第78話 水道災難再びとファリーダ(ファリーダ)


 夏期休暇はイレギュラーなコペンでのバイトで終了となり、最後の食事もサイテーなラーメン屋さんでぼったくられておしまいという散々なコースだった。


 ヨーロッパでも最近ちゃんとした日本のラーメン屋さんが多くなったのだけど、中にはちょい怪しいラーメン屋さんもあり、たまたまそこだけ開いていたので行ったのが運の付きだった。

 

 味噌ラーメン頼んだのに、これしかない!と、ほぼ塩ラーメンみたな薄い汁に生ぬるさ。

 絶妙のまずさ。

 これ、海外よくあるラーメンもどきラーメンじゃないのおお!?

 しかも!!お会計は味噌ラーメン代!

 (塩ラーメンと普通の醤油ラーメンの2倍の値段!!)


 理由は

「味噌ラーメンを注文しただろう?」


 はい!?注文したけど、味噌ラーメンないからと塩ラーメンみたいなの(しかも美味しくなくてマズイ!!)を出したのはそっちだろう!?

 こんなのおかしいと怒り出したら、刃物をどすん!とまな板に降ろしてぎろり。

 

 やくざ紛いやんかああああああああああ!!!

 やっぱりなんちゃってラーメン屋だったんだああああ!!!

 くそーーー!


 てなことで、最低最悪のイメージのまま帰国、じゃない、エジプトに戻った夢乃だった。


 家に戻り、即席ラーメンを美味しくいただいたのは言うまでもない。

 やはりなんだかんだ言ってもエジプトが一番よ!

 うんうん!


 と、いう事で、高田支社長宅にお土産渡しとファリーダをお迎えに行った。

(今回はヤシラにも夏期休暇を与えていたので、高田夫妻にファリーダを預けてきました)


 ファリーダはすっかり高田家の猫になっていて、大きな銀製のエジプト風彫刻をされた果物皿に寝ていた。

 どこに寝ているんですか?ファリーダ??


 高田夫人曰く、金属製の皿は夏は涼しいみたいよと。


 因みにベルダンディーは大きなベネチアンガラスのエキゾチックな色合いの大きな鉢の中で寝ていた…。


 二匹とも…どこで寝ているの??


 ファリーダは少し甘えた声ですりすりしてきて、さっさかキャリーに入ると、さあ!帰ろう!と、にゃーん!と鳴いた。


 家に戻り、「はああ~~我が家が一番!」と、ヤシラのいれてくれた甘いオレンジアイスティー(温めたオレンジジュースで紅茶を入れて、砂糖とレモン汁をどっかり加えたカロリー恐ろしい飲み物)を飲んでほっとしていると、シルク製のオットマンの上に寝ていたファリーダが、ぴくんと顔を上げた。


「ん?どうかしたの?ファリーダ?」


 ファリーダはメイン・バスルームの方をみている。そして、しゅたっ!と降りると、てけてけと歩いてバスルームに行く。


 因みに我が家は安全の為に全部のドアと言うドアは解放している。閉めるときは必ず半ドアにしている。


 何故か?


 カイロの家の中は一見豪華だが、その実は不具合が多い。ドアもその一つで、日本のドアのつもりで、バタン!と閉めると、鍵をかけていないのに鍵がかかったり、ドアノブ事壊れたり、そもそも建付けが悪くて…


 まあ色々理由はあるけど、ドアが開かなくなり雪隠詰めになる事件が多々起きているから。うちも和也が最初にホテルのドアで、まさしくトイレに雪隠詰めになったらしい。

 たまたま携帯電話を持ってトイレに行く習慣(悪習慣)があったため、会社の人に連絡し、ホテルに連絡してもらい、事なきを得たらしい。


 え?トイレには大概緊急の電話機やエマージェンシーコールがあるのに何故?って?


 え?ここはエジプトだよ?

 どんな高級ホテルでも工事する人達は同じ。同じなの。


 日本みたいにどこでも完璧で綺麗で素晴らしい事なんて、ないんですよ~~。


 つまりは壊れていたんですね。

 もしくは元々、こんなの使わないだろう?意味ないだろう?ってことで、電話線どころか電源繋がっていない、飾りの可能性も大なんですよ~~。


 海外ではどんな場面でもどんな時でも!!自分の身は自分で守るは必須ですよ~。


 ホテルのロックが掛かるドアは多分大丈夫。ホテルや高級レストランとか高級な場所でのトイレとか部屋も多分大丈夫。

 多分ね。


 さて、バスルーム。

 ファリーダが、覗きに行き、私も後をついて覗きに行く。


 なんだしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ~~~!!という、不気味な音がする。

 

 なんだろう?と、開け放たれたドアからファリーダが中を覗き込み、全身の毛を逆立てた。

 夢乃も中を覗き込むと、そこにはまるで生き物のようにのたくり踊る、トイレのホースがバスルーム中に水をまき散らしながら踊っていた。


 は???


 トイレのホースって何?と思うでしょうが、海外のトイレにはホースがついていることが多々ある。

 トイレを掃除するためのホースではなく、紙の代わりのホース。これでお尻を洗います。

 今は大概トイレットペーパーを置いてあるけど、昔はなかったし、今もない所は多い。なのでこのホースでおお尻を洗うのです~。


 我が家は日本人なのでこれを使う事はまずなく、ヤシラは自分用のトイレを使うけど、ペーパーを使うのでまず誰も使わない。

 まあヤシラがたまにバスルーム全体を洗う時、これを使う程度かな?


 そのほぼ誰も使わないホースがのたくり踊りながら水をぶちまけているのだ。まるで消火ホースのように!凄まじい勢いで!!


「ヤシラ――――!!!」


 叫んでヘルプすると、ヤシラがすっ飛んできて、ぎゃーーー!と叫んで、全身びしょぬれになるのを厭わず、果敢に大元の栓を閉めにバスルームに突進した。ホースは大人しくなったが、バスルームは大惨状だ。


 タイルと大理石でできているし、丸洗いできる仕組みだし、たまたま段差がある造りなので、水が部屋にまで流れてこなくて済んだけど!!

 これ!日本だったら大大大惨事!!!

 他の部屋や階にも浸水か水漏れして大変な被害になっただろう。


 直ぐに和也に電話。

 ヤシラは自分のバスルームで着替えて、即オーナーに電話。

 同時期に和也の会社からもオーナーに電話。


 近くに住んでいるのでオーナーが工事人と直ぐに飛んでくる。そしてヤシラとぎゃーすかアラビア語で大喧嘩始める。

 

 オーナーはバスルームの惨状を見て、アッラーに祈りだし、それは後にして!と叫んだ夢乃の言葉に慌てて立ち上がり、


「あー!!やめて!!」


 と、叫ぶと同時に、元栓を捻った。


「ぎゃーーーーー!!」


 のたくり狂うホース。

 全身びしょぬれになるオーナー達。慌てて元栓を閉める。


「マダム!タオルを!」

 と、叫ぶけど、タオルも全部バスルームのそこの棚に置いてあるから全部びしょぬれです!!なので今は全部洗濯中です!

 仕方ないので、ヤシラがシーツを渡す。シーツで全身を拭きながら、工事人と何かぎゃーすか言い合うオーナー達。


 ところで、バスルームには大概、洗濯機類家電品も置かれている。


「オーナー、洗濯機もびしょ濡れ」


 片言アラビックで言った後に、言うんじゃなかったと叫ぶ夢乃。

 なぜなら全身びしょ濡れの状態で、オーナー達は洗濯機の電源を入れようとしたからだ!!


「やめて!!アブナイ!!」


 咄嗟に出るのは日本語で、日本語はオーナー達には通じない。止める間もなく電源をいれたが、洗濯機はうんともスンともいわない。


「大丈夫、マダム」

 そう言い、ヤシラはコンセントを指さす。コンセントは抜かれていた。


 ヤシラが全部びしょぬれになっていたので、危ないのでコンセントを抜いておいたんだそうだ!

 素晴らしいよ!!ヤシラ!!

(ヤシラの息子の一人が電気工事の仕事をしているので、電気系に強かったらしい)


 そんなこんなな大騒動の末、ホースは直った。


 なんかさ、前にもこんなことなかった?同じことしていなかった???

(第33話 マジックのような排水管と猫)


「オーナー!このホース、使わないから使えないようにしてくれない?」

 そう翻訳機能を使い言うと、オーナーは頷く。

 工事人に何か言う。

 工事人がどこかに電話する。

 暫くすると見習い人なのか?ガラベーヤを着た少年が何か新品の物を持ってきた。


 ホースだ。


 え?使わないようにするのであって、交換じゃないよ??


 そう首を傾げている間に、工事人はてきぱきと、金属製ホースから、やすっぽいビニールホースに交換した。


 え?金属からビニール??あのさ、素人でもわかるけど、さっきの大惨事はホースが水圧に耐えられなくて破裂というか壊れたんだよね??更に強度の弱いビニールにしたら、そんなの水圧に勝てるわけ…


 と、夢乃が頭の中で考えている隙に、工事人がオーナーの指示で元栓を捻った。


「ぎゃー!やめてええええええ!!!」

「NO-!!」 


 ええ。折角ヤシラが拭いたバスルームは再び水で溢れ、覗いていた夢乃にヤシラにファリーダまで、全員がのたくりどころか破裂したホースと、大元から噴水のように吹き出す水で‥‥


 全員びしょ濡れだ…。


 ファリーダはベランダまで逃げていき…私達は、日本語、アラビア語で4人巴で大喧嘩を始めたのは言うまでもない。


 ああああ~~~本当にエジプトに帰ってきたなあと実感するわ。

 でもコペンのトラブルよりも、こういうお間抜けな騒動の起こるエジプトの方が100万倍もいいやと、苦笑する夢乃なのであった。


 因みに、ホースはオーナーマダムが来て瞬時に理解して、新しい金属製ホースに交換し、大元栓を使えないように封印して終了となった。

 オーナーは凄まじい勢いでマダムに叱られていた。


 水はやはり階下の一部に浸水し、天井等にシミが着いたらしいが、そこはビルの欠陥だなんだかんだでオーナーとビル管理会社との問題でどうなったかは不明。


 洗濯機は全部ぶっ壊れ。私達が日本から持ってきたドライヤーも全部ぶっ壊れ。

 洗濯機はオーナーがフランス製を購入交換。


 私達のドライヤーは丁度帰国していた知人にお願いして買ってきてもらった。日本から送ってもらったら、エジプト国内でなくなるしね~。エジプト国内でも売られているけど、完全日本製ではないし、高いし、性能違うし。

 届くまでの間は、フランス製のを購入し使用した。


 ファリーダはこのトイレ水騒動で懲りたのか?暫くバスルームには近づかなかった。



追記:

うちのオーナーは直ぐに修繕だのなんだのしてくれますが、どこか抜けているところがあり、大概もっと被害拡大して大惨事になる事多々ありました。

濡れた手で電源いれようとするとか…

海外では、日本人なら誰でも知っている危機管理的な事ができていないなーと思う。

でも反対に、テロとかそういう系は日本人の危機管理は全くなっていないとも思う。

どっちがいいのか?今でも悩むのでした。

 

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