第61話 (オランダ)アムステルダムの猫 (花市場の猫とずぶ濡れ猫)

 オランダで10年に1度に開催されるフロリア―ド(国際園芸博覧会)という、お花と園芸満載のイベントがあるのだけど、それがちょうど駐在時期と重なるので、和也に行きたい!と拝み倒した!

  

 10年に1度だもの!次のチャンスは絶対ない!

 だって日本からだと、片持ち直行便でも13時間以上かかるけど、カイロからなら直行便で5時間弱、乗り換え便(1回)でも7時間あればいけちゃう!

 もちろん料金もぐーーっとお安くなるのでお得だ!


 園芸に興味ない和也は乗り気でなかったが、最終的に休暇取れることになったと言ってくれた!

 やったあ!と、喜んだのもつかの間。


「たださ、少し行先も追加していい?」

 と、言いだした。


「え?」

 嫌な予感。


「ドイツ駐在の先輩がさ、その時期ならシュパーゲルのシーズンでもあるから食べに来いよっていうんだ」


「は?シュパーゲル?何それ?」


「ホワイト・アスパラガス。ほら、六本木のレストランで食べて、夢乃が美味しいと絶賛していたじゃないか。あれの本場だよ!」


 ホワイト・アスパラガス?ああ!あのほろ苦い感じのある柔らかいアスパラガス!オランデーソースとの相性抜群のあのお野菜ね!


「ああ!確かに美味しかったよね。あれ、今が時期なの?」


「4月中旬から5月上旬らしいよ。だから丁度夢乃の見たいと言っているオランダのチューリップ畑の見ごろと同じくらいだから、まずがオランダ行って、そのあとドイツに行かないか?」


「素敵!!いいねえ!!」


「よし!じゃあ、俺の方でスケジュール組むよ。泊まりたいホテルとか他に生きた場所ある?」


「フロリアードとチューリップ畑と…見れたら風車みたいなあ。で、ホワイト・アスパラガス食べ放題ね!」


「OK!じゃあ、アムステルダムとベルリンの支社と打ち合わせして決めておくよ」


「え?」

 

「丁度良かったよ。そっち方面に出張予定だったんだけど、これで全部1回で済むから助かるよ。アムスに着いたら俺は支社に顔出すから、夢乃は自由にアムス散策していいよ。翌日フロリア―ド行って、3日目に風車とか見に行くツアーがあるからそれに参加しよう。そしてベルリンに移動して…支社に顔だしできるかなあ?あ、夢乃は自由に観光していいからね?ん?夢乃?どうした?なんか怖い顔しているけど?」


「和也…殴っていい?」


 左手を拳にして右掌でぎゅっ!と押しながら、夢乃はにっこりと眉間に青筋立てて笑った。


 と、いう事で、社畜和也の計画にまんまと嵌り、仕事6、旅行4というオランダ、ドイツ旅行のスタートとなった。ホント!いつもこれなんだから!!!


 旅行の間はファリーダはお留守番。旅行好き猫でも今回は色々準備が間に合わないから。そのうち一緒に海外旅行できたら素敵だよね。


 留守の間は毎日ヤシラが見に来てくれるので安心。ヤシラはファリーダ用のご飯の魚とかお肉を奮発してきたと、何やらアラビックでファリーダに話しかけている。ファリーダも分かっているのか?にゃ!と目を細めている。

 可愛い!


 カイロからアムステルダムまで直行便もあるけど、時間が合わなくてウイーン経由で行くことにした。経由地含めてやく7時間ちょい。


 砂漠から地中海、そして地中海風景の街並みから山岳になり、森と緑と川が増えていく。飛行機の窓から見る風景はいつも大好きだ。アムステルダムの街は上空から見ると、まるで細かい道が走っているように運河がキラキラと輝いて綺麗な模様のように見える。

 素敵だね。

 

 。

 飛行機から降り立った時に毎回思うけど、国により空気違うよね!アムスは空気がひんやりとしていて、清涼感がありカイロと全然違う。空気に水がいっぱい!って感じ!

 空港にはアムステルダム支社の和也の知人が迎えに来てくれていたので、その方の車でホテルまで移動。

 道にはフロリア―ドの宣伝の旗があちこちはためいていたり、看板があったりして、盛り上がっているな―という感じがする。

 

 ホテルに着いてチェックイン済ますと、和也は着替えてカイロ土産抱えて、また知人とアムステルダム支社に行ってしまった。


 もうさ、こういうパターンには慣れているので怒りもない。

「またか、旅行に来ているのに放置かよ」

 と、嘆息して、さっさかホテルの近隣を散策しようと着替えてホテルを出る。


 ホテル前も運河があるのでその脇道を歩く。大きな桜の木が枝を運河に映し出していて凄い綺麗!水と緑と木々と花々。素敵だよね~。空気もいいね。

 

 でも運河筋?によりなんかどぶ臭いところもあるのは生活と運河が密接だから仕方ないのかな?上からみた運河はキラキラしていたけど…まあ…そこはナイルと同じだね。

 

 運河には居住用の船は係留されていて、デッキ?の上に出された椅子に、半袖の男性がのんびり日向ぼっこをしていた。夢乃には寒くて寒いけど、彼等にとっては暖かな日差しの指す日向ぼっこ日和なんだろうな~。

 船の舳先に丸くなって日向ぼっこ昼寝している猫もいる。かわいいなあ。

 

 そう言えば、この国も猫が多い気がする。犬も多いけど。自転車はもっと多いけど。

 レースのカーテンで可愛く飾られた出窓には、可愛い置物が置かれていてどこも素敵なんだけど、時々置物?という猫がいて、傍によると目を細めて挨拶したり、ぷいっ!と部屋の方にいったりしてしまうのでびっくりする。

 どの猫も日差しを浴びようと出窓で寝ている子が多いね。


 大通りに出ると、近くの公園で花市が出ていると聞いたので、レンタルサイクルにまたがり、グーグルのナビで風を切って道を進む。


 ひやー!!風が!空気が滅茶苦茶冷たい!!常夏の国にどっぷり浸かっていたいた身には染みる冷たさだった。でも町中がお花に溢れていて素敵!

 自転車に乗るは日本を出て以来だから、本当に久しぶり!カイロでは危なくて自転車に乗れないからね。乗っている人もいるけど、夢乃は乗らない派なだけ。


 花市場はお揃いのパラソルを広げた露店が連なり、色とりどりの切り花に鉢植え、球根、種に園芸用品まで色々売られていて楽しい!規模は大きい方ではないらしいけど、十分十分!

 お花の色どりも日本やカイロにはない可愛いパステルカラーの感じで素敵だよね。見た事ないお花も沢山ある。でも一番あるのはチューリップ!こんなに形も色も色々あるのかと驚くくらいに沢山ある。


 そして切り花の間に、茶色のしましま猫が丸くなって寝ていた。店先で猫が看板猫よろしく丸くなっている光景は、世界共通だよね~~。可愛いなあ。

 お花の色合いと柔らかな日差しに猫の茶色のしましまが、マジ1枚の絵。ロンドンやパリの猫とは違う柔らかい印象の絵だなあと思った。


 花市場で時間を取り過ぎたので、大慌てで王宮に向かう。結構ナビを見ながら走る人多いので、観光客多いんだろうなあ。

 やはり花市場で時間取り過ぎたので時間がない。夕飯はホテルの近くの大衆レストランで地元料理を食べようと、和也と約束していたので、急いでマヘレの跳ね橋のライトアップを見に行きホテルに戻った。

 夕刻の風はもうマジ身を切りるように冷たいので、マフラー代わりに巻いていたストールを口元まで上げた。


 戻る途中に、運河横の石畳を歩く濃い茶色地に黒の毛足の長いブチ猫が歩いているのが見えた。

 でもなんか変?


 何が変なのか?じっと見ていると、猫が歩いた後に、点々と水たまりができているのだ!そう!猫はまるで泳いできたか、風呂上りみたいにずぶ濡れなのだ!!


 ええええ!?この寒空の下でずぶ濡れは不味いんじゃないの!!


 慌てて自転車から降りて傍によると、猫はずぶ濡れなのにしっぽをぴん!と立てて(ずぶ濡れなので少し情けない感じだけど)、ちらりとこちらを金色の目で見ただけで、黙々と歩いていく。


まるで、

「邪魔しないで!ひと泳ぎした後の家路を急いでいるのよ!早く帰らないと門限が!大変!」

 てな感じで、堂々と黙々と寒風の中を歩いていく。


 オランダの猫凄すぎる!!カイロの猫なら水に濡れた時点で死んじゃうかもしれないよ~~寒すぎて!


 猫は路地に入り、くすんだ赤いドアの前に座り、カリカリとひっかきながら、にゃー!と鳴く。直ぐにドアが開き、優しそうな女性が出てきて、大笑いしながらバスタオルで猫を包んで家の中に消えた。

 あの反応…。きっと日常茶飯事の事なんだね~。

 でも無事に暖かいお家に帰れてよかったよ。


 夢乃はくすくす笑いながらホテルに向かい、運河横の道を再び自転車に乗り走った。


 そして、和也はお約束通りに会社の人達と飲みに行き、ホテルに戻ったのは深夜になり、夢乃が激怒したのは言うまでもなかった。


追記:

 カイロから行くと、アムステルダムは真冬の様に寒かったですが…行った日は現地ではかなり暖かい日だったようです。ずぶ濡れ猫はどうしてずぶ濡れだったのか?今でも謎です。本当に運河で泳いていたのかなあ??トルコの泳ぐ猫みたいに。



 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る