【みじかい小説No.4】おばあちゃんのペンケース

くさかはる

おばあちゃんのペンケース

おばあちゃんの手先はくるくる動く。

料理をすればものの小一時間で五品くらい作ってしまうし、編み物をすれば数日でセーターを編んでしまう。


そんなおばあちゃんがペンケースを買った。

透明で、中にポケットが5つもついているやつだ。

それからおばあちゃんはペンもいくらか買った。

マジックと蛍光ペンを2本、それから3色ボールペンを2本。 

それから消しゴムも忘れずに。

それからおばあちゃんは筆記用具以外の文房具も買った。

物差しとカッターナイフと携帯ハサミ、それから封筒を開封する時に使う小さなカッターだ。

おばあちゃんはそれらをまるで元からそこにあったかのようにペンケースの中に配置すると、したり顔でこう言った。

「準備万端。」


それからそのペンケースは大活躍した。

おばあちゃんは、何か大事なことがあればすぐさまマジックを取り出して大きな文字で何事かを書いたし、ノートをとる時などは、3色ボールペンと蛍光ペンと物差しを駆使してものの見事に誰が見ても美しいノートを仕上げてみせた。

宅配便が来た時にはすぐさまカッターナイフをとりだし封を開けたし、毎日届くおばあちゃん宛の郵便を、彼女はしゅるしゅると音を立てながら小さな専用のカッターナイフで開けるのだった。


「道具はいいものを選ばなきゃ駄目よ。」

それがおばあちゃんの口癖だった。

「そして使いながらなるべく早く自分のものにしてしまうことね。」

彼女はそうも言った。


そんなおばあちゃんが亡くなって久しい。

毎日ではないけれど、私は仏壇に手を合わせながら彼女のことを丁寧に思い出す。


長じて私ははウエディングプランナーになった。

お客様の体やドレスのサイズを測るためにメジャーを用いる時、私はおばあちゃんが乗り移ったかのように感じる時がある。

メジャーをびっとかまえて、目盛を読み上げ、布に当てたりメモをしたり。

メモする際には、勿論、機能重視の3色ペンを胸元に忍ばせているのでそれを用いる。

インクがいつきれてもいいように、ペンケースの中には予備の3色ペンも入っている。

家に帰ってご飯を作る時も、こだわりの道具や食器たちが活躍する。


物には魂が宿るなんて言うけれど、私には分からない。

ただ、仏壇に添えられているおばあちゃんのペンケースを眺めながら、考える。

ペンケースと中に入っている道具たちに触れながら、思う。

少しでもおばあちゃんにあやかれたら、と。

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