第9話 『子供』である鳥籠
双葉がとんでもない所に侵入して来た。
何処にかと言えば男子トイレ。
しかも個室の中で俺の前に居る。
悪魔の様な笑顔を浮かべながら俺を見据えている。
何だ。
一体何が起こっているのだ?
思いながら俺は何とか引き剥がした双葉と見つめ合う。
「いきなり何をする。いったい何が起こったんだ」
「正直言って私は恐れているんだと思うよ」
「.....恐れている?何にだ?」
「お兄ちゃんが悪の道に走らないかとかね」
「.....ああ。それか。それは無いな」
「それからお兄ちゃんが取り込まれるんじゃないかなって」
眉を顰める双葉。
俺はその姿を見ながら顎に手を添える。
それから、それも無いな、と何かを欲しがる子供をあやす様に言う。
すると、そっか、と笑みを浮かべる双葉。
だけどもう授業始まったね、と言ってくる。
「今からでも遅くない。戻るぞ」
「嫌」
「.....いや。お前。嫌って」
「.....屋上行くよ。お兄ちゃん」
「行ってどうする。反省文を書かされるぞ絶対に」
「お兄ちゃん。私が悪い事にすれば良いの。行きたい」
我儘な子供かコイツは。
思いながら否定出来ない俺も些かゴミクズだな。
そう考えながらそのまま連れて行かれる俺。
そして人の目が無いのを確認しながら屋上に来る。
「ねえ。お兄ちゃん」
人気が全く無い屋上でそう聞かれる俺。
青空が広がっている空の下。
俺は、?、を浮かべながら目の前の手を広げている双葉を見る。
私はお兄ちゃんが大好き、と告白してきた。
「.....私に足りないものって魅力?」
「違う。お前は単純に子供だ」
「単純って失礼だね。でも確かに子供かもね。我儘だし」
「そうだな。それを変えない限りはお前は眼中には無い」
そうやってお兄ちゃんはまた私を守ろうとしているね?、と聞いてくる双葉。
それはどういう意味だ、と聞くと。
捲し立てる様にお兄ちゃんは話すよね。
私には通用しないよそれ、と笑顔になる双葉。
「.....お兄ちゃんが捲し立てるのを使う時は私を守る時か。貴方自身を守る時。だけど今は違う。私を守ろうとしているね?」
「本当にお前は何もかもがお見通しだな」
「やっぱりね。お兄ちゃんは多分そうだと思った。私が被害に遭わない様に。傷付かない様にしている。お兄ちゃんそんなに私をデリケートに扱わなくて大丈夫だよ。ダイヤモンドみたいな硬さだし」
「お前は嘘吐きだな」
双葉は、?、を浮かべて手を広げるのを止める。
それから俺を真剣な顔で見てくる。
それも嘘だ、と俺は言葉を発しながらベンチに腰掛ける。
お前は弱いんだ、と切り出す。
「.....弱い?どういう事?」
「お前は心はダイヤモンドぐらいの硬さは無いよ。俺は昔からお前を知っているんだ。それぐらい分かる」
「お兄ちゃんは何でもお見通しだね」
「それを言うならお前もだろ」
「.....まあそっか。確かにね」
それから俺を見てくる双葉。
俺はその顔を見ながら空を見上げる。
そうしてから溜息を吐く。
そして見ていた。
☆双葉サイド☆
私のお兄ちゃんはやはり私のお兄ちゃんだ。
何も昔からちっとも変わらない。
私を気遣い。
そして絶望に接しない様にしている。
だから私はお兄ちゃんが好きなのだが。
「お兄ちゃん。私は貴方を助けたいの」
「.....助けたいのは分かる。お前の事だ。多分そうだと思う」
「それが分かるならお兄ちゃん。私を守るだけは止めてほしいかも」
「.....だが」
「私は大丈夫だよ。貴方が居るから」
言いながら私はお兄ちゃんを見る。
お兄ちゃんは悩みながら手すりに手を触れる。
それから私を見てくる。
愛しい人が目の前に居るのに守れないのも子供か。
情けないものだ。
「私は子供じゃないから」
「.....それは.....まあそうだな」
「だから」
「双葉。気持ちは分かる。子供扱いするな、守るばかりはするなって話だろ」
「そう」
「でも無理だ。俺はお前を失いたくもないしな」
私はその言葉に、うん。分かる、と言う。
だけどね。
もう守られるのは終わり、とお兄ちゃんを見据える。
あ。そう言えばお兄ちゃん。私の膝擦りむいているんだ。絆創膏を貼ってくれない?、と話す。
「は?.....ああ。膝を怪我しているのか」
そして私の159センチの身長に175あるお兄ちゃんのその姿が合わさった時。
私は隙有りとお兄ちゃんの頬を持ち自らの唇をお兄ちゃんの唇に合わせた。
それからキスをする。
まさかの展開だったのだろう。
お兄ちゃんは愕然として私を真っ赤になって見てくる。
唇を離しながらお兄ちゃんに微笑む。
「お姉ちゃんは浮気した。だったらこういう事をしても良いよね。私達が」
「お、おまえ.....」
「私はこういう事も出来る。大人だよ。それどころか.....この身を授けても良い。私は貴方が好きなの」
「.....」
お兄ちゃんは横を見る。
それからそのまま何も言わなくなる。
ファーストキスだった。
完全なファーストキスである。
これまで猫や犬の様な。
ましてや人間にも口同士でした事は無い。
お兄ちゃんに分かってほしい。
私はもう子供でも無いし。
守られる側では無い。
「双葉」
「は、はい」
「.....有難う。.....それでも.....俺はお前の気持ちには応えれない」
「うん。だよね。でも大人を見せつけれたら良いの。私は」
「.....」
私はこれは好きだからキスしたのはある。
だけどそれ以外にもある。
私は大人だと。
それを宣言する為にお兄ちゃんにキスをした。
だから答えが欲しい訳じゃない。
「だけどお前の気持ちは分かった。有難うな」
「.....!.....お兄ちゃん」
「お前は大人だな」
「.....有難う。そう言ってくれて」
そう。
これで良い。
今はこれで良いのだ。
さて準備は整いつつある。
お姉ちゃんに復讐する準備が。
全てはお姉ちゃんの為なんだから。
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