第37話 野球場と猫 (売店で売り子猫とスタンドで観戦猫)

 海外の日本人会には各社や各人の交流を深める為に、いろんなサークルや会がある。カイロも日本人会登録の会から、個人的サークルや少人数まで様々あるらしい。

 

 和也もお付き合いや、前任からの引継ぎみたいな会やサークルに入っている。


  夢乃は「猫好きの会」というのには入っている。意外とカイロで猫を飼っている人が多く、その方達とSNSで繋がり、定期的に情報交換と我が家の猫自慢をしている。結構楽しい。


 今回はその「猫好きの会」ではなく、和也が入っている野球チームが、カイロ在住の各国のアマチュア野球チームとの親善試合での話し。


 エジプトでスポーツと言えば、やはりサッカーが主流だし、バスケにクリケットにゴルフにテニスな感じで、野球はいまいちだけど、各国でアマチュアチームが幾つかあるらしい。もち、子供チームもね。


 「あるらしい」と曖昧なのは、スポーツ全般に夢乃は興味がないから。

     

 その日も和也所属のチームと、どこかの国のアマチュアチームと親善試合をするために、マーディーにある球場に集合していた。

 チームの男性陣達はやる気満々で、早朝からノックやなんやらおそろいのユニフォームで張り切っている。


 奥様達女性陣は、何故か全員、バックヤードに集合。そこで長年このチームのバックを仕切っている方達が張り切って皆に指示を出す。


「ここの球場は格安でレンタルできる代わりに、管理や売店営業に掃除等は自分達でします。アマチュアチームの試合ですが、野球好きのチーム関係者以外の人達も沢山見に来ます。その対応もします。

 なので、これから皆さんにはその業務の分担をいたしますので、各自、ご協力お願いいたします!」


 そう言って、夢乃と最近カイロに来たばかりの末野夫人にトイレのカギを渡してきた。どうもトイレ掃除は新参者の仕事と決まっているらしい。

 ううむ、如何にも体育会系(偏見ですみません)。何故私達がトイレ?と、色々突っ込みたいが、こういう時は文句は言わず従う方が得策である。

 夢乃達は鍵を持って、指定の男女トイレに向かった。


 海外の公衆トイレは汚い。日本の清潔な公衆トイレがマジ神掛かっていると思うくらいに、ほんとに汚い。涙。


 なので、覚悟をもって開けたトイレは、以外にも清掃が行き届き綺麗だった。(そりゃ専属の掃除者がいるはずだものねえ)

 軽く掃き掃除して、トイレットペーパーを補充するくらいでいい感じだ。


 リーダーさんに清掃終了を告げると、リーダーチェックが入り、OKが出る。私達は売店の売り子のヘルプを指示され、売店に向かう。


 売店と言っても、グッズ等を売るのではなく、観客用に飲み物や軽食を売る売店。

その売り物の仕入れも自分達でするそうで、その担当の夫人達がバックヤードのキッチンで手際よく、ホットドッグに簡単ハンバーガーに飲み物の準備をしていた。

 販売用のクッキーは可愛い袋に小分けたのを、ポップコーンも紙のケースに入れたのを、いろんなエジプト風お菓子も、どんどんトレーの中に並べて料金の札を貼っていく。


 なんだかわくわくするね!こういうの嫌いじゃないよ!


 そんなこんなで試合が始まり、そうするといつの間にスタンドにお客が三々五々で集まり観戦を楽しんでいる。比例して売店も忙しくなり、結構楽しんで売り子をした。


「ヘイ!ガール!」

 誰がガールじゃ!と、心の中で突っ込みながら、「ハイハイ」と振り返ると、


「1コーク、2スプライト、3ホットドッグ、and…この猫幾ら?」

 と、夢乃の3倍は大きな体の男性が、にこにこしながら言う。


「猫??」

 彼が指さす先を見ると、売り物クッキーの袋の間に、茶色のでかい縞々猫が、ぐーすか寝ている。


 本物???


 思わず、ホットドッグのソーセージをひっくり返すトングで、つんつんと突く。ぴくぴく!と、薄汚れた肉球の後ろ脚が動く。

(トングはちゃんと洗って交換しました)


 生きている。そしてこの堂々っぷりの寝方。流石!カイロの猫!!


「うーん…そうね…じゃあ。100ドルで」


 男性はゲラゲラ笑い、コーラとストライプとアルミホイルに簡単に包んだホットドックを受けとり、猫の横の空いているトレーに100ポンドを入れるとスタンド席の方に戻った。


 猫は全然動ぜず、がーすか寝ているので、そのままほっといた。何人かの奥様が猫をどかそうとしたが、触りたくないのか?結局そのままだった。


 売店の販売がひと段落し、自分達で残りのハンバーガーやホットドッグを食べながら、試合風景をみていると、スタンドの席のあちこちに猫がのんべんだらり~~んと、てんでんに寝ている姿が確認できた。


 猫も野球が好きなのかな?

 それとも、ぽろぽろ零れるホットドッグやハンバーガーのカスのおこぼれに与っている??


 売店の猫もだらり~~んと寝ている。売店には簡易クーラーがあるので涼しいのだ。実は冷凍庫にアイスキャンディーもある。美味しい~~~。


 試合は以外にも接戦を繰り広げ、暑くなる昼前には引き分けで終了。みんな満足で挨拶をして終了。みんな手際よく片づけを始める。


 ベンチは各チームがゴミを集め、掃除をしていく。スタンドの方もゴミ袋をずるずる引きづりながら回収していく。

 売店も奥様達が手際よく片付けていき、どんどん電源落としてしまっていく。トイレは専属掃除人がするそうなのでいいらしい。よかった!!


「ねえ?このお金は何???」


 リーダーさんが戻ってくると、トレーの上の山盛りエジプト£の小銭達を指さす。


「ああ!さっきまで売り子手伝っていた猫だいたんです。で、お賽銭みたいにお釣りとかを置いていってたんですよ。

 あれ?猫?いませんね???」


 売店の猫もスタンドの猫もどこにもいない。人間が撤収と同時に猫も撤収なのかな?

 すると、アルミ製のトレーを拭きながら、手慣れた夫人が言う。


「あーあの猫達ね。みんながソーセージをあげていたから、お腹いっぱいになって帰ったんじゃない?」


 成程。ちゃっかりおやつをいただいていたのね。


 私達は片づけを済ませ、打ち上げで予約している、日本人が経営している日本食レストランに三々五々に向かう。ここは美味しいのだ!


 猫はもういなくなったので、猫が集めた小銭はどうしようか?という話になった。猫が集めたものは猫に使おうと言うことになり、そのまま「猫プール」して、次回にキャトフードを買ってくることになった。


 でも野球場の猫達は、ホットドッグのソーセージの方が好きそうだなあと思う夢乃であった。猫がいるなら、またお手伝いに来てもいいとも思う夢乃であった。



追記:

いろんなサークルやお祭り等のお手伝いも沢山させていただき いろんな経験ができました。カイロの猫はどこでもいて個性的でしたね。売店の猫はそこが指定席だったらしく、売店を開店すると何回か見かけました。

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