第45話 シナイ山のご来光と猫と犬 (ファリーダと犬のサム)
シナイ山への登頂開始は夜中の2時!
深夜1時には起床し早めに準備する。久しぶりの寒さのせいか、体も頭も思うように動かない。着替えていると、強盗みたいな音を立てて、ドアがガンガン叩かれて仰天する。
ホテルのモーニングコールだ!
びっくりした!!
ファリーダに大人しくしていてねとキスをして、電気を一つだけつけたまま外に出る。
集合場所のカフェで、ガイドをしてくれるアキ-ムさんコーヒーを飲みながら、今日の打ち合わせと注意事項を聞く。
で、1番最後に来た丸藤夫妻は全身高級ブランドで身を固めていて、みんなドン引き。高級リゾート地のスキー場と勘違いしてない?!
因みに私達は◯ニクロ。ふんと、丸藤夫人が私をじろーりと見て何か言いたそうだが、三輪夫妻がいるので悔しそうに言葉を飲み込んだ。
こんな時に何を言うつもりだったんだろう?
てなことで、ホテル前の駐車場に移動。
そこには既に大勢の人達が、エジプトとは思えない程にもっこもこに着込んで集合していた。
私達は準備されていたバンに全員乗り込こむ。20分程、真っ暗な道を連なるバスやタクシーなんかと一緒に走ると、真っ暗な登山道に入口広場に着く。
ガイドのアキ-ムさんが団体行動を、前後の人を必ず確認して無理して急いで登らないようにと、口を酸っぱくして言う。
膨大な数の人が山を登る為、一度見失うと山頂か下山するまで再会することは不可能になるらしい。また何かあった場合の助けも遅れるので、絶対見失わないように無理と無断行動は厳禁と言う。
その時、みんな何故か、丸藤夫妻をみたのは…なんでだろうねえ???
そしてルートは二つあるけど、我々は問答無用でラクダコースになるといわれた。もう一つはモーゼが登ったルートでかなーーーーり険しいルートらしい。
ラクダの道は、ラクダがお客を乗せて登れるように作られた、なだらかなルートらしく、観光客のほとんどはこちらを歩くらしい。
そして、徒歩で行くか、途中までラクダ(有料)やロバや馬で行くか選べられる。
私達は全員徒歩で行くことにした。
夢乃的には、ラクダでいきたいなあと思ったけど、ガイドさんが、たまにラクダが足を踏み外して乗っていた客が谷底に振り落とされ大惨事になることもあるので勧めないというのであきらめた。
確かにねえ…足元が不確かな真っ暗な、ごつごつとした石の道。柵も何もない道。落ちたら一巻の終わりだろう。
そして私達は黙々と他の登山客と一緒に山頂をめざした。
夢乃は和也の前を歩き、その前を三輪夫人が歩く。その前は三輪氏。本当はその前は丸藤夫妻のはずだったが、途中の休憩小屋に来た時には、もう姿が見えなくなっていた。
アキ-ムさんが口にしてはいけない言葉を口にして、あれ程言ったのに!と吐き捨てるように言い、少し探してくるのでと言い残し、この時間までに戻らなかったら隊列組んで登ってくるように言い残し、上に向かって行った。
マジ大変!アキ-ムさん!本当に申し訳ない!
夢乃達は後続のメンバーがきて、アキ-ムさんが戻るまで全員のんびり待っていた。その休憩所でへばって、そこから先の登頂を断念する人も多いらしい。
アキ-ムさんは待つ時間のギリギリに戻ってきた。丸藤夫妻を最終登頂ルートの前で見つけ、全員が追い付くまでそこで待つように言ったらしい。
あの丸藤夫妻がよくアキ-ムさんのいう事を聞いたなあと驚いていると、三輪夫人がこそっと耳打ちした。
「前にも丸藤さん達みたいな夫婦が独断先行して団体行動を乱して大変な事になったことがあったの。だから今回も同じことが起きかねないと思って、アキ-ムさんに昨日の夜のうちに丸藤さん達あてに支社長命令のメモを渡しておいたのよ。効果があってよかったわ。アキ-ムさんには後でバクシーシを奮発しないといけないわね」
三輪夫妻の先見の明が凄すぎる!
本当に参加してもらって助かったと思う!
夢乃達だけだったら、絶対に丸藤夫妻の勝手な行動を抑え込むことはできなかっただろう。
そして一行はアキ-ムさんを先頭に上に向かう。途中アキ-ムさんは危ない場所に立ち、注意喚起して、後続についたり先に行ったりと、凄かった。
丸藤夫妻は、急な登りになるまえの入口で、丸藤氏はへらへらと謝罪し、夫人は不機嫌な顔でアキ-ムさんを睨んで待っていた。
反省してませんねー。
山頂には既に大勢の人達がひしめいていて、どこに行けばいいのか分からないくらい。アキ-ムさんがひょいひょいと歩いていき、こっちこっちと呼ぶ。
全員がそこに集まるが、丸藤夫妻だけは別の位置に移動してしまう。アキ-ムさんが何か言いに行くが、うるさい!というように追い払うのが見えた。
マジ失礼な奴らだなあ…。シナイ山は初めてなのに、何?あの尊大な態度。
見ているとこちらが不愉快になるので、アキ-ムさんが示す何もない真っ暗な空間の方を集中していることにした。
アキ-ムさん指示でホテルのカフェで甘い紅茶を水筒に入れて来たんだけど、マジナイス指示だと思う!暖かくて甘くて美味しい!!
山頂はエジプトとは思えない程寒い!
みんなでくっついて待っていると、真っ暗な前方にぼんやりと赤みがかった光が広がる。同時に何も見えなかった空間には、低い位置に山々の稜線がある事に気付く。
すっ!と眩しい光が稜線の上に輝くと同時に、周囲が瞬く間に明るくなっていく。後は言葉にできない程に美しい光景が広がり、拍手喝さいが沸き起こる。
登ってくるのは大変だったけど、来てよかったと本当に思う。
同時に‥自分がいる場所が…巨大な岩の上で、しかも自分が足を下ろしていた先が…先が…断崖絶壁の上だと気づいたときの驚愕!!!
ぎやああああああああああ!!!
と、心の中で叫んで和也にだきついてしまった。
まわりを見ると、みんな危なっかし気な場所ギッリ!ギリ!で立っていたりしているので、もう!見ているだけでの、うわああああ!です。
そして自分達が登ってきた山の高さと距離にも驚愕した!!
ここを今度は降りるの!?あり得ない!!
でも、山頂でのご来光に間に合わなかった後続の人達が、黒い列となりドンドン下に向かっている。
山頂でも下山を開始している。アキ-ムさんが急げ!と合図し、安全な足場を示して山頂から山道に降りていけた。
上では何か揉める声が聞こえるけど、振り返らない振り返らない。
そのあとはただひたすら降りていくだけなんだけど…
こんな道を上ってきたのかああ!!と、高さとか危なさとか見えると、結構怖い。
和也は夢乃を気遣い、何度も何度も振り返り、手を貸してくれた。
和也!!愛しているよ!ありがとう!!色々と嫌な事言ってごめんよ~~~!!!
抱き着きたいけど、こんな急斜面の石がゴロゴロしている場所では抱き着けないよ~~!
山頂は寒いが、日差しが出ると、今度はめちゃくちゃ暑くなる!周囲の人達もどんどん服を脱ぎだし、最後には上半身はTシャツとか我慢できない男性は裸で歩いている!!
太陽が旅人の服を脱がす童話があったな~と、ぼんやり考えながら、とにかく足を前後に動かす。黙々と動かす。
やっと駐車場に戻り、点呼を取り、そしてホテルに戻り、そのまま朝ごはんを食べて、部屋に戻り、シャワーを浴びて…。
夫婦でバタンキュー!で、爆睡してしまった(笑)
起きたら、ファリーダが私達の間で丸くなって寝ていた。そしてぐるぐる喉を鳴らして喜んでいる。
あーファリーダが一緒でよかったよ。
こんこんと窓が叩かれるので見ると、三輪夫人がおいでおいでしている。
「山口さんの部屋にね、猫がいるらしいのよ。見に行かない?」
チェックアウト前に行こうと誘われ、山口夫妻の部屋にいくと、ベットの上にファリーダのようにでーん!と寝ている薄い灰色のしましま猫がいた。
「山口さんの猫ですか?」
部屋を出るだけの準備を整えていた山口夫人がおかしそうに笑う。
「ううん。個々の部屋のオプションだったみたいよ。部屋を開けたら当然の顔で入り込んでね、ずっといるの。ホテルの人に聞いたら、気性のいい子だから心配ないよって言うの」
「そういう事をきいたんじゃないんだけどなあ」
山口氏もおかしそうに笑い、猫をナデナデした。
「猫がオプションの部屋っていいですね」
でしょう?と山口夫人が笑い、三輪夫人も猫を撫でながらみんなでおかしそうに笑いあった。
ホテルをチェックアウトした後は、セント・カテリーナ修道院を見学し、一路カイロに向かった。山を下り、オアシスを通過し、スエズ湾に出る。延々海岸線を走り、今度はトンネルを通りスエズ湾を渡り、砂漠の道を一路カイロに向かった。
昨日と同じ国道前の駐車場で全員があつまり、挨拶をして銘々帰路に就く。
いろんな事あったけど、なんだか仲良くなれた人も増えてきてよかったなあと思う夢乃であった。
ファリーダ―は家に着くと、大きく伸びをして、ごはんを催促してきた。一番元気で旅を楽しんだのは、ファリーダとサムかもしれないねと、和也と夢乃はおかしそうに笑った。
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