第四話 お姫様との出会い
「それで……シスターエルシア……確認をいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「私を斡旋するバイト先というのはここなのでしょうか?」
エルシアから住み込みのバイトを紹介されたノエルは「バイト先にこれから行きましょう」とエルシアが言われたので、付いてきたのだが、そのバイト先に思わず信じられないという表情となってしまう。
「はい、そうですよ」
ノエルの問いかけにエルシアは当たり前のようにそう答えるが、ノエルは思わずガクリと項垂れてしまう。
「どうかしたのですか? ノエルさん」
そんなノエルに今度はエルシアが問いかけるが、依然としてノエルは項垂れたまま返す。
「いえ……家事代行をするのは、まぁ構わないですし。確かに好きだと言いましたが……こんなお屋敷での家事代行はしたことないですよ……」
そう。ノエルの不安はこのような童話に出てきそうな白いお屋敷でバイトをしたことがないという不安であった。
このような屋敷に住んでいるということはお姫様のような綺麗な人が住んでいるのだろうとノエルは想像し、緊張していた。
「それじゃあ入りますよー」
「えっ、ちょっと———」
そんなノエルの声を無視するように、エルシアは屋敷の扉を開き。慣れ親しんだ場所のように中へと入っていく。
「ベルさーん。いるんでしょう? 返事をしてくださーい」
屋敷の主人であると思われる人物の名を思いきり叫ぶエルシア。その叫び声に呆れ、舌打ちをした後に該当の人物はカツン。カツンと優美な音を奏でながらやってきた。
「エルシア、そのウルサイ口を閉じなさい。頭に響いて仕方がないから」
頭を掻きながらそのような言葉と共に現れたのは血のような赤と夜のように黒いフリルが施されたドレスを身に纏った、幼い金髪のお姫様であった。
「それで今日は何の用だ? お前に頼み事をしていた日は来週だったと思うが?」
「うん、そうだね。だから今日はそういうことではなくて、ベルさんにお願いがあって来たの」
「お願い?」
「こちらにいるノエルさんをこの屋敷で住み込みで働かせて欲しいと思って来たんだ」
エルシアの言葉にノエルは言葉を失い。ベルは「は?」と首を傾げながら返す。
「あんた何を言ってるの? 掃除や料理はあんたで間に合っているから別にいらないのだけど」
「何を言ってるの? はこっちの言い分だよ。いい加減わたしの力なしで生きていけるようにしてよ」
毅然としたお姫様に物怖じすることも、怯むこともなくベルというお姫様に言い返すエルシアを見て、すごいと思いながら、なんだか二人の会話を見ている内にノエルの緊張も少しずつ解けていく。
「(遠巻きに見たら、お姫様とシスターが話しているように見えるけど……この会話を見ていたら、まるで姉妹の会話のようにも見えるな……)」
「ともかく。今日からこのノエルさんをこの屋敷で働かせて欲しいの。ノエルさんも住み込みで働けるし、いいですよね?」
「え、ええ。住み込みで働けるのは私としても嬉しいですし。住むところを提供してもらえるので、その分給料が低くても私は大丈夫ですよ」
急にエルシアから話しかけれて驚きつつも、ノエルは的確にエルシアの質問に返す。
「ということです。お願いしますね。ベルさん」
ニコリと満面の笑みでお願いするエルシアだが、彼女の言い分をどうしても受け入れることが出来ないのか。ベルは「うるさーい!!」と思いきり叫び声を上げる。
「いい!? この屋敷で掃除するのも!! 料理をするのも!! 全部エルシアの仕事なの!! 他の奴に頼むつもりなんてないし、ましてや知らない赤の他人をこの屋敷に住まわせるつもりなんてないの!!」
「(なんと無茶苦茶な……)」
ベルの言い分に呆れと驚きの混ぜたような感情をノエルを抱いたが、エルシアは先の発言に完全に堪忍袋の緒が切れてしまったのか、プルプルと震え初めたかと思えば、エルシアは刃物のような鋭い目付きをベルに向ける。
「そう……なら、この屋敷。破壊するね」
「え……?」
突然の。それも予想外の言葉にベルはそのように言葉を洩らすと、顔が青ざめていくが、そんなこと関係ないとでも言うようにエルシアは話を続けていく。
「元々、この屋敷はわたしのおばあちゃんが日本国にいた時に建てた別荘です。おばあちゃんからもいらないなら壊してもいいという許可は既に得ています。ですので、この屋敷を破壊するのには何の問題もありません」
先程の鋭い目付きから一転。今度はエルシアらしい、笑顔となるが、その笑顔が先程の目付きよりも怖かったことは言うまでもなかった。
「それに、よくよく考えてみたら、わたしがベルさんのことを匿う必要も義理も全くないんですよね。なんなら、わたしたち、アリア教が敵対している黒魔術教団・イヴにベルさんを売り渡しても、全然よかったのですよ?」
黒魔術教団・イヴという名にあからさまにビクリとする背筋を振るえてしまうベルだが、その組織について全く知らないノエルはどうして彼女がその名を聞いて震えたのか首を傾げるばかりであった。
「ベルさん」
「はい……」
涙を流しそうになっているベルに追い打ちをかけるようにエルシアは言う。
「ノエルさんのこと、お願い。出来ますよね?」
「は、はい……」
本当は嫌ではあるが、先程の組織の名を出されたら仕方がないといった感じでベルはしょぼんと落ち込んだ感じではありながらもエルシアの要望を受け入れたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます