第3話 悪魔との邂逅 ③
目が覚めると、僕は再びバカ広い病室のベッドで横になっていた。
僕は、パニックと恐怖で震えた。
ー何なんだ?あの、ゴツい男は…?
ドアが、いきなり横にスライドする。
「やほー、光河ー、来たよ。」
病室に、派手な女が3人ぞろぞろやってきた。
僕は、彼女達の香水の強烈な臭いと、長く尖ったケバケバしいゴデゴデしたネイル、魔女のような強烈なメイク、眩しいプラチナブロンド、ピアスにアクセサリーと、派手派手な装いに、僕は強い目眩を覚える。
「ねぇ、光河。」
中央の一番派手な女が、墨に尋ねる。
「えっ…?何でしょうか…?」
僕は、恐怖と不安感が入り混じり、ボソッと反応した。
「いつも通り、頬にキスしてよー。ここに。」
彼女は、右頬を僕の顔に近づけてきた。香水と金髪が、僕の五感を強く刺激し拒絶反応を起こした。
「あはは、もしかして、記憶喪失?大丈夫。そのうち元に戻るからさ。」
もう一人の女が、ハイテンションで笑った。
この派手な女が軍団は、僕の一番苦手な属性の女達だ。
五感をぶち殺すまでの圧倒的な存在感ー。
今まで、僕を変な目で見てクスクス笑ったり悪口言っていた女共は、皆、こういうタイプだった。
僕は、ミカちゃんとリカちゃん、あずささんを思い出し、すがる。
彼女達はスマホゲームの二次元キャラである。僕はその、ファンタジー系のゲームにはまっており、この子達によく癒やされたり褒められ心が救われたのだ。
篠山という男は、相当女癖と女の趣味が悪いと思った。クズ以下で同情してしまう。
こんな、ケバケバしい女共よりミカちゃんとリカちゃん、あずささんの方がずっといい。
彼女達は純真無垢で、暖かく癒やしの存在だ。ミカちゃんは、天真爛漫で元気を貰える、リカちゃんはおしとやかで芯が強い。
あずささんは、清楚なクールビューティな女性だ。
しかし、この女共ときたら何なんだ?
声が甲高くうるさいだけで、
上品さの欠片もない。
ただただ不快な存在である。
僕は、強く吐き気を催す。
生理的な嫌悪感が強くある。
女は、二次元の方が断然良いに決まっている。
再びドアが静かにスライドし、山本が入ってきた。
彼は、胸ポケットからリモコンを取り出すとピッと音を立てた。
女達は、動きを停止した。
僕は、驚き上半身だけ起こした。
「え…?どうなって…」
「すまない。君を試していた。コイツらは、我が社お手性のマシンだよ。極限まで、人間まで近づけることに成功したのさ。」
「…」
よく見てみると、確かに女が達の瞳が造り物っぽい。生身の人間は、瞳がより複雑で柔らかい。
「これは、訓練…言わばソーシャルスキルトレーニングの一貫だ。君が、篠山光河としての人生を歩むためのね。」
「あ、貴方方は、一体何なのですか…?僕は、どうして、どうしてここにこうしているんですか…?」
さっきの鬼山の件で、僕は強いパニックでガクガク震えた。
「だから、私はニューホライゾンの科学者だよ。ああ、あの鬼山なんだが、済まなかった。君を巻き込んでしまって…あと、無断での外出は、今後控えて頂きたい。危険が想定される。」
山本は、表情を微動だにせず淡々と話した。サイコパスか、コイツはー?
「だから、何がなんだかさっぱり分かりません!僕が、どうして…!?」
僕は、布団を強く握りしめ口調を強めた。
「その『どうして』とは、君が何故択ばれたかということなのかね…?」
「そうです…僕は、ただの何もない一般人です。何故、僕を選んだんですか?」
「君の母親なんだが…実は、コチラに多額の借金があってな…その借りを君に返してほいと言うのが本当の理由だ。そして、我々は、丁度、亡くなった篠山光河の代わりを探していたところだったんだよ。そこで、試しに君についてあれこれ調べ、能力者かどうか調べさせてもらった。君の身体は頑丈で、電気体質ときた。」
僕は、母に愕然とした。ニューホライゾン社は多岐の事業に携わってきた。教育、科学、環境、社会、宇宙開発、ロボット開発、福祉などあらゆる分野に精通している。確か、この会社は、借金の連帯保証を受け持つ事業も展開していた。
母は、ずっと、アルコールにギャンブルに明け暮れていたのだから、パチスロの中毒にでもなっていたのだろうー?
そして、確かに僕の身体は頑丈に出来ている。風邪や熱には滅多に掛かったことも、骨折や病に掛かったこともほぼない。
今まで、余りに身体が頑丈過ぎるゆえ、幾度となく自殺を試みても未遂に終わったのだろう。
そして、今回の自殺未遂も、精巧で致死率の高い爆弾を使い爆死する予定の筈だった。
だが、身体の皮膚が大火傷を喰らうくらいで内蔵には何の損傷がない状態だったのだろう。
どうやら、自分は何をどうしても死ねない絶望的な体質なのだ。
肝心な母とは、粗悪な関係だ。
僕が死んだことになったとしても、母は普段通りにパチスロを打ち続けるのだろうー。
「この仕事は、非常に危険が伴う。未知なる能力を使い、法を潜り抜け犯罪に手を涅める連中を捕らえるのが我々の仕事だからだ。そして、その攻撃に耐えれそうな強い抗体を有した者が、極秘警察『パンドラ』に選ばれるのだ。」
今から50年程前ー、遺伝子の突然変異によりトワイライトと、呼ばれる異能力者が出血した。
彼らトワイライトは、災害や敵国からの侵略から人々を守り、重宝されてきた。
そんな中ー、良いように利用され恨みを持つ者や調子に乗り出す者まで現れ、彼らのような人は、やがて己の力を使い殺戮を行うようになった。
その中で、特に殺傷能力が高いのが、ずっと前に山本からプロジェクターで見せてもらった面々なのだ。彼らは、極めて危険であり善良な市民に対しても容赦なく殺戮する。
僕は、あの連中を、思い出した。
巷で話題の、凶悪犯ばかりだ。
ふと、僕は収入が気になり、とりあえず聞いてみることにした。
ー月50万から、60万位だろうかー?
「すみません…報酬は、報酬は幾らになるのでしょうか…?」
僕は、恐る恐る尋ねた。この仕事は、あまりにもリスキー過ぎる。仮に、これからこんな危険人物達と対峙していくことになるだなんて…精神が保たない。しかも、今、現在、イマイチ状況が飲み込めず、頭は未だにパニック状態だ。せめて、収入が良くないと割に合わない。
「報酬は、基本給が100万円。一人の犯人検挙でプラス50万~想定している。そして、この仕事は、かなりハードだ。傷病手当は、30万から状況に応じて、支給していく。因みに、雇用保険や健康保険は全部コチラの負担だ。それなりにハードな仕事だということは分かって頂きたい。」
「こ、これは、月の報酬ですよね…?」
「何?もっと上げてほしいのか?君の能力次第ではあげられなくもないが…」
「い、いや、…でも、信じられなくて…」
「これが、証拠だよ。雇用契約書だ。サインを頂きたい。」
山本は、手元にあるファイルから紙とボールペン、朱印を取り出した。
紙を差し出され、その内容を改めて確認する。僕は、再び目眩を覚えた。
破格の報酬だ。
今まで、時給900円の作業所で、保険無しの月8万そこそこしか稼げなかった状況だったが、それが非現実的なものと変わった。煉獄から急に異世界へと引き上げられ、本来喜ばしい数字ではあるものの、僕は頭がクラクラしてしまった。
「では、ここの書面にサインして頂きたい。」
「…」
僕は、ゴクリと唾を飲む。
「光河君。君の経歴は、全て調べさせてもらったよ。機能不全家族、親との中は最悪。長年、友達ゼロ。恋愛経験ゼロの童貞。容姿は冴えない。視力0.1の近眼で分厚い眼鏡。重度のトラウマ抱えptsdになる。コミニケーション能力低い。知力学力低い、何処の職場でもうまくいかず職を点々とし、ブランク期間も長い。低所得者で貯金も少ない。年金滞納。恐怖心が強く、新しい事に対する不安感が強く常同性を望む。」
「…やめて下さい!」
僕は、自分のテリトリーを侵食された強烈な不快感から咄嗟に山本を制した。だが、山本は、僕を無視しそのまま話を続けた。
「君をバカにしてきた人達は、容姿がよく友達にも能力的にも恵まれ、それなりの大学を出て仕事も順調で大企業に勤め、恋人でき、家庭を持つ…ああ、これは、いけないな…ここで変わらなきゃ、君は永遠に惨めな地獄から抜け出せない。君は、彼らをギャフンと言わせたくは無いのかね?」
山本のその挑発めいた言葉から、僕はハッとした。
「君は、このままずっと、救いようのない悲惨な人生ままでいいのかね?逃げるのは、簡単だよ。だがな、容姿が良いだけで中身はスカスカなら誰に見向きもされないな…」
山本は、わざとらしく首を横に振り更に追い打ちをかけた。
僕の今までの、惨めな半生が脳内でフラッシュバックした。
僕は、コミニケーションも、勉強も仕事も駄目…今までバカにされ罵詈雑言を浴びてきた日々…
何をどう頑張っても、人並み以下の人生ー。
いつまで続くか分からない、煉獄のような日常…永遠と闇の中を彷徨い続け、悟りを開こうにも本能では、変わりたい!と、思い続けた。
これは、自分をバカにした連中を見返してやれる、チャンスかも知れない…
僕は、山本の挑発に乗った。
ーええい、どうにでもなれ!
僕はペンを強く握りしめ、サインをし指に朱印をつけ紙にしっかり指紋を押した。
僕と悪魔の黙示録 RYU @sky099
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