第80話 フアリーダと狂犬病予防接種(ファリーダとスカッシュ)
家でバザーに出すクッションの刺繍をしていたら、ファリーダの動物病院のドクターから電話があった。
話の内容は、数カ月前に出した、ファリーダの狂犬病の抗体検査(血清検査)の結果が届いたので受け取りにおいでという電話だった。
ついでに健康診断もしようということで、ファリーダも連れて行かないといけない。ので、翌日はお茶会でバタバタするので、明後日以降に取りに行くと予約をいれた。
ファリーダは自分の名前が出たので、向かい側のゴブラン織りの4人掛けソファーから顔を上げてきた。
「ファリーダ!狂犬病抗体検査の結果が来たって。多分大丈夫だよ。これで180日以上の待期期間を無事に過ごせば、ファリーダも日本に行けるね!」
喜ぶ夢乃と違い、ファリーダはよくわかんないやという顔で、また前足に顔を乗せて優雅なポーズでお昼寝に入ってしまった。
そう、エジプトは狂犬病がまだある国なので、猫も狂犬病のワクチンを打たないといけない。
日本では猫は狂犬病予防接種はあまり打たないと思う。セージも1年に1回の混合ワクチン以外しなかったものね。
因みに、エジプトに限らず、海外の国の殆どは狂犬病があるので、日本からそういう国に駐在で行くときは、必ず狂犬病の予防接種をしてくる。
夢乃達も日本で沢山の予防接種をスケジュールを組んでもらい、わざわざそういう専門クリニックに打ってもらいにいった。
予防接種していないで、もしも何か不幸なことに感染して発症した場合、致死率は100%の恐ろしい感染症なので、ワクチンを打つ!は必須!
そして諸外国では猫も打つのが常識。何故なら犬だけの感染ではなく、哺乳類全般が感染するから。猫もその例外ではないのでね。
なので、最初に病院に連れて行ったとき、ドクターは予防接種・スケジュールを作ってくれて、その中にちゃんと狂犬病予防接種も含まれていた。
それと、いずれ日本に連れて帰る時には、厳しい入国の為の検疫検査があるので、そのため、日本の動物検疫の規定に沿ったワクチンと検査と証明書が必要になるのだ。
動物検疫所のサイトには、超!わかりやすい手順書が日本語でも英語でもあるので、それをダウンロードしてそれをドクターに渡して、それに準ずるワクチンやら検査をして貰ったの。
それに対応してもらえる病院で本当に良かった!できなかったらまた一から探しなおしだったからね。
で、最初の検診で、4種混合ワクチンとマイクロチップを打ってもらったのでまずクリア。
それから様子をみて暫くしてから、狂犬病予防接種1回目。
30日以降に予防接種2回目。
その日に血清検査に出すために採血。日本の動物検疫所指定の検査機関にその血液を検査にドクターから出してもらう。
検査結果を待ち、結果がOKなら証明書が出る。(今ココ)
血清検査用の採血をした日から、180日間、感染も発病しないでいたら、日本への入国がOKになるの。
因みに、狂犬病ワクチン有効期間は大概1年なので、1年ごとに打つ。これは犬と同じだね。
そして、抗体検査証明書は2年間の有効期間なので、その有効期限以内に帰れないならまた採血して血清検査に出して、証明書を貰わないといけない。
うちは赴任期間が5年くらいと言われているので、狂犬病予防接種は日本に入国用にかかわらず必須だけど、抗体検査と証明書は帰国が近づいてからでも本当はいいんだけど…。
でもね。
エジプトの周辺国は紛争が起きやすい国が多い。
エジプトもいつ巻き込まれるかはわからない。
それが5年の間にないとは言えないし、そうなったときに準備ができていないから、ファリーダだけを残していくなんて…
そんなの!!絶対にできない!!
譲ってくれたジェフ達にも顔向けできない!
なので、最初の2年間は無駄かもしれないけど、いつでも一緒に日本に行けるように準備万端にしておくのが、パパママの私達の義務なんだと思うのよね!
(お金、結構かかるけどさ!)
ファリーダは家族だもの!大切な娘だもの!当たり前だよね!
と、言うことで、翌々日にゲージに入れて、ファリーダと動物病院に行った。この日は和也も一緒で、サイード君運転の社用車レクサスです~~!
抗体検査は無事クリア!そして念願の証明書を貰い、健康診断もクリアで、上機嫌で家路に着こうとしたとき、和也の携帯電話が鳴った。
ああああ~~~こういう時の電話は大概よくない電話。
タクシーで帰宅かなあ?と思いながら待っていると、和也は何か話し、そしてドクターにこの後の診察予約を入れた。
「なんで予約入れるの?ファリーダのはまた来年だよ?」
首を傾げて聞く夢乃に、和也は嘆息して言う。
「はっしーのスカッシュが何か誤飲したらしんだ」
「?はっしーは今日はお休みの日なの?」
「違う。会社にいたんだけど、メイドから、スカッシュが嘔吐していて大変だから帰ってきて欲しいと電話があったらしい」
「えええ!?それは大変じゃない!!何を飲み込んだの?それとも舐めたのかしら?」
猫の嘔吐は時には命ににも関わるから、大変だ!!
「メイドにはわからないらしいので、とりあえず動物病院を予約してくれないかと電話がきたんだ。今日、ファリーダを連れて行くと話してあったからね。
吐しゃ物事、スカッシュを連れてくるらしい。なので、俺はあいつに付き合うけど、夢乃はどうする?」
「うーん…スカッシュ心配だから一緒に待つわ」
と、言うことで、暫くしたら真っ青顔のはっしーが、迷彩色柄のキャリーケースにいれたスカッシュを運んできた。スカッシュは少しぐったりしているように見えたが、すぐに診察室の中に運び込まれた。
待合室で海外のペットグッズのカタログをパラパラ見ながら待っていると、
「スカッシューーー!!」
と、号泣するはっしーの声が響いてきて、血の気がさあああーっ!と落ちた。え!?何!?まさか!?
胃の当たりがぎゅうう!っと痛くなった。
だけど暫くして出てきたはっしーは涙目でドクターに抱き着きながら、何度も「シュクラン!(ありがとう!)シュクラン!(ありがとう)」と叫んでいた。
傍にきた和也が苦笑して言う。
「単に毛玉を吐いただけだったらしい」
「なんだあああ!!よかったよお!はっしーの泣く声がしたから、もしかしたらッて滅茶苦茶心配したんだから!!」
あはははと和也は笑い、目を真っ赤にしたはっしーは申し訳なさそうな顔をした。
「でも毛玉かどうかわからなかったの?」
「パニックになっていたから…すみません、夢乃さんお騒がせしました。ところで、ファリーダちゃんは検診か何かですか?」
「それもあるけど、狂犬病の抗体検査の結果が出たから受け取りにきたの。ちゃんと証明書ももらえたので、あと180日待機が過ぎれば日本に一緒に帰れるの!スカッシュはもうした?それともいつ検査するの?」
はっしーは怪訝な顔をする。
「狂犬病??それ、犬だけの話しでしょう?猫は狂犬病になんて掛かりませんよ?やだなあ、夢乃さんは随分と心配性なんですねえ」
はははははと笑うはっしーに、私達が今度は真っ青になった。
「スカッシュは狂犬病予防接種受けていないの!?」
ドクターを見ると、ドクターは呆れた顔で肩を竦めて首を振る。
「説明したんだけどね。日本では猫は狂犬病予防接種はしないからと拒否したんだ」
あほかああ!!!スカッシュが大事なら予防接種を怠るなあああ!!!
てなことで、こんこんと説教をした夢乃に恐れおののき、はっしーはその場で予防接種の予約を入れたのであった。
全く!はっしーったら!!!
追記:
帰国後の事とか全然考えていない感じでしたので、てっきりスカッシュは日本に連れ行かないつもりなのかとずっと思っていました。
後日談ですが、その後はっしーは無事にスカッシュと一緒に次の国への駐在へと向かったのでした。よかったよかった。
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