第53話 砂漠に生まれたものは砂漠に帰る (幸せ猫アヌキス)

 

 和也の知り合いのエジプト人にアリさんと言う人がいる。仕事先の実業家で、いつもニコニコしている穏やかな物腰の方だ。


 そのアリさんの飼い猫が虹の橋のたもとにいったらしいと、和也から聞かされた。10歳くらいだったらしい。エジプトでは平均的な猫の寿命とも聞いた。

 

 日本だと17歳とか20歳とかよく聞くけど、やはりエジプトでは自然環境が日本よりも厳しいので、少し短命なのかなあ?もちろん20歳クラスの猫ちゃんの話も聞くけどね。


「で、そのアリさんが明日、その猫の葬式?をするから来てほしいと」

 

 和也の話しに夢乃は怪訝な顔をした。


「葬式??猫の??猫を大事にするのは分かるけど、内内ではなく知り合い呼んですするものなの???」

 二人は顔を見合わせ、首をかしげる。まあ日本と違う常識や習慣の事を色々考えても仕方ない。こういう時は郷に入れば郷にGO!だ!


 と、いう事で、特別ドレスコードも持参するものもないというけど、お花とお菓子持参でアリさんのお宅に行ってみた。


 アリさんのお宅はヘリオポリスにある高層ビルの高層階。窓からの景色はピラミッドも見えて圧巻!そして玄関入るとカイロを一望できるリビングとダイニングの広いフロアが広がる。


 そこは…葬式とは真逆の派手なパーティー会場だった…。


 猫の形のバルーンが所狭しと飾られ、大きく引き伸ばされた猫の写真の周りには、極彩色の南国の花々が大量に縁取り飾られ、そこかしこに猫の写真がアートの様に置かれている。

 猫を連れているお客もいるし、その猫達も自由に歩き回っている。


 うわあああああ!派手!!!賑やか!!


 要はにゃんこを偲ぶ会みたいな感じ?葬式なんてしんみりしたものじゃない!うちの飼い猫、これだけ可愛くて偉大で愛していたの!!が、バンバン伝わる賑やかなパーティーだった。

 なんでもお祝い事や賑やかな事は好きなエジプト人だけど、いやはや!スケール違いすぎる!!死は新たな旅路の始まりという古代の死生観と通じているのだろうか?それとも悲しみをこういう形で吹っ切るのだろうか?


 愛猫アヌキス(ナイル河の保護神)の大きな写真のそばには、保護猫等の基金用募金箱もあり、お金が沢山突っ込まれている。そういう意味合いのパーティーでもあるらしい。


 アリさん夫婦はアヌキスがいかに偉大であったかを滔々と熱く語り、いろんな写真を見せて思い出を語ってくれた。ここまで愛されたアヌキスは幸せだなあと思う。


 色々な話しを聞いて、ふと夢乃はアリさんに聞いた。


「エジプトでは愛猫はどう埋葬するんですか?」


 アリさんは大事な事だよねと深く頷いて教えてくれた。


「砂漠で産まれた者は砂漠に返すんだ」

「成程。(砂漠の一角に墓地があると思い)専用の墓所があるんですね」

「ミイラにはできないが、彼女も砂漠に還った」

(なんとなく話しがずれていく・笑)

「成程」

「目印に棒を立てたが、次に行くときはきっと砂に埋もれてわからなくなっているかもしれない」


 ん?


 後で和也に聞いたところ、どうも砂漠に行って適当な場所に埋葬するらしい。本当かどうかはわからない。

 ううむ。なんだか大雑把な埋葬な気もするが、エジプトらしいと言えばエジプトらしい話だなあと思った、愛猫を偲ぶ?パーティーだった。


 余談だが、何人かのエジプト人に言われたが、いずれはファリーダは日本に連れていくと言う話に、砂漠の猫は砂漠に還るのがきまりだからと、日本で死んだらファリーダは必ずエジプトに連れ帰って砂漠に埋葬するんだよと、真顔で言われたが…。

 

 あれはマジなんだろうか?と、未だに思う。

 マジだったんだろうなあ。

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