第25話 噂に負けない主人を守る猫 (しんのすけ・ノルウエージャン)
カイロではチャリティーバザーがよく開催されてると思う。やはりバクシーシ(喜捨)の精神が根強いからだろうか?
そしてうちの会社は高田支社長夫人がボランティアとか慈善活動が大好きで、様々な活動に参加しているので、自然と私達も参加する事が多い。
もちろん、毎回毎回お声が掛かるのと不服とする方もいるけど(まあ、誰かは分かるよね)、大体は参加するのを厭わないので、結局全員参加になることが多い。
と、言うことで、本日は、夏(カイロは年がら年中夏みたいだけど)に開催される、貧しい子供達支援のチャリティーバザーに出す、刺繍したクッションを持って日本人会に来ました。
以外とこういう手作り品が売れるらしい。
そして夢乃は刺繍が得意だったので大変楽しく制作できて大満足だった。
高田夫人は着物の古布を日本から取り寄せ、色とりどりの熊とウサギの人形を制作された。これがカワイイ!!
田中さんと梨田さんは様々なクッキーを焼かれ、可愛い袋にパッケージしたのを、田中さんが持参した。梨田さんはお子さんの体調が悪く欠席。
受付にバザーの品物を出すと、受付の女性はにこにこ愛想のいい顔で、
「ありがとうございます」
と、丁寧に受け取り中身を確認し、また「ありがとうございます」と、にこりと微笑えんだ。感じのいい人だ!
スタッフになっている日本人会役員の夫人達が、てきぱきと種類ごとに分けて奥の部屋に運んでいくので、夢乃も手伝いがてら、自分のクッションと高田夫人のぬいぐるみを運んだ。
食品は別らしい。
「…でね、北村さんの猫が…狂暴で」
「またなのお?あの猫…暴れて」
「そうなのよお。大体、あの猫…迷惑を」
奥の部屋で仕分けしている数人の女性達が、猫猫猫猫連発していたので、耳ダンボについついなったが、感じ的にはいい話ではなさそうだ。
夢乃は挨拶をしながら、その話を聞かないようした。
だけど、夢乃達が仕分けをしている間も、彼女達は「北村家の猫」の悪口を延々言っている。
なんか感じ悪いなあと、夢乃は思うが口にはしなかった。
仕分けが終り、挨拶をして日本人会を出た後、高田夫人と田中夫人達とcafeでお茶をしようということになった。
cafeで暫くバザーの打ち合わせをした後に、田中さんがおもむろにさっきの猫悪口の話題を出してきて驚いた。
田中さんは食品の仕分けを手伝っておられて、少し離れた位置にいたのに、そこまで聞こえていたのだそうだ。悪口って意外と聞こえてしまうのよねえ…。
しかも、その猫も飼い主も知っているそうで、話が随分違う!と、ちょっと立腹してる。
「あの噂になってた猫は、Sメーカーの北村家のノルウエージャンフォレストのしんのすけ君の事なのよ」
おおっと!某アニメのやんちゃ君と同じ名前とは!!北村家のしんちゃんもやんちゃんなのね!
「日本から連れてきたの。寒い国の猫だから、暑い国に連れてくるのを悩んだけど、大きな猫で預け先もないし、色々悩んで決断されて連れてこられたの。
ふわふわしてとても可愛い猫だけど、夏の間はライオンカットされて、なんか別の生物みたいな感じになっていますけど、それもまた可愛いのよ」
「わかる気がします!」
「ふふふ、夢乃さんならそう仰ると思いましたわ。でね、確かに大きな猫で威圧感はありますけど、大人しい猫なの。あんなに悪し様に言われるような狂暴な猫なんかじゃないのよ!
ただ…どんなに大人しくても、遊びに来た子供達に追いかけまわされたり、タンスの引き出しに無理やり押し込まれて棒で突かれたり、バスルームに追いやられてシャワーを浴びせられたら…反撃するでしょう?
つまり、あの狂暴説は、そうい話の裏があるのよ」
要は、あそこで悪し様に話していた人達がSメーカーの他の社員の奥様達で、その猫を虐めていたのがその人達の子供達なんだそうだ。
その躾のなっていない子供達が、北村家を訪れた時に、大人の目を盗んでしんちゃんを虐めていたらしい。最初は我慢していたしんちゃんも、積もり積もれば反撃に出るのは当然!
そしてその悪ガキ共の悪行を、Sメーカーでない子供達が親達に報告したが、悪ガキの親達はその事実を認める事が出来す、ああして事情を知らない方達にしんちゃんの悪口を言いふらしているのだそうだ。
子供が子供なら親も親だ!!何てこと!
「でも同じ会社の奥様同士なのですよね?普通は謝罪するなりしません?」
高田夫人と田中夫人は顔を見合わせ苦笑する。
「うちは社員同士、まあ上手くいっている方ですけどね。そうでない会社も多いのよ、夢乃さん。うちはまだまだトラブルや確執が少ない方。皆様いい方達ばかりで本当に助かります」
夢乃と田中夫人はすこし照れたように笑いあった。
「Sメーカーも前はそうではなかったのよ。今の副支社長のMさんの奥様がいらしてから、ずいぶん変わったみたいですね。
日本人学校の子供達の間でも、Mさんのお子さん達は北村さんのお子さん達に対して随分な言動が多いらしいですよ。北村さんの旦那様はあの支社の中では一番お若いし、まあ…一番下ということになるのでしょうからね…。でも子供にああいう言動を取らせるのは…いただけませんわ」
田中さんも深いため息をつく。よっぽどな言動なんだろう。
「会社の体質もあるのでしょうけど、やはりその場に集う人次第ですからね。残念ながら。
子供の態度は親が影響しますからね…ご家庭でもそういう言動をなさっているのでしょう。こればかりは…部外者の者はどうにもできないわね」
そう言いながら、猫好き3人は深いため息をついた。
「北村さんの猫がこれ以上虐められないといいですね」
「それは大丈夫よ。しんのすけ君が、ご主人に代わりクソガキ…失礼…悪ガキ…ええと…(田中夫人は苦笑した)まあ…子供達を教育的指導をしたから、子供達は怖がって北村家には遊びに行かないようなったらしいの」
しんのすけ!グッジョブ!
「だから、あの人達は散らかし放題好き勝手放題できる遊び場をなくして悔しくて、ああしてあちこちで北村家の悪口をいいふらしているのよ」
「グーで殴りたい程自己中な方達ですね」
「夢乃さん」
思わず大きな声を出して本音を言った夢乃に、二人が口に指をあててしーーーっ!!と言う。
夢乃は慌てて口を押さえ、周囲で誰か聞いていないか様子を伺い、cafeには自分達しかいないことに安堵して胸をなでおろした。
意外と誰かが聞いていて、こういうところで聞かれた話が、口伝いに流れてとんでもない噂になるのはよくある事なので気を付けないといけない。
「まあ、大丈夫よ。北村氏はしっかりした方なので、あちこちで嫌味を言われてもきっぱり反論訂正しているらしいし。猫が主人に代わり、玄関まで仁王立ちで来客チェックするらしいから」
「わあ!その猫チェック、受けてみたいです!!」
田中さんは少し考えて、どこかにメッセージを送ると、すこし悪戯っぽい顔をした。
「もしもお時間あるなら、そのしんのすけチェックを受けに行きます?」
夢乃と高田夫人は顔をみあわせ、面白そうねと直ぐにOKをした。高田夫人は夢乃の母くらいの年齢だけど、意外とフットワーク軽く、感性も反応も若いのだ。
北村家はゲジラではなくマーディーに住んでいた。
田中さん曰く、徒歩で遊びに来れるゲジラ内だとクソガキとその親達のたまり場になるので、その猫事件以降にこっち引っ越してきたらしい。
最近はそういう日本人同士のトラブルを避けるため、煩わしさを避けるため、日本人コミュニティーから離れて住む人も多いらしい。
北村夫人は少し小柄でぽちゃっとした、優しそうでおっとりした人だった。室内はシンプルで綺麗に掃除が行き届き居心地のいいアパートメントだった。
テラス窓からはナイル河が見える。素敵。
そして、玄関開けると同時に、黒と白のしましまの大きな尻尾をピン!と立てた、ライオンカットされた不気味物体猫が仁王立ちで、夢乃達を玄関先で出迎えた。
いや~~ん!カワイイ!
犬でライオンカットはよく見るけど、猫のもブサ可愛くて大変素敵~~!
しんのすけは、その金色の瞳で睨み上げ、ふんふんと臭いを嗅ぐと、いいいだろうと言うように、のしのしと奥の部屋にしっぽをゆらゆらさせながら歩いて行った。
「意外と簡単にOKでましたね?」
「私はいつも顔パスよ」
自慢げに田中夫人はいい、夢乃達はおかしそうに笑った。
4人は眺めのいいリビングで楽しい猫談義を満喫し、飼い猫自慢をし、カイロ猫クラブというSNSサークルを立ち上げ、日々他愛ない猫の写真をUPしましょうと約束した。
しんのすけはそんな楽しそうに笑う飼い主の北村夫人を、窓際に置かれたキャットタワーのてっぺんから見下ろしながら、目を細めてしっぽをぱたぱた振っていた。
そして気づくと、だるまさんが転んだをしているように、少しづつ距離を縮めてきて、最後には夢乃、高田夫人の間に寝そべり、満足そうに喉をごろごろ鳴らしていた。
しんのすけを撫でると、顔のその毛はよくブラッシングされているようで、すべすべふわふわだった。もちろんピンク色のうっすら毛の生えている部分も大変触り心地がいい。もちもちして猫を触っている感じじゃないのがまたいい。
スフィンクスとも違う触り心地である。いいねえ。
暑さに弱い猫なので毎年ライオンカットをされるが、動物美容師の方が毎回おおざっぱで酷いことになるらしいので、毎回北村さんがご自宅で微調整するらしい。
そのビフォアーアフターの写真を見せてもらい、夢乃達は大笑いをした。来年はそのビフォアーアフターに参加させてくださいと、楽しい約束をした。
帰り際、しんのすけは名残惜しそうに夢乃達の足の間を何度もすりすりし、きっちり姿勢を正して座ると、また来いよな!と言うように目を細めてしっぽをぱたんぱたんしていた。
噂とはあてになんないなあ…と、可愛いしんのすけに夢乃は大満足で帰路についた。
家に帰ると、しんのすけ=オス猫のにおいぷんぷんの夢乃を、ファリーダが執拗に臭いを嗅ぎ、しゃーしゃー!言ったのは言うまでもない。
そんなファリーダを夢乃は抱きしめて、もしもファリーダを虐めるガキがいたら絶対に鉄槌してやるからね!と約束した。
追記:
噂で流れてくる話は大概がね。困ったもんだです。
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