僕と悪魔の黙示録

RYU

第1話 悪魔との邂逅 ①

 僕が目を覚ましたら、そこには無機質な不気味な広がっていた。澄み切った視界や独特な薬品のような匂いに、強い違和感を覚えた。


ここは、病院のベッドだ。僕は点滴を施され上質なガウンを着せられていた。


僕は、確か、街の中を電動のモーターボードで走っていた。その時、目の前に強い閃光が走り爆発したのだった。


僕は、かなりの近眼で眼鏡がないと世界が霧に包まれて見えまともに物が取れない。しかし、今はかなり鮮明に見える。何かレーザー治療でもしたのだろうか?



ガラガラと、ドアが開き奥から派手な女が現れた。

「光河!」

女は、涙み僕に近づいた。バニラのような強烈な香水の匂いが、彼女の亜麻色のウエーブがかった髪から香ってくる。僕は、軽く目眩を覚え軽く鼻を摘んだ。

「…誰…ですか?」

僕は身体を仰け反らせる。全く見知らぬ女の前に、状況が掴めない。

「イヤね。あやかよ。」

彼女のアニメ調のキンキンした声が、僕の耳を引っ掻いてくる。

彼女は、厚化粧で典型的なギャルな風貌をしており僕は不安が強くなっていった。





僕は、違和感を覚え辺りを見渡す。

ベットの脇の棚の上には、見慣れない上質な財布とライター、高級腕時計が置いてある。

「もー、2ヶ月も眠ったままなのよ…植物状態だって言うから…」

あやかが僕の肩をパンパン叩いた。

「この、財布は…?」

「えー?貴方のでしょぅ…?」

僕は、キツネに摘まれたような感じになり財布の中を確認する。


免許証を見ると、見慣れた美青年の顔がそこにあった。

「こいつは…」

僕の胸は、ザワザワした。一体全体、どうなっているのだろうかー?彼は、有名な極秘警察である。



あやかの腕時計型の通信機が、ピロピロなった。

「ごめん、光河、ちょっと電話ね。」

あやかはそう言うと、カツカツヒールの音を立て病室を後にした。



 僕は、自分の置かれた状況にパニックを覚えた。さっきまで目の前にいた見知らぬ女は、免許証の人間が僕だと思っているらしいー。


僕は状況を整理する為に、とりあえず脇にある所持品を確認する事にした。

僕は、1番手前にあるライターを手に取った。そして、銀色のメッキに映っている自分の顔を恐る恐る見てみる事にした。

そこには、色白の端正な顔が映っていた。僕は自分の視力を疑がい強く目を擦り、もう一度ライターを凝視した。しかし、目の前には色白の美青年の顔があった。

僕は再び強く目を擦り、ライターを見る。しかし、何度見ても同じだった。

「ぼ、僕は、どうなって…」

僕の声は、わなわな震えた。

僕は、自分の手を見る。色白の長い指がそこにある。



すると、再びドアが開き厳つい顔した白髪頭の初老の男が、姿を現した。

「調子は、どうかね?」

男は、僕の方まで近づいてきた。脇には、ノートパソコンが抱えてある。

彼は、ニューホライズン社の科学者である。確か…山本という名前だったような気がする。

ニューホライズン社は、遺伝子操作やゲノム編集などを手がけ、機械産業にまで着手し始めた。それが項を呼び、彼はマスメディアに顔が知られ巨額の富を得ている。



「君を、篠山光河そっくりに美容整形した。身長、骨格体型も、最先端の科学技術で極力彼そっくりに仕上げる事に成功したのだ。」

山本は、パンパン手を叩いた。

「…え?美容整形?どういうことですか?仕上げる?な、何の事ですか…!?」

僕の頭は混乱した。全てが受け入れ難く、理解に苦しむー。

「だから、最先端の科学の力なんだよ。これ以上は、企業秘密だ。」

「え、どういう事ですか?この亡くなった男が、免許証の人ですか?」

「ああ。そういう事になるな。」

山本は、表情を微動だにせず淡々と話した。

僕は、益々不安になり混乱しブルブル震えた。すっかり別人の姿に成り代わった自分…そして、名の知れた大富豪の科学者が目の前にいてこうして自分と話をしている。

今までの日常がー世界がガラリと変貌し、僕の思考は追いつけないでいる。夢でも見たのだろうかー?試しに、頬を摘んでみる。軽く痛みを覚えた。これは、現実なのだろうかー?


「それで、だ。君にして欲しい仕事があるのだよ。」

山本は、そんな僕を尻目に広々とした部屋の奥まで歩き隅にあるプロジェクターを運んできた。

「奴らを潰して欲しい。」

山本の表情は、急に深刻そうになった。山本は、パソコンの電源を入れ、プロジェクターと接続した。プロジェクターのスイッチを入れるとそこには、巷で有名な凶悪な犯罪者の顔がズラリと並べて表示された。

「…え?どういう事ですか…?」

唐突な仕事の依頼に、僕は動揺する。しかも、かなりヤバめな男達である。

彼らは、能力犯罪者である。能力犯罪者とは、元々は遺伝子操作により誕生した特殊な力を有する能力者である。言わば、『トワイライトヒューマン』と呼ばれている。彼らの中で、自身の特殊能力を犯罪に染める者が出てきたのだ。

しかし、目の前の彼らはかなりたちが悪く危険人物と言われているのだ。

「君にしか頼めないお願いなんだ。コイツらを捉えて欲しい。最悪、始末してもいい。」

「こ、これって…いや、無理です…僕は、まともに身体を動かす事なんてずっとしてません…」

僕は、特殊な力なんて持ち合わせてない。『ノーマル』だ。

「悪い悪い。急すぎたね。まず、この身体の持ち主の事なんだが…」

山本が再びパソコンをカタカタ打ち込むと、プロジェクターが切り替わった。

そこには、色白の美青年の姿があった。

「篠山光河 31歳。2095年5月14日生まれ。職業は、極秘警察だ。彼は、事件に逢い脳死状態になった。しかしらとある事情により彼は、生きている事にしなくてはならない。だから、我々はずっとその適合者を探していたのだよ。」

「何故、何故、僕が選ばれたのですか…?」

「君は、選ばれたのだよ。」

山本は、渋い低めの声を張り上げた。





僕は、息抜きをしようと服を着替え外に出た。篠山光河という男は、随分高級感のあるジャケットを持っていた。ジーンズも上質な素材で、年季が入っている。

僕は、事故で全身がボロボロで幸い脳だけは無事だったらしいー。僕は、死んだ事になっており急に見知らぬ男として生きていかなくてはならないー。

 

すれ違いざまの若い女達が、黄色い声を出しながらチラチラ僕を見ている。

身長185センチの高身長に端正な顔立ちー。引き締まった筋肉質な身体…

確かに、女が目を逸らさずに居られる訳がない。

今までの女達の自分に対する待遇と、随分違う。世の中は、結局容姿なのだと僕はため息をついた。

 僕は、未だに状況が飲み込めない。

金髪でピアスをつけたパンクファッションの男が、近づいてきた。

牧山だ。僕を虐めていた男だ。僕は、急にザワザワしたものを感じた。悪寒がし動悸が強くなっていく。

「よお、光河、お見舞いしに来たぞ。」

牧山は、満面の笑顔で僕に手を振った。

「…いや…」

僕は脅え、咄嗟にその場から逃げ出そうと彼に背を向けた。

「何、してんだよ…?お前、ボケてんのか?2ヶ月も眠っていたというから、心配したんだそ。」

牧山は、更に僕に詰め寄る。コイツは、いつも距離が近い。

牧山は、小柄だが人渡りが上手く僕に対していつも高圧的で威張り散らしていた。いつも誰かとつるんでおり、強い者に媚びを売るのが上手い。こんな男と、篠山は一体、どのような関係にあるのだろうかー?二人の共通項は、全く検討もつかない。

「…ああ。久しぶり…」

僕は、平静を装う。動悸が激しくなり、過呼吸を起こしそうになった。

「何してんだよ…?お前、薬飲まされたのか…?いつものお前じゃないぞ。」

「いや、別に…」

僕は、言葉が出てこない。

「いやー、あの篠里っていう男…まさかとは思ってたけど、やっぱりだったよ…死んだと知ったら、ビビっちまったけどな…」

彼の小馬鹿にした笑い声に、僕は強い怒りを覚えた。まさか、自分が事故に巻き込まれたのはこの男が関与したのだろうかー?


すると、当たりが急に小刻みに振動が入った。そして、全身に雷に打たれたかのような強い電流が流れ僕は眼を閉じ軽く俯いた。

眼前にナイフのような強い風が縦に迸る。そして、僕の顔面や首あたりに何か液体が飛び散ったような濡れた感覚を覚えた。恐る恐る目を開け真っ直ぐ向いた。


そこには、牧山の頭部が真っ二つに割れ、全身がスライスチーズのように切り裂かれた。彼の身体の内部から真っ赤な血が迸るー。


彼の血が僕に容赦なく飛び散ったのだ。


辺りに悲鳴が響き渡り、人が逃げ惑うー。



そして、牧山の遺体の後ろで空間が歪に歪み人の姿を象る。そして、それは人の顔を成し、短髪の筋骨隆々のタンクトップの大男がープロジェクターに載っていた凶悪能力犯罪者の強面の男が、そこに立っていたのだったー。


「よぉ。篠山光河。」


その褐色肌の男は、満面の笑みで威勢の良い声で手を振った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る