第2話 悪魔との邂逅 ②

「よお、この前は、派手に散らかしてくれたな…」

鬼山は、異様に大きな声を張り上げた。

190は超えると思われる長身に、褐色の肌ー。がっちり鍛え上げられたと思われる凹凸に膨れ上がった筋肉ー。短く刈り上げた赤い髪ー。

 僕が、直感で関わってはいけないと悟る人種だ。いつも、こういうバイタリティー溢れる男達からからかわれてきた。

 彼の足元には、無惨に切り裂かれた牧山の遺体が横たわっていた。肉体から脳や内蔵が飛び出ており、彼の周りは血で広がり水溜りのような状況になっていた。あまりのグロさに、僕は目を向けた。牧山はいけ好かない奴だったが、流石にこの時ばかりは僕は彼に同情してしまっていた。


「あの…どういう事でしょうか?」

僕は、適切な回答が思い付かずありきたりな回答をした。

「とぼけるなよ。この前の」

「はあ…」

僕は、言葉に詰まった。こういう、妙に声が大きい奴が大の苦手である。

「ああ…何なんだよ?この喋り方は、覇気がない。調子狂うし苛々してしまうぜ。」

鬼山は、顔をしかめると小刻みに貧乏揺すりをした。

「あなたは、この牧山という男とどういう関係なのですか?」

僕は、とりあえずありきたりな質問をした。直感で言葉を繋げないと、まずい気がしたのだ。

「ああ、コイツか‥?コイツは、チクったんだよ。スコーピオンのメンバーにな。裏切りやがって…だから、始末した。ホントはミンチにしてコテンパンにしないと腹の虫が納らないが、雑魚相手にそこまでする気は起きないもんでね。」

「スコーピオン?」

「ああ。そうだ。」

スコーピオンとは、山本が話していた極秘警察と呼ばれる組織の事だ。確か、篠山も所属していた。例の能力犯罪者を取りしまう仕事をしていると、山本から聞いたばかりだ。

「……」

僕は、再び適当に話を繋げようとしたが、思いつかないでいた。

「突然で悪いが、お前に借りを返しに来た。」

鬼山は、急に真剣な表情になった。僕は、凍りつき身構えその場から逃げようとした。

「なあ、何処からが暴風域だと思う?」

鬼山は、じわりじわりと僕に詰め寄る。僕は、戦慄し彼と間合いを取った。

「え…?だから、何を言って…」

「風速25メートルだ。」

鬼山は、そう言うと急に消えた。

ーと、その瞬間、僕は腹部に強烈なパンチを受けたような痛みを覚えた。そして、三メートル後方まで吹き飛ばされた。


 僕は体勢を整えようと片膝をつこうとした。もう、何が何だか、さっぱり分からないー。

そして、僕の身体は見えない何かに首を掴まれ宙づりになり、バタバタ脚を揺らした。

「俺は、それより強い。…で、さっきのが風速30メートル、で、これが風速35メートル…」

鬼山は、そう言うと再び僕の腹を強くパンチした。

そして、僕は5メートル後方に飛ばされた。

腹部に襲ってくる激痛に、僕の目元から涙が溢れ出た。

僕は、次々と起こる自分の想定を遥か上をいく、イレギュラーな事態に強いパニックを覚えた。


すると、そこに防護服を見に包んだ警察のような集団が、盾を構え鬼山を取り囲んだ。

「居たぞ!鬼山だな…」

鬼山は、微動だにせず子供でも相手にするかのように軽く周囲を見渡した。

「あーあ、また現れたのか…」

「その青年を、離しなさい!」

集団の一人が、拡声器で声を張り上げた。


突然変わった自分の容貌に声、突然、押し寄せる恐怖ー。

180度変わった世界ー。怒涛の如く押し寄せ、僕は恐怖する。

僕は、身長も顔も声も変わった。全てがガラリと変わった。

 そして、急に襲ってくる混沌とした恐怖ー。

 この急な摩訶不思議な状況に、僕の頭はついていけない。

早くこの悪夢から覚めてほしいー。

 再び、僕の目元から涙がボロボロ流れてきた。この涙は、心理的から来るのか、物理的な苦しさから来るのか全く見当がつかない。ただ、言えることは怖いという事だ。

僕は、激しく震え兎のように丸くなる事しか出来ないでいた。

「ふん、何だ?ノーマルか…」

鬼山は、不敵な笑みを浮かべた。

ーと、同時に警察の一団は、一気に発泡した。無数の弾丸が、鬼山目掛けて放たれた。ーが、 次の瞬間、弾丸は弾き返され皆盾でガードした。

すると、盾が真っ二つに割れ機動隊員の身体に傷がつき、そして血塗れになった。

「これだから、雑魚は駄目なんだよ…群れれば良いと思ってる。」

鬼山は、得意気に鼻で笑う。

「その青年を、離しなさい!」

再び、拡声器から声が響き渡るー。

「だから、数より質の違いの問題なんだよ。雑魚がどんなに束になった所で、この俺様には勝てない。俺は、貴様らを殺す気にもなれやしない。」

鬼山は、軽く嘲るような目で周囲を見渡した。彼の周りには、10人もの人が取り囲んでいる。彼は、山本が言っていた凶悪な能力犯罪者なのだ。彼の強烈な自信は、どこから来てるのだろうか?


特攻隊の向こうから、少女が歩いてくるー。

色白で15、16辺りだろうか?華奢な身体つきであり、明らかに戦闘に不向きなゴスロリの服を着ている。スコーピオンの能力者だろうかー?

こんなか弱そうな少女に、何ができると言うのだろうかー?

少女は、ゆっくり真顔で鬼山に近づくー。



しばらくの間、重苦しい沈黙が流れた。鬼山は、少女の方を向き僕の首を掴んだままを止めた。


すると、鬼山は軽く舌打ちすると僕を離し姿を消した。


僕は、その場でドスッと音を立てうつ伏せに倒れた。

僕の視界は徐々に曇っていき、そこで気絶した。

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