5. あの日の僕ら 66~70


-66 新たな修羅場-


 2人が激しい大人のキスを交わしてからしばらく経った後、コンビニの仕事が休日だった隆彦が病室に入って来た。


隆彦「おはよう御座います、もしかしてお邪魔でしたか?」

裕孝「いえ、決してそんな事は。店長さん、お越しくださってありがとうございます。」

隆彦「いえいえ、大したことではありません。個人的に香奈子・・・、さんの事が心配でしたので。」

香奈子「あの・・・、私店長さんに名乗った事ありましたか?」


 香奈子の質問を聞いて慌てふためいた様子で辺りを見廻していた隆彦。


隆彦「ほら、そこにお名前が書かれているじゃないですか。枕元にある札です。」


 隆彦は入院患者や担当医師、そして担当看護師の名前が記載されている名札を指差した。

 慌てながら隆彦が名札を指差した数秒後に忘れ物に気付いた光江が病室に入って来た。


光江「ごめんなさい、私ティッシュ忘れちゃって。この部屋に無かった・・・、か・・・、な・・・。」


 隆彦の姿を見た瞬間、光江は思わず首にかけていた聴診器を落としてしまった。


光江「隆彦さん、どうしてここにいるんだい!!あんたは決して香奈子ちゃんと会っちゃいけないって事になっていただろう!!」

隆彦「待ってくれ光江さん、私は正体を明かしていない!!決して明かさずにただのコンビニの店長のままでここから立ち去るつもりだったんだ!!」

光江「そんな問題じゃないだろう、佳代子に見つかったらどうするつもりだい?!」


 香奈子は目の前で繰り広げられる会話の意味が一切分からなかった、まず自分についての情報を訂正する必要があったからだ。


香奈子「待ってください!!一切話が見えてきません!!ちゃんと分かる様に説明して下さい!!」

光江「それもそうだろうね、隆彦さん、そろそろかなちゃんに本当の事を話す時が来たんじゃないのかい?」

隆彦「そうだな・・・、山板香奈子さん、いや香奈子!!君の本当の名前は吉馬香奈子というんだよ!!」

香奈子「何が何だか分かりません、順を追って説明して下さい!!」


 香奈子がこの様な反応をするのは当然の事だ、突然自分の本当の父親だと言われても誰だって動揺するに決まっている。


光江「私から説明するよ、あんたはここにいる隆彦と私の古い友人である倉下佳代子(くらしたかよこ)の間に生まれたんだ。しかし双方の両親が2人の結婚に反対して結ばれる事は無かった、故に離れ離れになった2人は既に佳代子のお腹の中にいたあんたをどうするか悩んだ。その時だ、当時子供が出来ない事に悩んでいた山板家が養子を募集していた事に目を付けてそこにあんたを預ける事にしたんだ、素性を全く明かさずに。

 これで分かったかも知れないけど、あんたは隆彦の娘で刑事をしている文香ちゃんの腹違いの妹、そしてこの前お見舞いに来ていた好美ちゃんの従妹なんだよ!!」


 その時、香奈子は全てが繋がった気がした。先日、すっかり冷え切った深夜におでんを無料で提供してくれた事、自分が救急車で搬送された病院を必死で探してくれた事、そして名乗っていないにも関わらず自分の名前を知っていた事。


香奈子「あ・・・、貴方が私のお父さん・・・?」

隆彦「ああ、黙っていて悪かった。本当にすまない事をした!!許してくれなどとは言わない、ただせめて今まで辛い思いをさせてしまった事を償わせてくれ!!」

香奈子「お父さん・・・!!」


 香奈子は涙ながらに久々に再会した本当の父に抱き着いた、山板家の人間が決してお見舞いに来なかったのも本当の家族では無かったが故だと裏付けることが出来た。しかしいくら何でも冷たすぎやしないだろうか、香奈子にとって酷すぎる扱いでは無かったのだろうか。


隆彦「私も探偵などを使って調べてはいたのだがあそこまで酷い物だとは思わなかった、香奈子には本当にすまない事をしたと思っているんだ。」

裕孝「じゃあ何ですぐに助けなかったんだよ!!大切な家族だろうが!!」

隆彦「私だって救いたかったが養子に出す時に契約書を書かされたんだよ、成人するまでは香奈子の養育に関して一切介入しないと言うね。本当は、私も泣きたかった!!」

裕孝「香奈子の辛さは考えなかったのかよ、それでも親と名乗るつもりかよ!!」


-67 朝の一杯をきっかけに-


 突然の事だが、時は20年以上前に遡る。当時多方から借りた多額の借金を抱えながら街の小さな工場で働いていた隆彦は当時巷で流行り出したコンビニのオーナー兼経営者に自分もなろうとしていた。

 店の内装や商品の配送ルートはコンビニ会社が決めた通りに従ったが、海の見える場所に出したいと言う唯一のこだわりは通して貰える事になった。

 ただ問題が1つ発生していた、「予算」、そう金だ。コンビニ会社から定時された予算額を見た隆彦は途方に暮れていた。

 一瞬儚い夢だと諦めかけていた隆彦に声を掛けたのが、後々香奈子の育ての親となる友人の山板信三(やまいたしんぞう)夫婦だった。2人は夫婦共に大規模な投資ファンドを立ち上げた企業家で、莫大な総資産は5兆円を軽く超えていた。


信三「半分出してやるから、共同オーナーになっても良いか?」


 前妻に先立たれ、共に遺された当時幼少だった文香にろくに食べ物を与える事も出来なかった事を悔やみながら、当時の安月給から生活費を削って費用を搾り出していた隆彦にとっては願ってもいない話だった。

 これが世の中で言う「渡りに船」という奴だったのだろうか、ただこの事が全ての始まりになるとは隆彦は想像も付かなかった。

 その頃、隆彦には密かに想いを寄せる女性がいた。そう、同じ工場で事務員として働く佳代子であった。


佳代子「おはようございます、吉馬さん。」


 佳代子は水出しをしたばかりで冷えた緑茶を隆彦に手渡した、これは隆彦にとって朝一の楽しみになっていた。


隆彦「おはようございます、いつもすみませんね。」

佳代子「これ位構いませんよ、自分のお茶を淹れるついでにしている事ですから。1杯も2杯も大して変わらないじゃないですか、でもこの事は内緒にしておいて下さいね。」

隆彦「えっ・・・、それって・・・。」

佳代子「ごめんなさい、気にしないで下さい。」


 佳代子は少し顔を赤らめていた、実はこの朝一のお茶は決して工場長含む他の工場員には出す事は無かったそうだ。本人は「出勤時間が殆ど一緒だから」と胡麻化していたのだが、この事は数年前に佳代子がこの工場で働く様になってからずっと続いているので「いくら何でも出勤時間が被る事が何年も続く事が」不自然に感じていた人間もちらほらといたという。

 しかし、佳代子の顔を見れば一目瞭然だった。そう、2人は互いに両想いだったのだ。しかし恥じらいからか、別に「工場内恋愛禁止」という訳では無かったのにも関わらず互いに意識し過ぎて自分達の想いを伝える事が出来ずにずっとモジモジとしていた。

 そんな中、工場の近くにある安い居酒屋で月に一度行われる女子会でシャンパン片手に酔っぱらった女性工場員が周りの反対を押し切って佳代子にズバッと聞いた。


女性①「あんたやめときなって、いくら何でも呑み過ぎだよ。」

女性②「良いじゃないのよ、佳代子、あんた吉馬さんの事好きなんでしょ?どうなのよ?」

佳代子「え?な・・・、何の事?」


 唐突の事なのでついたじろいでしまった佳代子、シャンパングラス片手に少し返答に戸惑っていた。


女性②「胡麻化したって無駄よ、あんた毎朝吉馬さんの為にお茶淹れてるじゃない。」

佳代子「あれはついでだっていつも言ってるじゃない。」

女性②「そんな事言って、顔が赤いよ。照れてんじゃないの?」

佳代子「馬鹿、ちょっとお酒が回って来ただけだもん・・・。」


 俯きながらシャンパングラスに口を付ける佳代子、明らかに様子がおかしかった。

 その時だ、本当に偶然なのだが借金をやっと返し終えたお祝いにと文香を連れて来た隆彦が同僚と一緒に佳代子達の真横を通った、因みに文香はテーブル席の椅子で眠っていた。


女性①「吉馬さんじゃん、今丁度あんたの話をしてたのよ。」

隆彦「俺の?何で?」

女性②「あんた正直、佳代子の事どう思ってんのよ。」

隆彦「どうって・・・、良い同僚だよ。」

女性②「あんたね、意味分かってる?女としてどう思ってるか聞いてんのよ!!」

隆彦「女としてどうって・・・、結婚したらその男は幸せ者になりそうだなって思うけど。」

女性①「じゃあ、あんたがその男になりなよ。ねぇ、佳代子。」

女性②「ほら、早く早く。この際はっきり言っちゃいなさいって。」

佳代子「もう・・・、こうなりゃヤケよ!!吉馬隆彦!!私と結婚し・・・、しなさい!!」

女性②「「しなさい」ってあんた・・・、大胆に言ったわね・・・。」


-68 運命か、それとも必然か-


 隆彦は動揺した、まさか自分が公衆の面前でプロポーズされるとは思わなかったからだ。佳代子は隆彦以上に動揺していた、いくら酒の力を借りていたからとは言え、あんな無理矢理な言い方は無いだろうと反省した。ただ伝えたのは紛れもない本心だ、佳代子はそのまま勢いを貫く事にした。

 比較的呑んだ量が少なく、素面に近かった隆彦が急遽介抱する事になった。


隆彦「佳代・・・、倉下さん!!ほら、呑み過ぎですよ。タクシー呼ぶから帰りましょう。」

佳代子「何よ、女にプロポーズさせといてそれがあんたの返答って訳?!」


 どうやら佳代子はかなり泥酔している様だ。


佳代子「どうなのよ、私と結婚するの?!」

隆彦「分かった、結婚するから一先ず水飲んで!!ね!!」


 きっと次の日になれば忘れているだろうと思った隆彦は佳代子をタクシーの後部座席に押し込み、眠ったままの文香を抱いて乗り込んだ。


佳代子「ねぇ・・・、あんたん家行くんでしょ。」

隆彦「えっ・・・、ああ・・・、寝言か・・・。」


 女性工場員の1人に頼んで佳代子の家の場所をドライバーに伝えて貰うと、タクシーはゆっくりと走り出した。

 街灯と店から漏れる明かりが照らす夜、隆彦は窓の外を眺めながら考えた。


隆彦「結婚か・・・。」


 隆彦はぐっすりと眠る文香の顔を見た。

 十数分後、タクシーが隣町にある佳代子の住むアパートに着いたので隆彦は佳代子の部屋のある2階へと連れて行った。1階で偶然会った大家に鍵を開けて貰い、部屋の中に入って佳代子をベッドへ寝かせてすぐに帰ろうとすると佳代子が隆彦の袖を強く掴んだ。


佳代子「帰っちゃうの・・・?」

隆彦「はい、帰ります・・・。いつまでもここにいてはまずいでしょう。」

佳代子「やだ・・・、離れたくない。私と結婚するって言ったじゃない、行かないでよ。」


 佳代子は袖を掴む手をより一層強めた。

 翌朝、結局佳代子の部屋で1晩を過ごした隆彦は未だ起きていない文香を背負うと歩いて帰った。

自分の家が近所で本当に助かったと思った、帰りのタクシー代を佳代子の部屋に向かう車代で使ってしまったからだ。ただ、眩しい日光に照らされた帰り道の空気は昨夜以上に美味く感じた。

 数か月後、遂に予算の支払いを終えた隆彦は自らが店長を務める事になったコンビニの開店を数日後に控え、辞表を提出していた。


工場長「遂に夢が叶ったんですね、でも寂しくなりますよ。」

隆彦「遠くに旅立つ訳ではないのでまた遊びに来てくださいよ。」

工場長「絶対、行きますね。」


隆彦が工場を去った数日後、当然の様に呑んだ勢いでプロポーズをしてしまった夜の事をすっかり忘れてしまっていた香奈子は事務所で突然気分を悪くした。


佳代子「ちょっとすみません・・・。」


 ふらつきながら立ち上がりお手洗いに向かう香奈子を見た友人の女性が様子を見に向かうと、佳代子は奥の個室で嘔吐しすぐさま気絶してその場に倒れ込んでしまった。


女性「佳代子!!」


 女性の通報ですぐさま大学病院へと搬送された佳代子は救急治療室で意識を取り戻し、付き添っていた友人と共に担当する若い女医の話を聞いた。


女医「えっと・・・、倉下佳代子さんですね。救急搬送での初診とお伺いしましたのでこちらの診察券をお渡しますね、これから通院する時持参して下さいね。」


 女医に渡された診察券を見て驚愕した。


佳代子「えっ・・・、産婦人科ですか?」

女医「あれ?!お気付きでは無いのですか?倉下さん、おめでたですよ。」

女性「あんた・・・、まさか・・・?!」


-69 追憶と真実-


 佳代子はお腹を摩りながら記憶を辿った、どう考えてもここ1年で肉体関係を持ったのは同じ職場で働く隆彦しか思い当たらなかった。


佳代子「呑んだ時に確かタクシーで家まで連れて帰って貰って、ベッドに寝かせてくれた時に袖を掴んで・・・。ああ・・・、やっぱりあの時だわ。」


 同行していた友人の小角 忍(おつの しのぶ)は佳代子の意見に同感していたのですぐに相手が隆彦である事を察した。


忍「あの時ってまさか・・・、本当に吉馬さん?!あんたが好きだって言ってた吉馬さんなの?!」

佳代子「うん、タクシーで送って貰った時にすぐに帰ろうとしたから袖を掴んでそのままの勢いで・・・。」

忍「あんたいくら泥酔してたからってやり過ぎじゃないの、まだ結婚していないのにその子どうするのよ。」


 忍は畳みかける様に言葉を追加した。


忍「それにどうやって吉馬さん本人に伝える訳?本人はもう工場にいないのよ。」

佳代子「分かってるわよ、でも出来ちゃったからしょうがないじゃない。」


 2人は病院から工場に戻るとすぐさま工場長に全てを伝えた。


工場長「お帰りなさい、お体は大丈夫ですか?」

忍「はい、ご覧の通り母子共に健康です。」

工場長「そうですか、母子共に健康ですか・・・。母子ですって?!」


 何の病気で倒れたかと心配してずっと報告を待っていたのだが、まさかの懐妊の報告を受けるとは思いもしなかった。


佳代子「はい、吉馬さんとの子供が出来ちゃったみたいなんです。」

工場長「そうですか、これは今年1番のサプライズになりそうですね。吉馬さんはご存知なんですか?」

佳代子「私達もさっき知ったばかりなので全く・・・。」

工場長「それは大変だ、でしたら吉馬さんが経営するコンビニへの簡易的な地図をお描き致しましょう、早速報告に向かって下さい。」


 工場長は胸ポケットに入れていたメモ帳から1枚千切り取ってスラスラと描いて佳代子に渡した、そして母子の健康を最優先してこの日は半ドンで上がる様に指示を出した。


工場長「決して無理はしないで下さい、何なら車でお送りしましょうか?」

佳代子「それだと折角の地図の意味が無くなるじゃないですか、それに適度な運動をするのもお腹の子に良いって先生から言われてまして。」

工場長「なるほどね、差し支えなければですがどこの病院の先生ですか?」

佳代子「確か・・・、そこの大学病院の間野(まの)先生です。」

工場長「もしかして間野富貴(まのふき)ですか?」

佳代子「ご存知なんですか?」


 すると事務所の奥、工場長の居住スペースから聞き覚えのある女性の声が聞こえた。


女性「ちょっとお父さーん、私のビール呑んだでしょ!!今日は半休だから楽しみにしていたのに!!」


 佳代子は目を疑った、担当医師となった女医の間野が部屋着姿でシャワーで濡れた髪の毛をバスタオルで拭きながら出て来たのだ。病院の姿を思い出すととてもじゃないが同一人物とは思えない。


工場長「あの高そうなの富貴のやつだったのか、やたら美味そうだったからつい呑んじゃったよ。ほら、これやるから代わりの買って来い。」

富貴「流石お父さん、分かってる!!」


 富貴が父親から受け取った2千円を手に事務所を出ようとした所を佳代子が引き止めた。


佳代子「間野先生、予定日をまだ聞けてないのですが。」

富貴「えっ、あんた・・・、失礼しました。倉下さんのご予定日は確か・・・、来年の2月だったと思いますが。次のご来院日までにカルテを確認しておきますので詳しくはその時に。」


 早くビールにありつきたい富貴はつい答えを濁して事務所から出て行った。


-70 意を決した告白-


 隆彦が費用の支払いを済ませる数日前、信三が共同オーナー同士で相談できないかと話を持ち掛けて来た。

 隆彦はどんな話なのか想像も付かないまま、信三が指定した喫茶店へと向かった。


信三「急に来て貰ってすまないね、ちょっと頼みがあるんだが。」

隆彦「別に構わんけど詳しく聞かせて貰ってからにして欲しいんだが。お?」


 隆彦は普段あまり飲まないブラックコーヒーを1口啜った、ただこの店が使用している豆が特別に良い物らしいので意外と飲みやすかった様だ。


信三「どうだ、ここのコーヒー美味いだろう。いつも何か考えたい時に使っているんだ。」


 隆彦は今度は1人で来てみるかと思いながら話を戻した。


隆彦「俺もリピーターになろうかな・・・、それで頼みって何だよ。」

信三「忘れてたよ、実は今度払う費用の事なんだが俺が多めに払おうと思っているんだ。」

隆彦「助かるよ、娘の養育費の事もあるから生活費を切り詰めながら費用を用意していたんだ。」

信三「文香ちゃんだっけ、今年でいくつだ?」

隆彦「今年から小学生だよ、今5歳だよ。」


 正直前の工場勤務を未だ続けるべきだったかずっと悩んでいた隆彦からすれば願ってもいない話だ、ただ話が上手すぎやしないだろうか。


信三「それでどうだろう、お前が店長として店で働くってのは。俺は会社の事もあるから中々店に顔を出せそうにないんだ、そこでお前に店の全権を持って貰おうと思うんだが。」

隆彦「最初からやってみようと思っていたから、俺で良いなら構わないけど経営なんてやった事ないから分からないぞ。」

信三「おいおい、俺はこう見えて社長だぞ?それに独学でだが経営学も勉強したんだ、俺で良かったらアドバイスという形で色々と教えてやるよ。友人として、何でもさせてくれ。」

隆彦「嬉しい事言ってくれるじゃねぇか、じゃあ俺なりにやってみるか。」


 こうして今に至るのだが、開店したばかりの店の主は想像以上に苦戦していた。せめて自分も1人の店舗の人間として出来ない事は無いかと駐車場の掃き掃除を始めた、昔から悩み事がある時は必ず掃除をすると決めていたのだ。


隆彦「うーん・・・、信三がいなきゃこりゃ上手くいきそうに無いな・・・。本当信三様だな。」


 隆彦が頭を悩ませているとアルバイトの1人が箒を横から掴み取った。


バイト「店長、掃除くらい自分がしますから奥へ行ってて下さいよ。」

隆彦「掃除位させてくれ、それに慣れないから店長はやめてくれと言っただろう。」

バイト「そうですね、吉馬さんすみません。」

隆彦「お客さんが並んで来たみたいだから、すまんがレジ頼めるか?」

バイト「分かりました、行って来ます。」


 アルバイトがその場を離れてから数分後、見覚えのある顔がお目見えした。そう、隆彦の子を身籠って間もない佳代子だ。


隆彦「おや、倉下さんじゃないですか。この場所をご存知だったのですね。」

佳代子「工場長が地図を描いて下さったんです、海の見える綺麗な場所ですね。」

隆彦「私の拘りが通ったので嬉しいですよ、今日はお買い物ですか?」


 隆彦の言葉を聞いた佳代子は表情と口調が少し暗くなった。


佳代子「吉馬さん、お話があるんです。」

隆彦「話・・・、ですか?ではこちらへどうぞ。」


 佳代子の表情からただならない雰囲気を感じ取った隆彦は店内のバックヤードへと案内して温かなお茶を差し出した。


隆彦「どうぞ。」

佳代子「すみません、頂きます。」

隆彦「それで、お話とは?」


 佳代子は意を決して隆彦に用件を告げた。


佳代子「吉馬さん、いや隆彦さん!!私と結婚して下さい、貴方との子供が出来たの!!」

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