第56話 天蓋ベットと猫 (タマちゃん)
「橋本さんから…こちらで買えるモスキートネットの種類を送ってほしいと…」
はい。田中家後任の橋本家のドタバタに、まだまだ巻き込まれている、カイロ駐在マダム達です。
「モスキートネット?」
「所謂、蚊帳です」
首を傾げる夢乃に、はああ~~と深く嘆息する高田支社長夫人。
「ベットの上にセッティングする…天蓋の蚊帳版みたいな感じかしら?マラリアをきっと心配されているのね」
「マラリアだなんて!ちゃんとカイロの事を調べなさい!と言いたいですね!!腹立たしい!ネットでちょっと調べれべわかるのに!」
はい、エジプトではマラリアは発症例はありませーん!
「モスキーネットだなんて!日本でも売っているでしょうから!自分で買えばいいんですよ!!取り寄せもできるし!!私達をメイドか何かと勘違いしているんじゃないですか!?」
珍しく怒りマックスの梨田マダム。彼女の怒りも納得できます~。
失礼な上から目線のメールでマダム達の反感を買った、田中家後任の橋本家ですが…。高田支社長からの忠告メールが効いたらしく、失礼度が格段に下がった橋本氏と違い、マダムの方は毎日のように失礼メールからのSNSが田中マダムの所にくるらしい。
もはや嫌がらせ???
「夢乃さんはモスキーネットを見た事ないの?」
今日は田中家でお片付けを手伝いながらの、打ち合わせである。
「映画では見たことありますが、現物は見たことはありませんね」
とたんに田中マダムが子供っぽい顔で笑うと立ち上がった。
「こちらにいらして、まだ片付けていないから」
首をかしげながら後に続くと子供部屋に案内してくれた。先頭をあるくのは、タマちゃんである。しっぽぴーーーん!!で、堂々と歩く。
タマちゃんともあと数か月でお別れと思うと、なんだか切ない。寂しいなあ…。
千香子ちゃんの部屋は、シュガーブルーを基調とした可愛らしいお部屋だった。白い大きなビクトリアン風のベットの上に、丸いリングから真っ白なネットが優雅なドレープで広がっていた。ひらひらレースの枕が大小並んでいて可愛い。
「凄い!お姫様ベットですね!」
そのベットの上に、見ていいよ!と言わんばかりに、タマちゃんがドーン!と飛び乗り、優雅なマダムのように寝そべった。可愛い!!
「ふふふ。凄いでしょう?もちろん備え付けのベットなんだけどね。オーナーの趣味らしくて、子供部屋には必ずこれがついていたのよ。でも殆ど使わないわね」
「橋本さんはこれが欲しいのですね?」
「これのもっと大きな物でしょうねえ。どうしても欲しければ、ご自身でオーナーに交渉してつけて貰えばよろしいのよ。そうアドバイスなさいな」
高田支社長夫人があきれ顔でアドバイスすると、田中夫人は速攻でその場で橋本夫人にSNSで返事する。お嬢さんのベットの写真付き(オーナー備品である事を注釈して)で。
速攻で返事がくる。
「そのネットをいただけませんか?」と。
私達4人は色々と絶叫したい言葉を飲み込んで、リビングで冷たいシャイ(お茶)でも飲みましょうとリビングに戻った。
もちろん、先頭を歩くのはタマちゃんだ。タマちゃんは癒しの存在ですよ~マジ天使!
そして梨田マダムお手製の(例の曰く付きの・笑)チーズケーキと冷たいアップルティーをいただきながら、話すは過去のエジプトに持ち込んだ色々グッズの話し。
話題が多いのは、やはり駐在歴の長い高田支社長夫人。
高田支社長ご夫妻は赴任したころは、ネット環境が全世界的にもまだまだだったし、情報も限られていたし、他のアフリカ諸国の情報も混在していて混乱していたので、いろんなものを持ち込んだ人がいたと。
船便で、日本の家で使ていた物をまるまる持ち込んだご家庭もあるそうだ。それこそ冷蔵庫からタンスにベットに至るまで全部。恐らく輸送費の制限がなかった大盤振る舞い時代の話しなんだと思う。
昔は(今も)中東やアフリカ駐在は敬遠されがちなので、必然と長期赴任と鳴ることが多かったので、気持ちは分かるけど、凄いですねえと苦笑した。
高田夫人は古いアルバムを見せてくれて、そこに写る室内の家具を「これとこれ、これもね」と柚木次と指さした。
本当に一目で日本の箪笥と分かる物、冷蔵庫、洗濯機にTV、電話機、自転車(ママチャリ)、スクーターやバイク。室内電灯、座卓、ベット、机、布団に畳、物干しセット(庭にどーんと置くタイプの?)。
ストーブやこたつは短期間でも寒くなるのでわかるが、エアコンを持ち込んだ人もいたのには驚いたそうだ。
エジプトの気候や電圧など合わず、使えない物も多くあったと。
一時期流行った?のが、ドイツやスウエーデンからの高級外車の輸入。こういう車は、帰国時に購入時のお値段や輸入の代金含めても、同じくらいのお値段で中古で売れたりした時期もあったらしい。
ただ、暑い国対応の車ではなかったので、エアコン装備されていないとか、タイヤが酷暑対応でなく速攻でパンクで交換とか…まあ情報は大切だよね!!という事が多々あったらしい。
持ち込んだ家電を稼働させるための変圧器とか大量に!とか。それが原因で床が焦げたとか。大体、税関で何につかうのか?と引っ掛かり没収。もしくは、こっちで買った方が安かった!というくらいのお金を請求されたとか。いやはや。
カイロでは電圧とか規格が日本と違うので、そのまま使えない事が多いんだけどね。しかも電圧?が安定していないし、停電も多いので、繊細な日本対応の日本家電は変圧器かまして使うので壊れやすかったらしい。(昔は?)
ネット環境がなかった時代は、家庭用のレーザーディスクのカラオケセット?や、映像映写セットとか、業者用のを持ち込んでいたとか。それを、各家庭で貸し借りっこしていたとか。凄いねえ。
カップラーメンだけをコンテナいっぱいに持ち込んだ方もいたとか。自分の好きなお菓子を同じくコンテナいっぱい持ち込んだとか!?(本当!?)
「モスキートネットで思い出しましたけど、天蓋付きベットを各寝室につけた方もいましたよ」
「天蓋付きベット???」
あのヨーロッパの王族が寝ていた、カーテンで仕切ったベットの事?
「ええ。あれは寒い国の防寒対策のものなのにね。何かの映画か何かで見てあこがれていたのでしょう。分厚いカーテンがこうぐるりとベットの周辺を囲む物でね。ゴブラン織りだったかしら?
とにかく暑くて使い物にならなくて、速攻で外したらしいわ。その代わりにレースのカーテンをつけたそうよ。でもそのレースに猫がとびかかっつてビリビリに裂いてしまったそうなので…私はそのイメージが強くて、そういうのはつけたいとは思いませんでしたね」
それは凄いなあと想像してみんなで大笑いする。
「橋本さんもその話をどこかでお聞きしたのでしょうか?」
「いいえ。あれは完全に他の国の話を混同していますのよ」
一同は再び嘆息する。
「私は子供の衛生用品をかなり大量に持ち込みました。でも使いきれないので、お知り合いに沢山分けました」
とは、梨田マダム。
「そうそう、昔から子供関連や医薬品、生理用品は同じのが手に入らないから、今でも沢山持ち込む方多いですよね」
高田支社長夫人も頷く。
「生理用品は日本製が秀逸ですよ!」
それには私も激しく同意する!マジ本音!
「医薬品は合わない事も多いので、胃薬、風邪薬に目薬は沢山持ち込みました。経口補水液の粉末とかね。昔はスポーツ飲料水等で代用していましたね」
「ステロイド入りの軟膏もね!」「バンドエイドも」「消毒関連はねえ」
「除菌ティッシュもあるけど、こちらのは匂いがきついから…日本の無香料と言うか、ただのアルコールのみのが懐かしいわ。まあこちらはいろんな匂いが混在しているので、さっと一拭きでいい匂い!と言うのもいいんですけどね」
わかるわかると皆頷く。
「あ!お子さんのと言えば、先日、Tメーカーの〇さんがハナスイ?持っていないと聞かれましたけど、何かわかりますか?」
「ああ!鼻がつまった時に、こう鼻水を吸い出す器具の事よ。うちに幾つかあるので、お伝えしてみて。機械式ではないけど」
「ありがとうございます。〇さんにメッセを送っておきますね」
その場でSNSを送り、速効で欲しいトのお返事が来たので、連絡先を教える。後はお二人でしていただければいい。
こういう集まりも最初はうざいと思っていたけど、いろんな視点や環境やお付き合いで得る情報も違うので、必要なことなんだなと最近は理科した。
もっとも、カイロのこの支社では人間関係が上手く言っているからの話しだからという事もよく理解している。
最初は不安だったこの関係が、まあ色々と紆余曲折はあったけど、最近はなんとか上手くいっていたので、この関係性があと少しで終わりかと思うと…
残される者にも不安や葛藤が沢山あるのだと知った夢乃だった。
その数週間後、橋本夫人の妊娠がわかり(後に嘘だったことがわかる)、橋本氏は単身で来ることが決まり、この天蓋騒動や私達の心配事や悩みが消えてほっとしたのはいうまでもない。
ふと、ここに来た時、最初の頃は田中マダムも梨田マダムも自分に対して当たりが強かったのは、もしかして自分では自覚していない失礼な事や失言や失敗があったのかもしれないなと反省する夢乃であった。
まあ、今ではあのトラブルも思い出になってはいるけどね。
追記:
駐在していろんな事を教えてもらい、学び、とても楽しく面白くて、皆様には本当に感謝しています。(相性の悪い人ももちろんいましたよ苦笑)
そういえば、バンドエイドと言えばカットバンという方もいて、日本でも言い方が違うんだなあと駐在して初めて知った事の一つでした(笑)
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