第69話 売り子との攻防と猫(ファリーダとどっかの野良猫)
道を歩いていると、よく小さな子供達がわーっと寄ってくることがある。果物に、野菜に、香辛料や花束やいろんな小さな物を売りにくる、売り子の子供達だ。
大概女の子が多いんだけど、ボロボロの服に、悲し気な声で
「マダム買って…」
と、言われると…マッチ売りの少女を思い出して…
うっかり可哀そうだなあと思い買ってしまうと!!!次から不思議な事に顔を覚えられターゲットにされてしまう。
もうさ…そうなると、可哀そうとかなんとかの次元ではなく、もう~~~~~!
しつこい!しつこい!しつこくて!!うるさくて!邪魔で歩けなくて!!!!
はっきりいって、
うざい!!!!!!!!(太文字100万倍フォント!)
向こうは売り子のプロだから、あまっちょろいヤパーニ(日本人)マダムなんてお茶の子さいさいで、仕入れの10倍以上か20倍の値段でぼったくり売りつける!
時々、そういう子達と連携して?男の子が、スリ、ひったくり担当者もいるらしいのでマジ油断ならない!!!そうじゃない場合も多いけど、マジ油断ならない!
買い物に行くときの夢乃は、毎日、ターゲットにならないように周囲を伺い、ヤバそうだと遠回りして行きつけのスーパーや喫茶店やお店に行くようにしているのだった。
じゃあ、車に乗っていれば安全かと言えばそうではない!!!
カイロの道は大概渋滞していることが多いので、どこかで必ず止まるか、のろのろ動く事になる。
そうすると、どこからともなく売り子の男の子や女の子達が、わらわらわら~~~と集まってきて、勝手に車の窓ガラスを拭いて、窓をココン!と叩いて、手を差し出すニコリと笑い言う。
「ハイ、バクシーシ頂戴」
勝手に拭いたのにだ!!
運転手サイード君は機嫌のいい時はいくばくか上げるが、機嫌が悪いと凄まじい言葉と腕を振り回し追い払う。すると子供達は、辞書には決して乗らない暴言を吐いて逃げていく。
凄まじい…。
女の子は大概、花束かジャスミンの花を1個1個つないでお守り?芳香剤?にしたネックレスのような物を売りに来る。
これも機嫌がいい時は…以下同文(笑)
特に後ろに夢乃のような女性=外人で甘っちょろそうな女が乗っていると、数人がかりで車を取り囲み、
「マダム買って~~」
「売れないとお家に帰れないの~~」
と、涙ながらに訴える子もいる。
が!!もう騙されないんだから!!! by夢乃。
でも夢乃も機嫌のいい時は以下同文(笑)そんな高い値段ではないので、バクシーシ(喜捨)で買うこともある。
ある日。
サイード君運転でファリーダの病院に行き、定期健診と予防接種をしてきた帰り道。案の定、また渋滞に巻き込まれ、のろのろと大通りを進んでいた。
その時、(本当はいけないんだけど)車に乗るとゲージに入るのを嫌がるファリーダを、リードをつけて後部座席で野放しにしていた。
そして、いつも通りに、子供達が手に手に、いい香りのする花束やジャスミンの首飾り?を持って車の間を縫うように突進してくる。
いつも不思議に思うんだけど、この沢山の車の中から、どーやってカモが乗っている車を的確に見分けるのか?不思議。
マジでその識別力を感心する。
そして窓を閉めた外で、わーわー「買ってえー!」「マダム買ってええ!!」コールが凄まじい…。
マジうざい。
今日はサイード君もあまり乗り気でないようで、窓を開けない。代わりにファリーダが、にゅっ!と窓の方に顔を出し、わーわー言う子供達を興味津々で見まわした。途端に子供達は
「オッタ!」「オッタ!!」
と、叫んで更に甲高い声でキャーキャー言う。
次の瞬間、ぱーーーーっ!!と、子供達が散った。
あ…嫌な予感がする。
「サイード君…急ごう…」
「アイワ」
サイード君も嫌な予感を抱いたようで、普段は滅多にしないパー!パーパパパパパー!(どけどけ)クラクションを鳴らし、凄いハンドル捌きで、ぐいぐい前に進んでいく。
毎回思うけど、この無秩序無法状態の渋滞の中を進んでいくエジプト人ドライバーって凄すぎるよね!
と、感心している間に、周囲の車の間をくるくるしながら売り子ちゃん達が!!!
きたあああああああああ!!!!
手に手に、子猫を抱いて、掲げて満面の笑顔で走ってくるううう!!!
「サイード君!!!」
ひいいいい!と、叫びながら夢乃はバンバンと助手席のシートの背面を叩く。サイード君も周囲を見回し、いつもニコニコ顔がマジの顔になる。
左右前後全方向から子猫抱えて走ってくる子達。
満面の笑顔で
「オッタ(猫)いるよー!」
「買ってえ~!」
と、走ってくる。
いや!無理だから!買えないから!!
てか!その猫、どっから持ってきたああああ!?
そしてサイード君の奮闘むなしく、いろんな柄の猫を抱えた子供達に車が囲まれてしまった。ファリーダが、猫を見て、しっぽを膨らませ、シャー!シャー!叫び出す。
車をバンバン子供達が叩き、猫をぐいぐい窓に押し付けてくる。片手には売り物の花束とジャスミンの飾り。
うわあああ!やめてええ!!可哀そうだよおお!!!
でも子猫達が目をまん丸にしたまま、だらーんと抱かれたままでいる。流石エジプトの猫!こんなことくらいでは動じない!?
無理無理!と、夢乃は手を振る。子供達はきゃーきゃー言いながら等にへばりつく。危なくて進めない。渋滞で進めない。シャーシャー!叫ぶファリーダ。パパパパパー――と連打するサイード君。
阿鼻叫喚の地獄とはこのことを言うのだろうか…。
そして夢乃が負けた。
「で?それで?花束とジャスミンのヤツを山盛り買ってしまったんだね?」
家に帰り、テーブルの上に山になっている花束とジャスミンの首飾り?を前にして、腕を組んだ和也が仁王立ちで夢乃見下ろす。
夢乃はカイセリカーペットに上に正座して、しゅんとうなだれる。
「ハイ。買いました。負けました…」
窓を開けてお札(確か20か50)を差し出した途端に、窓から次々と花束とジャスミンを投げ込んで、子供達は一斉に引いていった…。猫は投げ入れなかったので安心した。
それにしても恐るべしカイロの売り子の子供達!
恐るべきバイタリティーと商魂と判断力!
恐るべし粘着力と根気と強引さ!!!
次回、あの道を通るときには、偉そうなマダムサングラスに、太々しい態度で後部座席に座る事にしよう。その前にまた和也にがっつり叱られた。
今度こそ負けない。次回は負けない!!!負けないんだもん!!!
そして、ファリーダは予防接種と売り子との抗争で体力使い果たし、2日間ほどぐったりとしていたのだった。
ごめん!!ファリーダ!!!
追記:
カイロにはいたるところに学校に行っていないのか?行かせてもらえないのか?ストリートチルドレンなのか?大勢の子供達が売り子をしたり、いろんな仕事をしていました。
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