第28話 未完成のオベリスクのある石切り場の猫 (縞々猫)


  年末年始が開けて日常が戻ってきたが(新年の花火はすごかった!)、気候的に涼しいせいか、日本が年度末なせいか?出張者がまたどっと増える。

 毎週毎週違う人達を視察と言う名の観光案内をしていると、商社勤務じゃなくて観光会社に勤務しているのではないかと冗談めいて言う。


 いやマジで。

 花岡和也達は仕事で忙しく手が回らない時は、花岡夢乃が毎週かり出される。ピラミッドとスフィンクスに太陽の船、博物館に古代の村、ハンハリーリ、ムハンマド・アリ・モスク等等…市内観光の説明もお手の物になっている。

 一番最初にあんちょこで、冷や汗だらだらで説明していたのが遠い過去のようだ。

 

 嘘です…今でも緊張します。


 と、言うことで、今回は何故かアスワンの観光に付き合わされて同行している。


なぜ私が??と、アスワンに向か早朝の飛行機の中で自問自答する夢乃。


 答えは、急に仕事の視察先がなんかのトラブルで視察できない状態になり、予定変更で日帰りアスワン観光を誰かが組んだから。

 しかも組んだ者は同行できなくなり、夢乃にお鉢が回ってきたっー訳。


 うん。まあ、それ、誰だか説明されなくてもなんとなくわかるよ。もうね。と、諦めムードの夢乃であった。


 アスワンまではカイロから飛行機でびゅーんと行って、時間厳守すればびゅーんと日帰り観光ができる。


 ルート決まっているので、まずは予約しておいた車に乗って、ダムへ!


 アスワンハイダムはカイロよりもずーっと南の砂漠地帯にあるので、本当に暑い!

 カイロの暑さなんて鼻で笑っちゃうくらい暑いと夢乃は思う!


 でも壮大なダムとあちこち点在する遺跡は圧巻で素晴らしい!

 でも暑いので、早々に石切り場に移動!

 

 石切り場と夢乃達は呼んでいるけど、正確には「未完成のオベリスクのある石切り場」と、言うらしい。


 あんちょこガイドによると、第18王朝の5代目ファラオのハトシェプスト女王が、カルナック神殿用のオベリスクとして、普通のオベリスクよりも10メートルも大きな物の製作を命じたらしい。

 完成していれば、長さ約 42メートル、重さ 1,200トンのすんごい物になったらしい。

(想像がまったくつきませーーーん)


 作り方は基盤から、コツコツと直接刻んで、まさしく切り出す感じ?


 だが、デカすぎたのが仇になったのか?花崗岩の途中にヒビが現れたので、だーめだこりゃ!と、放棄されて今に至る…という事らしい。

 成る程。ヒビが入らなければ、後世の私たちが見ることはできなかったのよね。ヒビ!万歳!(すみません、暑さで思考が吹っ飛んでます)


 そう、とにかくそ暑い。


 何せ石切り場なので、当然周囲には何も遮る物がないから年がら年中カンカン照りの熱の籠ったような場所なので暑い!


 暑いし、夢乃は何回も観光しているので、説明を終えたあと、出張者の皆様に集合時間伝えて、自由に観光して貰って、比較的涼しい石の日陰でバカラ(水。自宅で凍らせて持ってきた)を飲むことにした。


 ほっとする。


 カンカン照りの未完成のオベリスクの周囲には、熱心な観光客達が写メをとり、いろんな角度から古代の技術のあとをみている。


 自分も最初の頃は古代のロマンをビシバシ感じて、いろんな角度からみたなあと、夢乃は懐かしく思う。


 そう思ってみていると、ふいにそのオベリスクの上に猫が現れた。


 何故?どこから来た?しかもそんな一番熱いところに???


 と、エジプトの猫に尋ねても無駄。エジプトに限らず、猫はみんな好きに自由に行動するからね。


 その猫はそこに行きたかったから行ったのだろうが…流石に暑いわ太陽光は眩しいわだったらしく、如何にも「暑い!!」というしかめっらをして、あっと言う間のオベリスクの下に降りて行った。


 そしてどこをどう歩いてきたのか不明だが、暑さにへばる私達のそばにきて寝そべった。


 猫は一番快適な場所も知っているので、やはりここが一番この辺では涼しいの~~よかった!(何が?暑さで思考が以下同文)


 ごげちゃの縞々猫は、人間の手の届かない距離に寝そべり、目を細める。誰かがパンをちぎり投げるが、お気に召さなかったらしく、臭いを嗅いでそっぽむいた。


 みんなで笑う。暑いのでちょい力ない笑いだ。


 猫は夢乃の足元に来て、長いしっぽをぴたん!ぴたん!と足の甲に当てた。そして時々目を細める。可愛いなあ。


「ハル キティール」(暑いねぇ)

と、猫に呟くと、猫は同意するように目を細めた。


 むむ!流石石切場の猫!言葉解する?

 

 すらりとした四肢の肉球は砂ぼこりで薄汚れているけど、たぶんピンク。

 ぷにぷにしたら気持ちよさそう?触りたい。

 それともこの石切り場に鍛えられて固いのかなあ?


 と、猫に集中してみていると、出張者の方達が暑さにやられた顔で集まってきた。


 直ぐに夢乃は駐車場に向かい、手を挙げて運転手に合図をすると、運転手は直ぐにエアコンマックスにかけ始めてくれた。


 のろのろ歩きながら、車に着いた頃には涼しい車内だと思いながら歩く。

 

 振り返ると、オベリスクの上には別の猫がお立ち台のように立ち、観光客の写メを浴びて、そして涼しい日陰に移動していた。


 石切り場の猫のお仕事ルーティーンかな?と思いながら、夢乃は涼しい車内に乗り込んだ。


 あー!生き返る!

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