ながら目の前を見る。
昴は私の生徒。卒業生だった、と切り出す。
「この学校がその。今は県立のまともな高校だけど不良校だったって知ってるかしら。15年前.....ぐらい前までね。.....その中で統率力が取れていたのが.....飯山昴だったの。彼女は生徒会長であり、ね。歴代の生徒会長の中でも素晴らしいって思うわ。その手腕はベストだった。そして学長と共にこの学校を改革したの」
「え?.....す、昴さんが?」
「そうね。まあその自殺で失ったけどね。.....自殺理由は不明。何で自殺したのかも分からないわ」
そういう事は初めて聞いた。
思いながら私は複雑な顔をする。
すると糸永先生は、ごめんなさいね。話の論点がズレて訳が分からない事を言って。私が言いたいのはね。貴方は確かに大きくハメを外したかもしれないけど。でも貴方自身が変わろうという気持ちがあれば変われるわ、とそう言いたいの、と私を見る。
私は目の前で何かが弾ける様な。
水風船でも弾ける様な感じを覚えた。
「.....糸永先生」
「そうやって反省した先輩も居るの。覚えてあげて」
「.....はい」
私は涙が出てきた。
そして糸永先生に抱きしめられる。
そのまま私は暫く泣いていた。
それから糸永先生に頭を撫でられる。
そうか。
私は.....今を大切にしないといけないのか、と思えてしまった。
みんな言い続けていた事を。
何で出来ないんだろうか。
そう思いながら私は気持ちと身体の重心を整える様にした。
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