第35話 ラマダンの子猫 (白黒パンダ柄子猫とファリーダ)
ラマダン最終日の朝、ファリーダにご飯をあげて、自分達のごはんの用意をしてダイニングに行く途中で違和感を感じた夢乃。
「ん!?」
あぐあぐと、ささみをレンチンした朝ごはんを食べるファリーダが、困った顔で夢乃を振り返っている。その横には見慣れない白黒子猫が、無我夢中であうあう言いながらファリーダのご飯を食べている。
「!!!君!!誰!?」
また玄関からよそのお宅の猫が入り込んだのか!?と、仰天する夢乃は、その白黒模様に見覚えがよみがえってきた。
「あああああ!!羊の子猫!!!」
そう、昨日、ヤシラと羊を見ていた時に、少年の肩掛け布製バックに入っていた子猫だ!それがなんでここにいる!?
夢乃の大きな声に、バスルームで髭を剃っていた和也が驚いて出てきた。
「うわ!!また迷いネコか!?」
「違う違う。多分、昨日の羊飼いの?少年が持っていた猫だと思う。カバンの中に入っていて、抱かせて貰ったって言ったじゃない?」
「ああ!パンダ柄の子猫!それがなんでここに!?」
「わからない…」
とりあえず、ファリーダ用にもう1個のささ身をレンチンしてほぐしてあげた。2匹は仲良く並んで、あぐあぐ朝ごはんを食べた。
和也が会社に行った後、子猫をふん捕まえてバスルームでノミチェックの、軽くシャンプー!
ノミは幸いいなかった。フンもないので、恐らくセーフ!よかった!
でも病気とかはわからないので、ファリーダ・バスルームに隔離した。
簡易トイレとお水とカリカリと古いバスタオルを篭にいれて置いて。
ヤシラが出勤してきて、にこにこ挨拶をしてくる。早速子猫を見せると、ヤシラはにこにこしていう。
「昨日、マダムが買った。10ポンドで」
と、言う。
ああああ~~~!やっぱりあの時か!
羊の後で、ヤシラと少年が何か話して握手した時だ!
ちゃんとその時に確認しなかったのがまずかったね…と、和也に言われたが反省しきりだ。
和也が置いて行ったピンクの領収書を見るが、羊と合算なのかどこにも10ポンドは記載されていない。
もしくは少年のポケットマネーになっているのかもしれない。
「仕方ないなあ…ラマダンちゃんも、うちの子になる?」
白黒子猫はファリーダ・バスルームで、お腹いっぱいで綺麗になって満足気にすぴーすぴーと寝息を立てて寝ている。
午後に動物病院に電話をして白黒ちゃんの健康診断をしてもらった。幸い感染症も大きな病気もないらしく、予防接種して解放となった。少し肝臓数値がいまいちだが、許容範囲だと言われた。
もしかしたら子猫もラマダンに付き合わされて、日中断食をしていたのかもと苦笑していた。
白黒ちゃんはオス猫。ファリーダはメス猫なので、共に飼うのなら早めに去勢手術をすることを勧められた。
「オス猫か…」
和也は動物病院の健康診断を見て渋い顔をした。夢乃もだ。
何故なら、このアパートメントのオーナーは、猫を飼うのはOKだが、オス猫はNGと言っていたからだ。
理由は簡単で、オス猫はスプレーをするから。
その匂いは強烈で、幾らクリーニングしても完全に除去はできないからだと言われた。
強烈な猫好きだけど、賃貸に関してはドライだ。
「里親探そう…可哀そうだけど。ラマダン時期の子猫で、カワイイからすぐに見つかるよ」
夢乃は白黒猫とすっかり打ち解けて、仲良く丸くなって寝ているファリーダを見て切なくなった。
夢乃的にも白黒猫がかわいくて「ラマダンちゃん」と名付けようと思っていたのだが…。
ここでオーナーと揉めるのは避けたいので…夢乃も里親探しを納得した。
里親は意外なことにすぐに決まった。
なんと!ヤシラの娘の娘夫婦が猫を飼いたがっているということで、とんとん拍子に話が決まったのだった。
びっくりだよ!!
もしかして、ヤシラ、それ狙っていた?なーんて穿っちゃうほど、都合のいい話の流れだったからだ。
でも違った。
娘の娘夫婦は元々旦那の実家で飼っていた猫を連れてきて飼っていたらしいが、ラマダンが始まるちょっと前、ハムシーンが来襲したときに死んでしまったそうだ。
原因は不明。
孫娘は大層嘆いていたそうだが、これもアッラーの思し召しとあきらめていたそうだ。
そんな時に、おばあちゃんのヤシラから、勤め先の日本人マダムがラマダン用羊を購入したときに、羊の大群に踏まれそうになっていた野良子猫を助けた少年に、マダムが痛く感動し、少年にバクシーシを与えて子猫を譲りうけたという話をしたそうだ。
‥‥ヤシラ…話をかなーーーーーーーーーーり!!盛ってない???
私!!そんなこと一言も言っていないよ!?
そのラマダンの善行を積まれたラッキーな子猫が、たかがオス猫というだけで飼うことができなくて、マダムが悲しんでいるという。
(だからヤシラ!!話しを盛っているよ!!)
だったらそんなラッキーな子猫を是非に飼いたい!と、孫娘夫婦がヤシラおばあちゃんに懇願してきたんだそうだ。
てなことで、善は急げで(ファリーダが離れがたくなる前に)、孫娘夫婦がやってきて、白黒ラマダン子猫と面会したのだった。
悔しいことに、白黒ラマダン子猫はあっという間に、可憐な目をした美しい孫娘ちゃんのいい子いい子マッサージに陥落し、ごろごろ喉を鳴らして、だらーーんとだらしなく腕に抱かれてしまった。
あうううう~~白黒ラマダン子猫ちゃん~~。
ファリーダも何か予感していたのか、その様子を遠巻きにリビングの手すりからじっと見ているだけだった。そして、お礼のチョコレート詰め合わせと引き換えに、白黒ラマダン子猫ちゃんは、若いエジプト人夫婦に貰われていってしまった。
幸せは1000%間違いないので、心配はしていない。ちょっと残念なだけ。
ファリーダは子猫を見送り、暫く「戻っておいで~」というように、玄関であおーんあおーんと鳴いていたが、和也が帰宅したら諦めたらしく、一匹で寂しそうにごはんを食べていた。
白黒猫ちゃんが数日使った食器、バスタオルとベットの篭。子猫用キャットフードに日本の猫用おやつに玩具と蹴り蹴り人形等はあげた。家にあっても見るたびに切なくなるからだ。
こうしてラマダンの猫は、あっという間に我が家を去った。
あの羊の群れの中で出会ったのも、きっと彼女達の家に行くための何かのご縁だったんだろうなあと、ラマダンの不思議をつくづく思う夢乃だった。
そして、ベランダから熱気こもるカイロの街をファリーダを抱きながら見つめながら嘆息する。
メスだったらなあ…。
はああああ~~~~~~~~。
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