第27話 冬のカイロとストーブと猫 (ファリーダ)

「寒い」


 朝起きたら寒くて布団から出られなかった。

 あれ?私、年がら年中常夏のカイロにいなかったっけ??と、首を傾げながら、ベットサイドの温度計と時計が合体しているハイブリット時計を見る。


「20度‥‥」


 日本だったらさして寒い温度ではないが、カイロでは寒い気がする。ファリーダも寒いらしく、珍しく私のわきの下で丸くなっている。

 暖かい…。


「夢乃、起きられる?寒いだろう?今日」


 和也はカーデガンを羽織って靴下履いて、スリッパでぺたぺた寝室に来た。


「やっぱり寒いよね?昨日まではそんなに寒く無くて、丁度いい感じだったのにどうしたの?」

「ヨーロッパの寒気が南下しているらしい」

「へー。もしかして雪が降る?」

「昔、降ったことがあるらしいから、降るかもね」

「‥‥」


 冗談で言ったのに真顔で返されてしまった。

 カイロで雪が降る?あり得ないと思うが、和也は大まじめで言っている。

 

 シナイ山とかアレキサンドリアなら可能性はあるかもしれないけど、カイロで雪~?あり得ない~~と考えつつも、いつまでも寝ているわけにはいかないので、

えいや!と、気合入れて起き上がる。


 大理石タイルの床に足を下ろすと、悲鳴を上げたくなるほど冷たくて足を慌ててあげてスリッパを履いた。

 暑い時期は気持ちのいい床なのに!冬はこんなに冷たい凶器になるとは!!


「まさかカイロで〇-トテックを着るとは思わなかったよ~~」


 夢乃は〇-トテックのシャツにカーデガンにGパンに厚手の靴下を引っ張り出し完全防寒でいる。更に寒いので薄手のダウンのベストも出してきた。


「寒いからストーブ出すか」

「は!?」


 和也のカイロらしからぬ発言に仰天している間に、空き部屋=納戸部屋になっている部屋から、電気ストーブを出してきた。


「そんなのあるんだ!!」

「前任者とかの置き土産だよ。みんな冬の寒さに我慢できずに、ストーブ買ったり、日本からこたつとかホットカーペット持ってきたりしているらしいよ」

「こたつ!!いいなあ!」

「残念ながらうちにはないよ。古いけど石油ストーブはあるけどね」

「ええええ!!カイロで石油ストーブ!?」

「たださー、石油を買うのにドライバーにお願いしないといけないらしいんだ。どこで売ってるかわからないんでね。あとで誰かに頼んでみるよ」

「ありがとー!和也!こたつはないの?」

「ない」

「こたつ~~~~!!!」


 と、残念がりながらも、小さな電気ストーブの暖かい光に幸せを感じながら暖をとる。

 ファリーダも夢乃の膝の上で、鼻をひくひくさせながら、不思議そうにストーブの光をみつめ、やがて丸くなって寝てしまった。

 いつもは大の字、へそ天の御開帳で寝ているのに、珍しい光景だ。


 寒いので朝ごはんは急遽、シチューと熱々トーストにした。カイロで暖かいスープを飲んで幸せ感じるとは思わなかったよ。ダイニングテーブルの下に電気ストーブを置き、足を温めつつ食事する。

 ファリーダは電気ストーブがすっかり気に入ったらしく、近くで丸くなって寝ている。カワイイ。


「ファリーダ用に暖かい猫ベットとか欲しいねー。ゆたんぽも欲しいね」

「きっと今日あたりからスーパーとかで売っているんじゃないかな?後で買いにいこうか?」

「いいね!あ、外に出るのにホッカイロとか必要かな?マフラーとか手袋とか?」

「はははは!そこまでは必要ないよ、ここはエジプトカイロだよ?」

「そうだよね。ここはエジプトカイロよね?」

 

 夢乃と和也は大きく笑い、ファリーダはテーブルの下から何事?という顔で見上げてくる。


 だが、カイロの冬初心者の夫婦は、カーデガン程度の薄着で外に出て、慌てて薄手のダウンジャケットを取りに部屋に戻ることになる。

 だがその数時間後の昼時には、暑くてジャケットを脱ぐというカイロの冬の洗礼をうけたのだった。


 そのころファリーダは家で布団の中に潜り込んでぬくぬくしていた。

 因みに寒いせいか、街中の猫はとんと見かけなかった。  




 

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