第12話 出版社が求める小説
ふたたび、冒頭から紹介してきたH.P.ラヴクラフトの話に戻ろう(途中から読み始めた人は、第一話・第二話を読むといい)。
ラヴクラフトがなぜ売れないのか。それは単に、出版社が求める小説を書けなかったからだ。
書きたい作品を執筆するか。あるいは、書きたくない作品でも、出版社が求めてくるから執筆するのか。
これは難しい問題である。幸運にも、書きたい作品が、出版社にウケる場合もある。つまりは、win-win(双方に利益)の関係である。だが、やはり出版社――なかでも編集者――は本を売って、利益を挙げなければならない。商業作家の苦悩、といったところか。
しかし、もし本気で作家になろうとするならば、出版社が求める小説を執筆する、という問題に
――出版社のために小説を書く。
むなしい、と感じることがあるかもしれない。期待に答えて、もしコンテストや新人賞に選ばれたとしても、その作品が受賞して本当に満足だろうか――というより、その作品自体に、作者は満足しているだろうか。
人によっては、意見がわかれるだろう。気にしない作家もいれば、気にする必要がない作家もいる。
それゆえ、答えを出す必要もない。別に、読者のウケを狙って執筆してもよいのだ。自分の書きたい作品に、読者が興味をそそられる、そんな要素を入れてもよいのだ。
――ここで第四話につながる。
いかに理想の作品を書き、それとはズレた出版社の理想を妥協するか。
もっと簡単に言おう。
どうやって、書きたい作品と読者の求めるものを両立させるか。
はたして、自身への妥協なしに、読者の求めるものを作品に組み込めるのか? と不安な人もいるかもしれない。
解決策として、この創作論はまるで役に立たない、と僕は思う。ただ、「小説の書き方」という本にしろ、「プロ作家になる方法」という意味ではないと思う。あくまで、趣味としての小説である。
だが、もし完璧な小説があれば、創作意欲をそいでしまうかもしれない。完璧など、逆に存在しないほうがいいのかもしれない。
それを思えば、悩むこと自体が、なにかちっぽけなもののように思えるかもしれない。僕は悩むより先に、小説を書きたくて仕方がないのだ。
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