5. あの日の僕ら 81~85
-81 冷静さとは裏腹に-
先程美麗とキスを交わしたが故に福来子の言葉に若干の気まずさを覚えた安正は、ゆっくりと美麗の方を見た。安正の考えとは裏腹に、美麗は至って冷静だった。安正に犯人を抑えて貰うように頼んでトラックに積んであった紐を取ると、動けない様に犯人の手足を縛って吐き捨てた。
美麗「二度と・・・、私の友達に手を出すな・・・!!」
紐をより一層きつく縛った後、文香に今いる場所などを連絡して運転席へと向かった。
文香(電話)「そんな事があったのね、父さんがなかなか来ないって心配してたのよ。分かった、父さんには私から連絡して現場に向かうからそこにいるお友達に動かない様に指示しておいてくれる?」
美麗は福来子に文香からの伝言を伝えると運転席へと向かった。
美麗「福来子、今言った通り仕事中だからこの事は後で話そう。(中国語・小声で)私、もう何も失いたくないの。」
友人達に見せていた物とは真逆で何処か陰のある表情を見せた美麗はいつもより強くドアを閉めてギアを「D」に入れた、きっと王麗がこの場にいたら激怒する位に(余談ですが、桃と美麗は中型免許を取得した際にAT限定解除をしています。え、全然関係無いって?)。
香奈子のアパートに向かう車内で安正はどうする事も出来なかった、前提として言うとだが、安正はどちらとも付き合っている訳では無い。しかし、無理矢理だったとは言え、美麗と唇を重ねたのは紛れもない事実だ。
安正が焦りの表情を浮かべ続けている中、表情に未だ陰を残しながら冷静に運転していた美麗が重い口を開いた。
美麗(日本語)「ねぇ・・・、福来子の事どう思ってんの?」
安正「良い奴だよ、部内でも強い方だし。」
美麗「違う!!女としてよ!!」
安正「分かんねぇよ・・・、こんなの初めてだし。」
美麗「何、じゃあさっきのキスは同情だっての?!秀斗を亡くした私が可哀想だったから?!」
安正への強い想いが故に本気で泣きながら怒る美麗の表情を初めて見た助手席の柔道部員は思わずしどろもどろしてしまった、隣のハーフはずっと辛そうに涙を流していた。
安正は秀斗が亡くなる前の事を思い出して語った。
安正「最初は楽しそうに帰る秀斗や美麗ちゃん達を見ているだけで良かったんだ、正直俺にとって美麗ちゃんは高嶺の花だった。俺はあの輪には決して加わる事が出来ない、遠くから見るだけで良い、そう思っていた。ただ秀斗を亡くしてからずっと部屋で塞ぎ込んでて告別式にも行けない位だったって聞いたから心配していたのは事実で、鹿野瀬に呼ばれてすぐに駆け付けたんだ。
ただ松龍まで走っていた時何故か涙が出た、俺は自分勝手にだが心から誓った事があったからだ。そりゃあ決して美麗ちゃんに秀斗の事を完全に忘れてしまえなんて言えないし、俺は秀斗の代わりなんて絶対なれるとは思っていない。
でもね、こんな気持ち初めてなんだよ。以前と一緒で遠くから見ているだけでも良いから美麗ちゃんに笑っていて欲しい、ただそれだけをずっと考えていたんだ。
でも1つ知りたい、この気持ちが何て言うのか。俺が今、どういう気持ちを抱いているのかを。」
先程までの何処か陰のある表情を一変させた美麗は、再びトラックを停車して優しい言葉をかけた。
美麗「馬鹿ね・・・、それは私が貴方に対して抱いているものと一緒よ・・・。(小声で)「恋」って言うの・・・。」
美麗は涙を少量流しながら再びキスをした、安正が思った以上に長く濃厚で優しさに溢れたキス・・・。
静寂が数分の間続き、車内の2人を包んでいた・・・。ただその静寂を窓の外にいた隆彦が咳払いで払い去ってしまった。
隆彦「すまん、個人的に物凄く羨ましい光景なんだがここでは止めておきなさい。」
美麗「あ、ごめんなさい。すぐ戻りま~す・・・。」
そう、停車した場所は既に香奈子のアパートの駐車場の前だったのだ。
美麗「そうだ・・・、福来子の事・・・、どうしよう・・・。」
-82 まさかの理由での再会-
美麗のトラックが戻ってから作業は順調に進んでいた、想定よりも早く終わったが別に時給制にしていた訳ではなかったので隆彦は予定通りのバイト代を渡した。
隆彦「さぁ、松龍で呑もうか。」
美麗「あ、ごめんなさい。今の時間、店閉まってます。」
ランチタイムからずっと鍋を振っている両親を気遣った美麗の案で、最近はランチタイム終了後から3時間程中休みを挟む事にしていた。
美麗「17時から営業を再開しますので、それではだめですか?」
隆彦「じゃあその時間に「吉馬」で予約をお願いします。」
美麗は人数を確認するとそこに1人足して店に予約の電話をした、何故か中国語で。
美麗(中国語)「もしもしママ?17時で予約って出来る?」
王麗(電話・中国語)「日本語で話さんかい、父ちゃんが出たらどうすんだい。」
美麗(日本語)「ごめんごめん、それで予約は大丈夫?」
王麗(電話・日本語)「大丈夫だけど、あんたトラックはどうしたい?いつ返してくれんの?」
美麗「もうすぐ返すから安心してよ、ママ。」
王麗(電話)「あんたまさか、ママの68でビール取りに行けとか言うつもりかい?昔あんたにも貸した漫画の豆腐屋じゃあるまいし、あれじゃ全部積めないから早くして頂戴。」
今日は卸業者に注文したビールを取りに行く予定だった、隆彦からバイト代を受け取った美麗は急ぎで店に戻って駐車した、まさかのドリフトで。
店からその様子を見て驚いた王麗が飛び出して来た。
王麗「あんたは馬鹿か、真希子じゃないんだからやめとくれ!!店が壊れるだろ!!」
するとトラックでのドリフトを目撃して王麗の言葉を聞いたあの女性が口を挟んだ。
女性「何言ってんだい、私でもトラックでドリフトなんて出来る気がしないさ。してたのは渚だよ。後でテクニックを教わらなきゃね。」
王麗「あら真希子じゃないか、こんな時間にどうした?」
真希子「何言ってんの、テイクアウトの炒飯を予約してたじゃないか。」
王麗「それは17時の予約だろ、それに今は中休みでガスボンベの入れ替えをしているから作れないよ。」
真希子「そうなのかい、それじゃその時間帯にまた取りに来るわ。」
すると店の裏から店主の龍太郎が歩いて来た。
龍太郎「16時で良かったらいいぞ、もうすぐ入れ替え終わるらしいし炒飯だったらすぐ作れるからな。」
真希子「中休みなんだろ、良いのかい?」
龍太郎「他ならない、真希子ちゃんの頼みだからな。お安い御用さ。」
真希子「そう言えば美麗(みれい)ちゃんが帰ってきているならうちの守ももうそろそろ帰って来るかもね。」
王麗「守君なら17時位に来ると思うよ、それにしてもあんた、いつもの軽じゃなくて今日はスルサーティーなんだね。」
真希子「久々にそこの山を流そうと思ってさ、山頂でここの炒飯食べると美味しくてね。」
王麗「今守君がどうしているか美麗(メイリー)に聞いてこようか?」
真希子「ああ、良いよ。山から帰った後、家に車(こいつ)置いてきたら来るさね。」
王麗「そうかい、じゃあいつもの席空けとこうかね。」
ちょうどその頃、意外と早く引越しのアルバイトが終わったので好美や美恵達は予約までの空き時間を利用して香奈子の案内で佳代子のお見舞いへと向かった。無菌室で数年振りに会った叔母の姿は好美の記憶とはまるで別人の様に違っていた。
好美「佳代子・・・、おばちゃん・・・?」
佳代子「その声はもしかして・・・、好美ちゃんかい?どうしてここが分かったんだい?」
香奈子「私が連れて来たの、ダメだった?」
佳代子「いや、嬉しいよ。ありがとうね。」
好美「おばちゃん、もう1人いるんだけど・・・。」
好美は外部と無菌室を仕切る透明な窓ガラスの方を向いた、外では美恵がずっと背を向けて富貴から病状を聞いていた。久々の再会に緊張しているのだろうか、若しくは自分の姉がこんな所で入院している事を未だに信じる事が出来ないでいたのだろうか。
佳代子「まさか・・・、美恵かい?来てくれたのかい?」
美恵「姉ちゃん・・・、何でこんな事に?」
-83 実に良かった再会と嫌な予感がする再開-
佳代子に声を掛けられ、無菌室に入った美恵は眼前に広がる光景を未だに信じる事が出来ないでいた。まさか本当に自分の姉が自分と同じ地域の病院の、しかも無菌室に入院しているだなんて。
美恵「姉ちゃん、家を出て行ってからずっとどうしてたのよ。」
佳代子「こっちにあった小さな工場で働いて、結婚前に子供が出来たって報告したらドヤされて、嫌になって相手が経営するコンビニに住み着いて・・・、ずっと好き勝手していたから多分魔が差したのよ。」
いくら目の前の姉が言った通りだとしてもあんまりではいかと悲しくなった美恵、しかしこんな形であれ再会できたのは喜ばしい事だった。
美恵「プリン・・・、覚えてくれてたんだ。」
佳代子「あれは完全に私が悪かったからね、ずっと引きずっていたんだよ。あんなので良かったら許しておくれ。」
美恵「許すも何も、数十年越しのプリン、堪能させてもらったよ。」
佳代子「そうかい、そう言って貰えると助かるよ。」
佳代子は久々に会った姪っ子に改めて目線を向けた。
佳代子「好美ちゃんも来てくれてありがとうね、もう大学生なのかい。あたしらも歳を取った訳だ。」
美恵「姉ちゃん、好美は香奈子ちゃんと同い年で同じ大学だよ。ただ最近親戚同士だって知ったらしいけどね。」
佳代子「そうかい、あんな事があったから仕方ない事さ。」
美恵「あんな事?」
佳代子は香奈子との過去を自分からの目線で話した、事情がどうあれ離れ離れになってしまった親子の話に妹と姪っ子はずっと涙を流していた。
美恵「姉ちゃんも大変だったんだね、また会えるなんて思わなかったはずだからよっぽどじゃなかったのかい?」
佳代子「そりゃそうさ、ずっと待ってた瞬間がやっと訪れたんだ。自分がこんな姿でなけりゃもっと良かったのに。」
香奈子「ごめん、お母さん。もうそろそろ行かなきゃ、今から引っ越しの打ち上げだから。」
佳代子「あら羨ましいじゃないか、楽しんでおいで。」
予約の17時、「吉馬」の名前を聞いた王麗は人数を改めて確認した。
王麗「あれ、おかしいね・・・。ちょっと待ってくれる?」
王麗は2階の部屋で着替えを終えた美麗に話しかけた。
王麗「美麗、あんた予約が1人多いんだけどどういう事なんだい?」
美麗「後で分かるよ・・・。」
1人少ない状態で隆彦たちは席に案内されて乾杯を交わした。数分後、松龍の前にあの福来子の姿が。
王麗「もしかして、もう1人って福来子ちゃんの事だったのかい?」
美麗「うん、だから言ったじゃん。」
そう、美麗は空き時間の合間に福来子にメッセージを送っていたのだ。
美麗(メッセージ)「あの話を吞みながらでもしない?その方が福来子も話しやすいと思ってさ、席取っておくから良かったら来て。」
福来子は迷いながらも松龍へと足を運んだ、王麗が笑顔で手招きして店へと誘った。
王麗「久しぶりじゃないか、元気そうで何よりだよ。ほらおいで。」
王麗に導かれるままに店に入った福来子は、カウンターで美麗が用意していた席へと座り1杯目から紹興酒を頼んだ。
美麗「大丈夫だった?」
福来子「うん、犯人は来てくれた刑事さんがすぐに逮捕してくれたから大丈夫だよ。」
気味が悪い位に福来子に優しく話しかける美麗、これは何かの前兆なのだろうか。嫌な予感がした福来子は何かに備える様に紹興酒を数杯お代わりして煽った。
-84 分かってた-
妙な位の優しさを見せる美麗に少しだけだが気味悪さを感じた福来子、一先ずビールから呑むつもりだったが美麗に勧められたので店で1番高い紹興酒を何杯も煽っていた。
美麗「ごめんね福来子、急に呼んじゃって。用事とか大丈夫だった?」
福来子「あっても呑んじゃったからもう行けないよ、誘ってくれてありがとうね。」
福来子は美麗の左手首を見て驚いた、ぐるぐるに包帯が巻かれていたのだ。
福来子「そんな事より、左手どうしたの?」
美麗「犯人を投げた時にちょっと捻っちゃって、あいつ思ったより重くてね。」
福来子「怪我してまで私を助けてくれるなんて、あんた本当に良い奴だよ。」
美麗「友達だもん、当然の事じゃない。」
福来子は丁度目の前にいた王麗に瓶ビールとグラスを2つずつ注文して美麗に手渡すと、ゆっくりと注いでいった。
福来子「奢らせてよ、今日のお礼がしたかったの。」
美麗「本当、大した事してないのに何か悪いね。」
顔を赤くした美麗は頭を掻きながら注がれたビールを吞み干した、酒が入ったからか、それとも照れからだろうか。
福来子「ねぇ、何か聞きたかったんじゃないの?」
美麗「何でよ、ただ呑みたかっただけよ。」
福来子「じゃあ何で皆と離れた所で?ちょっと不自然じゃない?」
いつも座っている定番の座敷での呑み会を楽しむ好美達の中に安正の姿を発見して質問した。
美麗「バレたか、実は安正・・・、君の事なんだ。」
福来子「やっぱり?そんな気がしてた。」
美麗「ねぇ、福来子は安正君の事どう思ってんの?」
福来子「「憧れている人の1人」って言えば良いのかな、柔道着着て汗を流す姿とか特にそう思っちゃうの。」
美麗「福来子さっきさ、「大好き」って言ってたよね。それって仲間として?それとも男として?」
福来子「・・・。」
福来子は空いたグラスを握りしめて沈黙した、美麗の核心を突いたこの質問への答えを誤れば美麗との仲はどうなるのだろうか、想像すると怖かった。
福来子「あんた付き合う事になったんでしょ、安正君と。」
美麗「うん・・・、トラックの中で「彼女が欲しい」って言ってたから思わずキスしちゃった、私の気持ちを知って欲しくて。」
福来子「美麗らしいね、1度あんたになってみたいわ。」
福来子は美麗に笑いかけるとグラスにビールを注いで一気に煽った、さっきまでの沈黙がまるで嘘の様だ。
福来子「さっきの答えになるか分からないけど、敢えて「両方」って言っておこうかな。」
美麗「アハハ・・・、福来子らしい答えだわ。」
高校時代から返事を濁す事が多かった福来子、久々に聞く福来子の言葉に思わず笑みがこぼれた。
福来子「ねぇ、注がせてよ。」
美麗「う・・・、うん。」
美麗は急ぎグラスを空け、瓶を持つ福来子に向けた。福来子もまた先程と同様にゆっくりとビールを注いだ。
福来子「ねぇ、お祝いさせて。私の大事な仲間を宜しく。」
美麗「私にも注がせて、乾杯しよう。」
美麗も福来子がした様にゆっくりと注ぎ、2人は笑顔で乾杯した。2人が呑んでいると王麗が餃子を1皿持って来た。
王麗「これサービス。(中国語)美麗、紹興酒代はあんたの小遣いから引いとくからね。」
美麗(中国語)「嘘でしょ?!」
-85 最悪の1日-
楽しそうに初めての紹興酒をずっと楽しむ福来子の横で、王麗の一言により顔を蒼白させる美麗。実は美麗の小遣いは松龍でのお手伝いによる時給制となっているのだが、隣の友人が呑んでいる酒は1杯の金額が2時間分の時給をはるかに超えている物だったのだ。
美麗「ねぇ・・・、ビールにしない?福来子、ビールの方が好きでしょ?」
福来子「そんな事無いよ、これ美味しいね。もっと貰おうかな。」
美麗は今日1日かけて折角引越しの手伝いをしていたのに、全てが水の泡と消えてしまう気がしてならなかった。
そんな中、好美は1つ疑問に思っている事を香奈子にぶつけた。
好美「ねぇ香奈子、確かあんたこのマンションでも部屋借りてるよね。そこはどうするの?」
香奈子「ああ、あそこね。あそこは別の目的で借りてるの、このマンション防音だからバイオリンの練習をするのに丁度良くてね。一応寝泊まりできるようにベッドとか冷蔵庫を置いてる訳。」
隆彦「そうなのか、実はうちの部屋も防音にしているんだよ。俺も趣味程度だがギターやドラムをするからな。良かったらどうだ、ここの部屋も解約してそこの家具や家電もうちに持って来ないか?」
香奈子「実はそうしようと思ってたの、勿論好美にもちゃんと言おうと思ってたんだけど忘れてて。好美、ごめんね。」
好美「良いのよ、気にしないで。」
そんな中、離れた所で呑んでいた2人が座敷にやってきた。福来子が高級な紹興酒を片手に顔を赤らめている。
美麗「ねぇ、何か良さげな話が聞こえて来たんだけど。」
好美「香奈子がここの部屋も解約するんだって、それでまた引越ししないといけないかもだってさ。」
美麗「いつ?」
隆彦「そうだな・・・、来週の土曜日はどうだ?解約の手続きとかもあるだろうから。」
香奈子「助かるよ、じゃあそうする。」
美麗「ちょっと待ってね。(中国語)ママ、来週の土曜日またトラック貸して?」
王麗(中国語)「あんたまたドリフトしようとして無いかい、そうだったら勘弁してほしいんだけど。」
美麗(中国語)「違うって、香奈子の家具をここの部屋から運ぶのよ。紹興酒代稼がなきゃ。」
王麗(中国語)「よく分かっているじゃないか、だったら行ってきな。(日本語)吉馬さん、うちの美麗をお願いしますね。何でもすると思うのでこき使ってやってください。」
美麗(日本語)「ちょっとママ・・・。」
王麗「今美麗から聞きましたのでまたトラックお貸ししますね。」
隆彦「すみません、本当に助かります。」
隆彦の横で呑んでいた香奈子は懐から小さな紙袋を取り出した。
香奈子「裕孝、今日誕生日だったよね。おめでとう。」
裕孝「ああ・・・、ありがとう。」
香奈子「どうしたの?何かあった?」
裕孝「ううん、何でも無い。」
何処か浮かばない表情をする裕孝を遠くから決して見逃さなかった龍太郎は、調理場の奥から裏庭に来るようにと手招きした。
以前守にしたみたいに瓶ビールを手渡し、自分は煙草に火をつけた。
裕孝「頂きます・・・。」
龍太郎「裕孝、お前折角恋人が贈り物をしてくれたのにそんな顔をしてたら香奈子ちゃんが浮かばれないぞ。」
裕孝「うん・・・、実は毎年の「今日」と言う日が好きになれなくてね。」
龍太郎「誕生日なのにか?」
裕孝「実はさ、両親が離婚してからは親父と住んでいたんだけど中学校時代のある誕生日を境に親父が態度を急変させてね、やたらと俺に厳しくするようになったんだ。その日は母ちゃんや兄貴もお祝いに来て昼飯に大好きな炒飯を作ってくれたんだけど全部親父に食われちゃったしさ。その日に開催されてた地域の運動会に行こうと思ってたんだけど、親父に家に監禁されてね、1人ずっと泣きながら勉強させられてたんだ。
その日の夕飯は俺のリクエストを優先してくれるって言ってた母ちゃんを悪いと思いながら試して「ステーキじゃなくて焼肉」って言ったら「運動会の種目で兄貴が優勝した」って理由で兄貴のリクエストの「ステーキ」が出ててね、「裏切られた」と思った俺は思わず号泣しちゃったんだ。その日は夕飯を食べる気になれなくて泣いたまま寝ちゃった事を覚えているよ。」
龍太郎「そんな事があったんだな、でも今は今だろ。素直に受け取ってやれ。」
裕孝「うん・・・、そうだな・・・。」
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