第43話 スエズ運河橋とスエズ運河と猫と犬 (猫率10%犬率1%)
(前置き)
和也と二人で国内小旅行に行くはずが、和也の優柔不断で夢乃の苦手なグループと旅行に行くことに勝手に決められてしまった。
二人は大喧嘩して気まずいまんまで旅行集合場所に行くことになる。
シナイ山ご来光ツアーの一団は、各自が車で移動することになった。
うちはまた、社用車サイード君運転のレクサスを借りた。
高田支社長は旅行のいきさつを知り、社社長専用車の大きなベンツで行け!と、言ってくれたけど、砂漠を縦断するのでね~。何かあったらシャレになんないので、ご厚意だけ受け取りレクサスをお借りした。
いや!レクサスでも高級車なんで何かあったらシャレになんないのは同じよ!でもサイード君は社内1の安全運転ドライバーだから超安心です!
白々とした朝の国道入口前の、駐車場みたいな広場みたいな場所に、既に数台の車が停まっていた。
私達の車が駐車すると、みんなそれぞれ車から降りてきて、朝の挨拶を賑やかに交わす。
一台のBMW(Bメーカー社用車の1台)から、天敵、もとい、苦手な、もとい…とにかく!グッチのGマークが金色に輝く大きなサングラスを、ネイリストに塗らせた長い爪先の指で持ち上げ、不敵な笑みを浮かべた丸藤聡子夫人が降りて来た。
砂漠を超えて車でシナイ山にご来光を見にいくのに、カナリア色の長いサマードレスを翻して、大きな鍔の広い帽子をかぶって、白い小花が散りばめられたサンダルを履いている。
…シナイ山観光じゃなくて紅海のリゾート地に行けば?
夢乃はにっこりと笑いながら、心の中で毒づく。そういう自分が心底嫌になる。本当に彼女に会うと自分の嫌な面が出てきてどっと疲れる。
そして朝っぱらから何か嫌みな挨拶をしてくるのだから、疲れ倍増である。こういうときはにっこり微笑んで、きちんと挨拶を返して華麗に耳スルーじゃ!!
さて、乗っ取られ旅行(夢乃勝手命名)は、〇〇年同期会の4家族でシナイ山に行くらしい。Bメーカー丸藤夫妻、M商社長谷夫妻、J社の山口夫妻、そしてうち。
和也達男性陣達は楽しそうに今日と明日の計画を話し合い、楽しそうに馬鹿笑いしている。
いいですねえ!
ぎっ!と怒りの目を和也に向けるが、和也は楽しくて全然気づかない。
かずやあああああ!!!
で、私達マダムは、マダムヒエラルキーが、丸藤>山口>長谷>>>>夢乃なので、3人は夢乃をガン無視して、自分達にしかわからない話題で盛り上がっている。
わからないのに話を振ってくるので、怪訝な顔をすると、「あら失礼!そういえば、花岡さんはそのときエジプトにいませんでしたわねえ」と、楽しそうに言ってくる。
うーむ??こういう子供みたいな嫌がらせをして何が楽しいのかさっぱり!わからない!
わからないけど、これはお仕事!と思い、夢乃は笑顔を顔にへばりつけながら、「へえ~」とか「凄いですね~」とか適当に相槌を打っていた。
もう既にHPポイントは半分に減っている。早く安全圏の馬車(車)に戻ってポーション(甘いジュースか炭酸水系)でも飲みたい気分だよ!!
さて、全員集まったので、まずはカイロから各自の車でスエズ運河を目指す。
途中、ドライブインで休憩予定。
スエズ運河を渡り、スエズ運河を見ながらランチ。
アイン・ムーサでメラ(モーセの泉)を見学。
ワディ・フィランのオアシス見学。
シナイ山麓のセント・カテリーナ村のホテルにチェックイン。
今日は大体こんな感じ。
スエズ運河までは各自の車で向かうので、気が楽だ。
最初は和也と口もきかないでいたけど、砂漠地帯の村とか砂漠を見ていて、段々と気分もあがってくる。
それにね!今回はファリーダも一緒なの!
今回の旅行を滅茶苦茶にされて激怒した夢乃の剣幕に、驚き反省したのか?それとも緩和剤としてなのか?ホテルに聞いたら猫もOKと言うので、ファリーダも同行することになった。
私達よりエジプトを旅慣れているファリーダは、窓から外をみたり、ゲージの中で寝たりりと余裕で旅を楽しんでいた。
後部座席にファリーダのゲージを挟んで、夢乃は和也から顔を背けて窓の外を見ていた。
「夢乃…もういい加減機嫌をなおしてくれないか?」
サイード君がいるから喧嘩腰にはならないだろうと判断してか?和也が声をかけてくる。
「は?いい加減って何?」
「いや…その…ごめん。そうじゃなくて、もう旅行始まったし、折角だから楽しもうよ」
「…はあ・・・わかったよ。いいよ?別に?ただね、約束して欲しいんだけど」
「何を?」
「これを最後に私をこの会に巻き込まないで!」
「そんなに聡子さん達が嫌か?さっき、楽しそうに話していたじゃないか」
ぴきっ!とこめかみの血管が切れそうになった。
「あ・れ・を?た・の・し・そ・う?」
「ごめん!夢乃ごめん!約束するよ!これが最後だから!もう二度としない!
向こうに着いても無理して会話に入ることはしなくていいよ!なるべく俺がそばにいるから!」
「ほんとね?約束だよ?それ破ったら、私、日本に帰るから!離婚してもいい!こんなことくらいで私の気持ち理解できない和也なんかと、暮らしてなんかいけないから!
それと、この会話は録音してあるからね。約束破ったらうちの親や友達全員に流すからね」
和也がドン引きするくらいの驚愕の顔で、うんうんと高速で頷いた。
でも本当に分かっているのか?夢乃は懐疑的だった。
やがて前方に海のようなのが見えて来た。スエズ運河だ。地中海と紅海をスエズ地峡で結んだ人工海面水路だ。学校の歴史か地理の試験にでてきたよね~。
ここを渡るには、「スエズ運河橋」もしくは「エジプト-日本友好橋」で物凄い高架橋で渡る。
そう!この橋は日本政府の支援で日本の建設会社、製鉄会社、鋼管会社で作られたの!エジプト来るまで知りませんでした!
他に、アハメド・ハムディ・トンネルというトンネルもあるけど、漏水したことがあって、その時も日本政府が支援して修復したんだって!知りませんでした!
橋の上からみるスエズ運河は、平坦な砂漠の中に、真っすぐ!に大きな水路が遠くまで続いていて、キラキラ輝いていて、その中をバカでかいタンカーが通っていくのは圧巻だった。
和也と喧嘩していたのも忘れて、はしゃいでいた。ファリーダも窓に前足を置いて、黄緑色の目をキラキラさせて見つめていた。
スエズ湾を見ながら食事ができるレストランでも、各車のスピードにより時間差があるので、着いた順に銘々のテーブルで食事をしたので気が楽だった。
なんと!1番乗りは夢乃達の車で、丸藤さん達の車がつくころには食事を終えて、海岸線に出て行くところだった。
サイード君は1番乗りなのが嬉しかったのか、なんだか鼻高々な顔で他のドライバー達と奥のテーブルで仲良くおしゃべりしながら食事をしていた。
仲良さそうで楽しそうでなによりだ。
そこからアイン・ムーサに向かい、「メナ(モーセの井戸)」を見学。
旧約聖書の中に出てくる、モーゼの一行がエジプトから同胞を連れて海を渡った時、最初に宿営した所なんだそうだ。
で、ここの井戸の水が「苦くて(海岸が近いので塩辛くてじゃないか?説もあり)飲めなかったが、神の示した木を投げ入れると甘くなった」という伝説を残した古い井戸が幾つかあるのだ。
井戸と言っても日本の井戸みたいに小さくない。結構大きくて、下を見ると…
ヤシの木が生えてる。草が生えている。
・・・・・。
長い年月で土や砂が溜まり、水はとっくに枯れているらしい。
そりゃそうか、モーゼが海を割ったのってすんごい大昔だよね?
ここで井戸見学をしたり、お土産物屋さんを覗いたり、バカ高いジュースや水やコーヒーにナツメヤシ菓子を食べていると、支社長専用車のような大型ベンツが停まった。
こんな砂漠に高級車が来たので、みんなで視線を向けると、と見知った顔の夫妻が可愛いコーギーと降り立った。
「三輪支社長!!」
いままで尊大な態度で、cafeもどきの店に椅子に座っていた丸藤夫妻が仰天して立ち上がる。
そう、彼らはBメーカーのカイロ支社長夫妻。高田支社長夫人曰く、丸藤夫人の天敵なんだそうだ。
何故ここにBメーカーカイロ支社長の三輪夫妻が現れたか?
経緯はながくなるので端折るが、
今回の旅行の経緯に夢乃は珍しく怒った!流石に腹に据えかねた!
だって!楽しみにしていた夫婦旅行を乗っ取るとか、あり得ないでしょう?!
普通は遠慮するでしょ?「楽しんできてね」と。なのに自分達も行きたいとか!なんじゃああああああ!!!(すみません口が悪くなりました)
しかもその後の打ち合わせで顔を合わせるたびに(ネット)、嫌味のジャブを浴びかせてくる。意味不明だよ!!
他社の奥さんになんでこんな意地悪するの??!
何が楽しいの!?
できれば距離を取りたいけど、そうもいかないのが日本人社会だもんね!!
それだけ気を遣ってあげているのに!我慢しているのに!頑張っているのに!肝心の和也が気づかないのが一番腹立つけど!
しかも女の直感で!どう見ても旅行期間中に彼女達の女子高生の嫌な部分のノリを満足させるためのサンドバックにされるのが明白だから!
誰かにその怒りを聞いてほしくて愚痴りました!
愚痴ったのは、いろんな年齢と階層のマダムが集う麻雀クラブ。ちょい口は悪いが、気さくなマダム達が多いので、たまに参加している。愚痴も耳から左に聞き流す感じで、外に漏れることがないので不思議なサークルだ。
そこで愚痴ったら、驚いたことに丸藤夫妻の横暴ぶりは、夢乃に限った事ではなく、結構被害者がいることがわかった。
彼女を一番嫌っているのが丸藤夫妻の上司夫妻。一番こびへつらうと思っていた方に嫌われるとは、何をしたのか!?
日本人社会って、大概密接で一か所に固まり在住して、その中で、その地域で一番力のある会社がトップに立つ、ヒエラルキーのピラミッド構造になっていることが多い。利害関係のないまっ平らな日本人社会もあるらしいけど、まあ、各大都市の日本人社会は大概ピラミッド構造。
一番上は大使館だけど、これはもう雲の上で除外ね・笑。
トップは一番力のある会社の支社長夫妻。次がその次に偉いグループの…と、段々すそ野が広がる感じ。
夢乃達一般社員夫人はグルプー毎に分かれるけど、まあ大体は気楽な真ん中。
他者のトップの支社長夫人クラスと、一般社員クラスはヒエラルキーが違うので、あまり接点はない。パーティーで挨拶するくらいか、同じサークルに入っているかどうかくらいしか接点ないんじゃないのかな?
なので、そこを悪用して、丸藤夫人が三輪支社長夫人のない事ない事を一般社員夫人達に吹聴して、三輪夫人を希代のマウント悪支社長夫人に仕立ててしまったのだそうだ。
ひえー!!なんでそんなことする???
で、他社のトップ夫人と末般社員夫人達の間に接点がないのに、なんでバレたか?
その麻雀サークルは年齢やクラス関係なくいろんなマダム達が集っていたので、三輪夫人の人となりを知る方が、噂がおかしいと話した事から芋ずる式にその悪事がバレたのだそうだ。
日本人社会、人数大勢いるし、ピラミッド構造も広いけど、その実はめっちゃ狭いですからねー。どこでどう縦や斜め横で誰が繋がっているか分からない、恐っっそろしい世界ですからねー!
なので、今回の旅行乗っ取り事件(夢乃勝手命名)を知り、みんなで丸藤夫妻?夫人にお灸を据えよう!もしくは反撃しよう!好き勝手させてたまるもんか!!という事で…、
三輪夫妻がノリッ!ノリ!!で、偶然を装い旅行に途中参加と相成ったのでした。
続く!
PS:基本、登場人物はお名前は仮称です・笑 企業名も仮称です・笑。
なので、丸藤夫妻というのは当時そういうお名前の方がいなかったので使いましたが、丸藤さんとは全く関係ございませんので!
AさんとかBさんにすればよかったかなあと反省。
因みに、丸藤(仮称)夫人一派の話を書くと、延々悪口になるので・笑
ここも10回以上書き直しています・笑 きっと永遠に書き直すかも・笑
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