第26話 クリスマスツリーと猫 (モミの木の猫とファリーダ)


 エジプトはイスラム教徒の国と言うイメージが強いけど、9割がイスラム教徒で、1割がキリスト教徒なんだそうだ。そのキリスト教徒のほとんどがコプト教という東方教会系らしい。


 だからというわけでもないらしいが、意外とカイロでもクリスマスシーズンになると、あちこちでクリスマスのデコレーションが華やかに賑やかに飾られるようになる。


 コプト教会とかキリスト協会では宗教的だけど、一般的にはイベント的に楽しむ感じで、日本のクリスマスに近い感じがする。苺のクリスマスケーキは残念ながらないけど(苦笑)


 なので、その頃になると、花屋とか市場に生のモミの木が売られるようになる。

 

 いつもの猫のスフィンクスの花屋でも売られていて、その前を通りかかったら、大小さまざまなサイズのモミの木?を買わないか?と言われて驚いたのが最初。

 砂漠の国なのにどこから仕入れているのかな??


 もみの木は小さいけど鉢植えタイプで綺麗な飾りのついたものから、かなり巨大な切ったタイプ?まで様々だ。


 既に欧米系の人達が、これがいい、あれがいいと、並べて真剣に悩んでいる。ほんとにここ、カイロ??と思うくらい。日本でもなかなかこういう風景みないよね?

 

 同様にクリスマス用のオーナメントやカワイイ飾りも沢山売られるようになる。市場とか安いのはなんかデザイン的にいまいち?で、うーん??

(中華的なサンタとか中華的な提灯とか…なんか違うよ??なんだよねー)


 でも大丈夫!

 欧米系スーパーや大型オシャレ系ショッピングモールやホテルなんかでは、結構可愛いのやセンスいいのも売られている。たぶんお値段高めかな??元値がわからないのでピンとこない。


 日本人会マダムのお茶会でもクリスマスの話題でいっぱいだ。


 子供のいるご家庭ではレストラン借り切ってパーティーするところもあれば、持ち寄りで仲のいい同士、サークル仲間同士であつまり家族ぐるみでどんちゃんするとか。レストランから料理をデリバリーしてもらい、大人の落ち着いたパーティーするとか。夫婦二人でレストラン予約してとか。海外行っちゃう!とか。

 

てなことで、周辺は結構盛り上がっているのは、日本とあまり変わらない?


 うちは高田支社長宅で社員全員集まりパーティーをする予定。食事は社費でどこかのレストランからお取り寄せと、差し入れ方式。プレゼントも用意され、ビンゴ形式で日本人も現地社員も全員平等に渡されるので、すごく楽しみ!!

 

 あと、夫婦だけで、ホテルのナイルクルーズのクリスマスディナーショー(エジプト風)を見て、あとはまったりするだけの予定。

 田中さんと梨田さんご一家は、カイロのクリスマスは堪能しているので、今年は冬期休暇に入ると同時にヨーロッパにスキー旅行に行くらしい。

 素敵!

 

 さて、モミの木。

 

 生モミの木なんて日本ではなかなか売られているところを見ないよね?外国人が多く住んでいる地区のスーパーとか、IKEAとかくらい??

 なのでカイロで生のもみの木なんて面白いし、クリスマスイベント雰囲気にのっかり買ってみることにした。

 

 もちろん!猫のスフィンクスのお店でね!


 店主は店の裏に案内してくれて(初めて来た!)並べられている大量のモミの木から、好きなのを選んでいいよと言う。

(余談だけど、これ全部売れるのかなあ?といらぬ心配をしてしまう)

 

 他の欧米人の人達と一緒に、どれにしようか選んでいると、木の上というかちくちく葉っぱの枝の上に、猫達が気持ちよさそうに寝ているのに気づく。普段はない針葉樹の香りにうっとりしている?まさかマタタビまいていないよねと、笑っちゃうくらいに猫があちこち寝ている。

 もうお約束だね~。ホントにカイロの猫はまったりしている。

 

 お客の中にはもみの木に毛がつくと怒って追い払う人もいるけど、大体は猫をどかして気にしないで選んでいるのでそれに倣う。


 うちはサバトラの猫が寝ていたモミの木にすることにした。サバトラ君は、横の別のもみの木に移動してもらい、接客業に励んでもらうことにする。


 飾りはいるかどうか聞かれたが、和也がドイツに出張に行った時に買ってきたのがあるのでいらないときっぱり断る。

 

 ここ大事!あやふやに断ると、買うことになるからね!

 代金には、デリバリーとセッティング込々だった。


 その日の夕方には、うちのビルのバーブ―と花屋のデリバリーの人が、エレベーターにぎゅうぎゅうに詰め込んで運んできた。

(天辺折れなくて良かったよ~~!!)


 玄関出見たときは、小さいのを選んだつもりが、意外と大きくて驚いた。とにかく驚きの連続だね。

 

 部屋の中に運び込んでもらい、ツリーを飾るのに手慣れているヤシラが、場所を決めてセッティングさせる。ネットみたいなのを外すと、枝がびよーーんと四方に伸びて、針葉樹のいい香りが家中に広がる。


 いいねえ!!気分盛り上がる!!


 ファリーダはダイニングテーブルの上から、興味津々で遠巻きだけど監視している。

 バーブ―とデリバリーの人にバクシーシをあげて帰すと、さっそく飾りつけ!ヤシラは先代駐在員のご家族と飾りつけをしているので、結構手慣れているので助かる!

 ヤシラマジ優秀!

 

 まずは星形のイルミネーションを枝に渡していき、大きなワイヤー入りリボン、ガラスのオーナメント、木製のオーナメントと飾っていく。

 ファリーダは金色の球を転がしたりして、モミの木よりオーナメントの方が興味津々らしい。ツリースカートの中に入ったり出たりと楽しそう。


 最後に一番上に星を飾りできあがり!

 少しすかすかだけど、いい感じだと思う。


 早速写真を撮りまくり、夢乃は和也に送る。和也からイイネ!のスタンプが連発でくる。ふふふと笑っていると、ヤシラも写真をとり誰かに送っていたので、ヤシラとツリーの写真を撮ってあげた。もちろん、夢乃とファリーダとツリーの写真も撮ってもらう。

 

 他の誰かにも送ろうとしていた時、ツリーの方から、ちりちりとなんか音がする。ガラスが触れ合うような音だ。

 

 ん?


と、夢乃は振り返ると、ツリーが微妙に揺れている気がする。


 ん?


 と、夢乃は傍に行きツリーを見上げる。

 すると、その天辺近くからにょこっ!とファリーダの顔が出て来た。


「ファリーダ!そんなところに登ったの!?」


 ほのぼの光景に大笑いしていた夢乃は、次の瞬間真っ青になり悲鳴を上げた!!ファリーダの重みでツリーがバランスを崩し、夢乃の方にゆっくりと倒れて来たのだ!!

 

「まだ―――む!!!」

 

 叫ぶヤシラが夢乃の腕を掴んで後ろに引かせると同時に、ツリーは派手な音を立ててひっくり返った!


 呆然とする夢乃とヤシラ。リビング中に散らばるオーナメントの残骸と、散らばるモミの木の葉っぱ…。そして脱兎のごとく逃げて行ったファリーダ。


 ファリーダ…なんちゅーことおおおおおおおおおおおお!!!!


「ファリーダああああああ!!!」

 と、怒り叫ぼうとファリーダはどこかに逃げ込んで出てこない。とりあえずケガしていないか確認しようとしたが出てこない。

 

 ヤシラは深いため息をついて、残骸を片付け始めた。

 飾りつけ2時間。破壊数秒。片付け30分。


 ガラス系のオーナメントはほぼ全滅だが、それ以外はなんとなりそう。イルミネーションもなんとか点灯した。ツリーもバーブ―を呼んでもう一度立て直す。そしてごみを回収して貰って、バクシーシを渡す。

 本日2回目のバクシーシ。

  

 惨状を和也に送ると、和也からは号泣のスタンプが連打された。そして帰りにIKEAかホテルのショッピングモールで飾りを買って帰ると連絡が来た。

 

 時刻をみるともう帰宅タイムだ。

 夢乃はヤシラにあらかた片付け終わったら帰っていいよと言い、二人は疲れた顔で苦笑しあい、ヤシラはショールをかぶり直すと、また明日と帰って行った。心なしか肩が下がっている気がする。


 気持ち…よくわかるよ…。


 と、言うことで、和也が飾りを買い足して帰宅し、その夜は二人で飾りつけをし直し、ファリーダに倒されないようにがっつり固定した。


 ファリーダは夜中になり、ツリーの明かりを点灯した時にやっと出て来た。直ぐにあちこち体を確認したが、幸い怪我はなくて安堵した。

 

 ちかちかキラキラ。


 何通りかのパターンで光を瞬かせるイルミネーションを夢乃の膝から目で追い

ファリーダだったが、絶対に傍に寄ろうとはしなかった。


 ツリーはお正月過ぎまで飾られ、その間、ファリーダはツリーの半径1メートル以内には決して近寄らなかった。

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