第77話 (デンマーク)あわあわ猫(サビ柄あわあわ猫)
あわあわだ。
コペンハーゲンの和也の視察とか仕事の同伴をしていた夢乃は、広場によくある水場というか噴水があわあわに泡立っているのを凝視していた。
「どうしましたか?花岡さん」
視察先の社員に聞かれ、夢乃は首を傾げる。
「どうしてコペンの噴水はみんなアワアワに泡立っているんですか?誰か悪戯して、シャンプーとか洗剤を入れたとか?荒れてます?」
コペンハーゲンは今まで来た都市よりなんか荒れた感があるのは、れいのホテルの地区のイメージが強いせいだろうか?と考えていると、彼は苦笑して言う。
「色々説があるようですが、毎年、夏の暑さが厳しくなり、部屋にエアコンとか入れられない人があそこで水浴びするとか、若者が酔っぱらってあの中に入り込んで水浴びしたり、騒動を起こすとか、子供が入り込んで危険とか…まあ…。
要はあの中に入り込まないように泡だたせている説が有力ですね。」
「へえ」
「エジプトでは如何ですか?」
「え?」
一瞬、ナイル河に人が入り込まないようにするために、泡立っている巨大ナイルと、シャボン玉だらけのカイロを想像して爆笑してしまった。
「?何か変な事を言いましたか?」
「いえいえ。想像したら凄い絵面になったので。
カイロにもところどころ噴水はありますが、泡立ってはいませんね。水は貴重だし、溜まった水場には住血吸虫やどんな害虫がいるか分かりませんから、不用意には入らないと思いますよ」
「おおお~~国により噴水一つでも視点が変わる物ですね」
「そうですね。ほら、日本でも噴水は泡立っていませんでしょう?誰も入りませんから」
「確かに」
と、彼はおかしそうに笑い、そしてさっきより丁寧に夢乃に施設等を説明してくれる。
本日は日本から視察にいらした本社の出張者の方々に交じり、コペンハーゲン近隣関係会社を訪問に混ざり、わたくし花岡夢乃は、現地コーディネーターとコペン支社の一番下っ端の方と共に雑用をさせられております。
さて問題です。
なんで主婦の夢乃が仕事をしているのでしょうか?
現地雇用された?
いいえ。
実は昨日のホテル移動騒動がこのバイトの発端。
ホテル移動を手配をしてくれたのは、コペン支社の方達だったのだが、その移動手配に関して異議を唱えた者がいた。
コペン支社の副支社長。
現在コペン支社の支社長は夏期休暇で不在の為、実質的に現在の最高権力者。
なので、昨日のホテル移動後、支社に夢乃共々呼び出された?と、言うか、和也が行くはずが夢乃も同伴するように言われたので行ったというのが正しい。
支社で副支社長室に通された夢乃と和也は、驚くことをその方に言われた。
簡単に言うと、和也は社員なので、ホテル移動の手配等をコペン支社が代行したのは理解できるが、妻の夢乃は社員でもないのに代行をするのはおかしいと。
な夢乃がコペン支社に何かしら貢献しているのであれば納得するが、ただの主婦が夫の出張についてきて、その恩恵を受けるのは変じゃないか?
主婦は図々しい。働いていないのに働いている者の手を笑わせるなど、これだから主婦は…。
という感じ?
うん。言いたいことは分かる。一見するとその通りなんだけど。
でもね?
大元の原因はコペン支社だよ?
カイロ支社勤務の和也が、夏季休暇旅行中にこのコペンに何故いるのかと言えば、貴方達コペン支社の方達がミュンヘンにたまたまいた和也にヘルプを出したからでしょ?
日本本社から(昨日から)来ている視察一行のメンバーに、和也と仲のいい元上司とか知人がいるので、アテンドを助けて欲しいとお願いしてきたのはそっちだよね?
人のいい和也が断れなくて、貴重な夏季休暇旅行を変更して、私達はこのコペンにきてあげているんだよ?
しかも言い出しっぺの土地勘のあるコペンがホテル手配をしてくれれば、問題ないのに、何故かミュンヘン支社に貴方達がお鉢を回したから、ミュンヘンのエージェントが土地勘なくて危ない地区のホテルを予約しちゃって、そのとばっちりを最大限受けて大迷惑しているのは、私達なんだよ??
しかも!
ホテル代も移動の飛行機代も自腹ですけど―???
そちらからはびた一文出てませんが―??
なのになぜそんな恩着せがましい事をネチネチ言われないといけないの!?
と、言いたいのをぐっと飲みこんでおいた。
何故なら社員である和也達が反論しないからだ。
何故!?
と、言うことで、その副支社長の言う通り、夢乃は和也のカイロ現地採用的なバイトであるとい立場で、この日本本社出張ツアーのアテンドに駆り出されたのである。
カイロでならわかるけど、何故コペンでしないといけないのか釈然としない。
副支社長が事あるごとに夢乃に主婦はバカ説を解いてるし、色々な意味で腸煮えくりかえるけど…
けど、和也の為に我慢した。
と、言うわけで、バイト=一番下っ端扱いで紹介され、下っ端として現地コーディネーターの方とコペン支社一番下っ端社員と共に、視察団(含む和也とコペン支社員)のお世話をしているのだった(遠い目)。
愚痴りながらもやっと視察が終了し、ホテルへ戻る。
でもホテル前にバスが停車できないので、近くの広場で降車し、そこで解散となるった。
お疲れ様の挨拶をし、ほとんどの人達がコーディネーターとコペン社員と共にホテルに向かいだした。
夢乃の仕事はこれで終了。
なので、広場によくある噴水の傍に人だかりがあるのに気づき、そっちに向かった。ホテルに向かう一団の中の和也に軽く手を振り、こっちに行くねと合図して。
その大きな噴水は同じくアワアワしていて、水の色は紫色をしている。
毒々しい(笑)
紫色の洗剤と投入したのか?色を付けたのかわからなけど、みんなが集まっているのは1匹の猫の写真を撮る為だった。
サビ柄の猫は噴水の石造りのヘリにスフィンクス座りして、周囲の騒音を無視して目を閉じているのだが、その猫の背中には泡が沢山のっかっている!
どこから来た?とみていると、風に煽られた泡が、もこもことせり上がるようにのっかってくるのだ!
ついでに風に飛ばされた泡が頭にものっかり、まるで泡の国のチェシャ猫の様だ!
カワイイ~~!!
もちろん激写する夢乃の後ろで和也の声がした。
「あの泡、猫には大丈夫なのかな?」
驚いて振り返ると、和也がいた。ホテルに戻らなかったらしい。
「どうしたの?」
「いや~夢乃がこっちに向かったから心配になって」
「今頃?」
「え~~と…そのごめん。余裕なくて」
「うん。わかっている。まあいいよ。今夜は和食でチャラにしてあげる」
「和食か~~高そうだけど奮発するかあ!」
「オランダの10万円の寿司ほどは食べないよ」
二人は思い出しておかしそうに笑う。猫がちらりと緑色の目を開けてこちらを見た気がした。
「で?なんで噴水が泡立っているの?誰かの悪戯?」
夢乃は笑いながら、今日聞いた説明をしてあげた。和也もカイロの下りで、ナイル川が泡だらけなのを想像したらしく、必死で笑いを堪え、その様子をみて夢乃もおかしそうに笑う。
色々あったけど、まあいいや。無事に終わったしね。嫌な気分で旅行はしたくないしね。
「なんであの噴水は泡だらけで、猫も泡だらけなんだい?」
突然の日本語の声に驚いて振り返ると、和也の元上司とかいうお偉いさん達が立っていた。そしてちらりと夢乃をみて言う。
「君達、随分と仲がいいね」
夢乃と和也は顔を見合わせ苦笑した。
「太田本部長、紹介が遅れました。彼女は私の妻の花岡夢乃です」
「主人がいつもお世話になっております」
太田本部長は驚いた顔で夢乃と握手を交わす。
「花岡君の奥さん?それが何故ここでコペンハーゲン支社の社員みたいにアテンドをしていたんだね?」
私達は更に苦笑し簡単に説明した。
「成程…それは奥様にはご迷惑をおかけいたしましたね」
「いえ、カイロでもよくアテンドをしていますので問題ありません」
「カイロもいいね。次回はカイロに行きますので、その時はアテンドをお願いいたしますよ」
「はい。お待ちしております」
太田本部長は優しく笑うと、噴水の泡だらけの猫に視線を向けて首を傾げた。
「それで?あの猫は何故泡だらけになっているんだい?もしかしてオブジェか何かなのかね?」
本部長の言葉を聞いたかのように、猫は大きく伸びをすると、ぶるぶるっ!と泡を器用に振り落とし、すとんと石畳に降りると悠然を歩いて町の中に消えて行った。
私達は顔を見合わせ、おかしそうに笑いだした。周囲の人達もみんなおかしそうに笑い、もう行っちゃったね、残念というように散会した。
私達はホテルに向かいながら、もう1回、今日聞いた説明を話した。
その夜、居酒屋系の和食屋に行く予定が、急遽、太田本部長御一行接待の高級レストランに同行することになった。
席は太田本部長のそばで上座だ。
困惑する夢乃に、太田本部長はにこやかに言う。
「本日はカイロ支社の花岡君の奥様に大変お世話になりましたので、私達からのお礼です。どうそ今夜はお食事を楽しんでください」
えええ~!この方凄くいい方じゃない?もう色々なコペンハーゲンの嫌なイメージが、あのあわ猫の泡のようにぶるぶるっ!とどこかに飛んで行ったよ~~!!!
ありがとうございます!
なのでお言葉に甘えて存分に美味しい高級料理を堪能させていただきました。とても楽しいコペンハーゲンの夜でした!
余談だけど、今回の騒動に経緯が速攻で太田本部長経由で高田カイロ支社長(仲良しらしい)に連絡が行き、速攻でコペンハーゲン支社に抗議が行ったらしい。
後日、コペンハーゲン支社長から手寧な謝罪のカードと共に、美味しいコペンハーゲンのお菓子の詰め合わせがどかーーん!と届き、カイロマダム会のお茶会が盛り上がったのは言うまでもな。
きっとあわ猫のご利益だね!
また会えるといいなあ。
追記:
あのあわ…あとで絶対に猫舐めますよね?大丈夫なのかなあ?と今でもふと思います。今でもコペンハーゲンの夏の噴水や水場は泡だらけなのでしょうか?
また行ってみたいです。
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