第38話 服のオーダーと犬 (ゴールデンレトリーバー)

 エジプトに行くと、空港からワンピースみたいなゆったりとしたガラベーヤという、民族衣装を着ている人を多々見かけると思う。


 色的には白(でも砂ぼこりで少しくすんでいる)や、水色、薄い水色や薄い灰色や細いストライプだったりと色々。でも全体的に涼し気な色が多い。


 生地は涼しい風通しのいい生地が多い。木綿、モスリン、麻、中にはシルク。


 仕立ては貫頭衣仕立てで足首まで隠れる裾長 のワンピース状態。

 袖口と裾がやや広がって風通しがよくなっている。

 帯や腰紐など、体を締め付け風通しを悪くするような物は一切使わない。

 エジプト気質みたいに、緩や~~かに着装するのが特徴。

 アンダーウエアとして、普通にシャツや下着をきたり、スーツや洋風の服の上に着たりもする人もいろとか。

 

 いずれにしても、酷暑の砂漠地帯では、この空気に風がよくとおる服は涼しくて、気候にあった服だと思う。 


 在住日本人や外人でもルームウエアや寝間着代わりにして着ている人も多い。和也も現地スタッフからプレゼントで貰ったのを愛用している。

 

 で、このガラベーヤには袖口、首回りや胸元というか、オリエンタル刺繍と呼んでいる、大きな美しい模様の刺繍が入っている。物によっては、ビーズや細かい貴石を縫い込んだりもしていて、とても綺麗。


 なので、光沢の美しいエジプトシルク等でノーカラーのスーツやワンピースを仕立て、それにオリエンタル刺繍をしてもらうオーダーが日本人マダムの間では定番だった。


「夢乃さん、今度、M銀行支店長の相田さん宅で、お洋服のオーダーで集まるのだけど、参加しません?」


 セレブ田中夫人から、定例お茶会の席でセレブなお誘いがきてしまった。

 ううむ。 


 夢乃は基本、シンプルが好きなので、綺麗だと思うが、自分で欲しいとは思わなかったが…。お洋服オーダーとかは1度はしてみたかったのでOKした。


 なので、夢乃もオーダーの会(夢乃勝手命名)に参加することになった。


 田中夫人の説明によると、作り方は2通り。

 

 一番多いのが、どなたか中心になる方のお宅にお針子さん(まるで明治時代みたいな言い方だよね~)を呼んで、そこでお茶とお菓子を摘まみながら、サンプルから生地を選んで、服のデザインを選んで、刺繍を選んで、採寸をしてオーダーして、前金を払う。

 

 その後は各自のお宅にお針子が2~3回来てフィッティングをする。

 デザインや刺繍の細かさにより違いはあるが、大体1~2か月後には出来上がり、残りの代金を支払う。


 または、直接お店に行ってオーダーする方法。オーダーの仕方はお店により異なるらしい。

 

 お茶にお菓子を摘まみながら優雅にお洋服のオーダー…。

 どこのセレブか王侯一族ですかあ!?と、叫びたくなるしなんだか気恥ずかしい。


 それを気おくれもせず、おほほほと笑いながらされる皆様はセレブすぎて…言葉にならないです~~。一般庶民ですみませんと言いたくなる夢乃であった。


 その日のオーダーの会(夢乃勝手命名)は、某金融機関系支店長のお宅で5~6人程の様々な奥様達が集った。


 夢乃は初めてなので、手慣れている田中夫人に同行の形で参加。梨田夫人も他のお子さん絡みのお友達と一緒に参加していた。前に注文した服を受け取りに来たそうだ。お子さんはベビーシッターに預けているらしい。


 全員が集まると、いつものように皆様さまご持参の高級お菓子を並べて、高級茶器(銀食器がある!!)で高級…まあそういう感じでスタート。


 隣接するサブ・リビングルームでは、お針子を引き連れた洋服屋のオーナー夫人が、これでもか!!という風にじゃらじゃら宝石アクセサリーをつけた手で

てきぱき指示を出して布やサンプルや、洋服の見本を着せた人型を並べていく。

 

 華やか~~!!

 

 オーナー夫人も加わったお茶会がスタートし、頃合いをみて順次オーダーに入る。


 夢乃は田中さんの指示でまずはデザインを決める。シンプルなワンピースと、ノーカラージャケットにした。これならどこででも応用が効いていろんなところでもきれるだろう。

 刺繍もシンプルなのにした。ジャケットは袖周りと縁回り。ワンピースは襟ぐりと、半袖の袖周りにさらにシンプルに。


 みなさんはそういうシンプル系はオーダーしつくしたのか?「どこに着ていくんですかあ??」というような、凄いドレスを注文している方も多々いて驚いた。

  

 梨田夫人は濃いワインレッドの生地に、同じ色合いの刺繍が沢山入った、パフスリーブの長い裾のふんわりとしたドレスを広げていた。色白でスレンダーな彼女にはとてもよく似合うと思う。


 他の方達はビーズやスパンコールに小さなリボン等も入れ込んで…凄いと言うか華やかと言うか…どこに着て…以下自粛…。


 他にもサンダルやレッスンバックみたいのから、トートバック等色々あった。どうも写メをみせて、こういうデザインで作ってとお願いすればいいみたい。

 

 基本は、ハンハーリのアクセサリー注文方式と同じらしい。

 成程。


「小物は少しづく作ってもらって、帰国した時のお土産に配るのよ」

「喜ばれるわよね」

「ペットの服もOKだから、夢乃さんも如何?」


 ペットの服…。凄そうだけど、ファリーダは断固拒否しそうなのでやんわりとお断りした。でも小物系は可愛いなあ~と思いつつ、まずは欲張らず、初心者コースをオーダーした夢乃であった。


 一通りのオーダーが終了すると、お針子達は手早く片付け帰る。オーナー夫人は残り、みんなとお茶をしながら、こういう小物や服もできますよ?と営業を掛けるのであった。商魂たくましい。

 そして次回のオーダーの会の約束をして解散である。


 今回のお邪魔したお宅には、ゴールデンレトリーバーが2匹いた。オーダーの間は別室に入れられていて、お茶会が解散の頃に部屋から出されてみんなに挨拶に来た。


 しっぽをぶんぶん振り回して、へへへへ!と大喜びですりすりしてくる。

 可愛い~~!


「ここでは犬は宗教的に不浄の動物の一つにされているから、時々大変なのよ。この間なんか、散歩をしていたら!わざと車が幅寄せして!この子達をひこうとしたのよ!あり得ないでしょう!?」

 怒って言う相田夫人の言葉に夢乃は仰天した。

「そういう事があるんですか?猫には寛容な国なのに…」


「猫は神様ですからね」

 そうそうと、皆頷く。

「でも、上流階級では高級な血統書付きの犬を引き連れるのがステータスでもあるし、欧米人は犬を飼っている人も多く交流も多いから、犬への対応も見解も色々な感じということろかしら?」


 朝の涼しい時間帯はお散歩タイムにいいので、いろんな犬種に沢山会えて面白いわよ、と教えてもらった。今度そのお散歩コースを散歩してみようと思う。


「暑い時期になると、毛足の長い子達は全員ライオンカットされるから、こんな犬種いたかしら!?って驚くことも多いわよ」

「それは楽しみですね」


「猫を散歩している人も多いわよね」

「そうね、肩に乗せてとか、自転車やバイクの籠に乗せてとかね」

「車の屋根の上に乗せたままとか!」

「あははは、それは野良猫を乗せていて気付かないパターンじゃない?」

 

 犬好きも猫好きも楽しい談義が続いてお茶会はなかなかお開きにならなかったが、色々情報を仕入れることができて楽しかった。


 因みに、オーダーした洋服は1か月後に夢乃宅で他の奥様達も完成品を受け取った。上品なベージュのジャケットとワンピースは、その後、あちこちの場面で活用されて、長く愛用荒れることになるとは、夢乃はその時は夢にも思っていなかった。

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