第24話 水事件とナイル河岸の猫 (河岸の猫とファリーダ)
家に帰ったら、大量のミネラルウオーターのペットボトルの入った箱がどんどん積み上げられていた。
ピュアライフ、ダサニ、アクアフィーネ、エビアン、ネスレ、バカラ、ボルビック色々ある。こんなに沢山の種類を見るのはスーパーくらいだと思うけど?
「どうしたの?これ?水の品評会でもするの?」
うちで使う分量ではとてもないので、会社か何かのイベントで使う物だろう。そういう間にもどんどん水の箱が積み上げられる。
「イベント用。実は、梨田が今度するイベント用に水を発注したんだけど、保管場所を押さえていなくて、それでうちがそれまで保管することになったんだ」
「全然意味わかりません~~~」
「俺も」
そうぼやく和也の横にもどんどん水の箱が積みあがる。正直言って日本みたいに綺麗に保管管理された箱ではないので、埃がかかり箱もへしゃげているし、それを補強した透明テープでぐるぐる巻きで、そのテープに埃が…と、エンドレスに汚い。
外に置いてある分には全然気にならないが、リビングとか玄関フロアに積み上げられるのはいただけない。
とはいえ、ベランダに積み上げるのも…直射日光当たるし…ねえ?
不満そうに腕を組んで積みあがるのを見ていると、買い物から戻ったヤシラが烈火のごとく怒りだし(私達にではなく、積み上げているバーブ―に)、何かぎゃーすかアラビア語で言い合いをしたあと、どこかに電話し、そして、バーブ―達は何故かどんどん外に水を運び出していきだした。
和也が携帯電話を切り、振り返る。
「Missマルタから。ヤシラが折角掃除した場所に汚い箱を置くのはダメだと、ビルの管理会社に言って、地下の駐車場の一角を一時置き場で借りたらしい。その交渉が終ったので、水置き場の心配はしないでくれだって」
「ヤシラ、マジ優秀!」
感心している横で、どんどん運び出された水の箱の後、ヤシラが念入りに掃除をしていった。ヤシラにお礼を言うと、ヤシラは得意そうに笑い頷いた。
「で?梨田さんのミスのミスが何故うちにきたの?私の断りもなく」
「話せば長いが、簡単に言うと、責任を取り一時保管場所に自分のアパートメントに運ぼうとしたら、梨田夫人が拒否したらしい。あそこは小さい子がいるだろう?衛生上よくないと」
「え?それで言うと、うちは子供がいないから衛生上問題ないからという理由になるけど?(むかつく)しかも私の許可なく運んだわけ?」
「許可取る前に運んだのは俺のミスだから、そこはゴメン。まさかこんなに汚くて大量とは思わなくてさ…」
「大体、イベント当日に会場に運ぶのが普通は鉄則じゃない?もしくは前日。大体どこでするのよ?」
「Hホテルのイベントホール」
「だったらHホテル発注すればいいんじじゃないの??なんで別会社に発注してんの?」
「俺に聞くなよ。梨田に聞けよ。とにかく困って助けを求めて来たので…」
「軽くOK!と言っちゃったんだ。こんなに量があるとは思わず。ヤシラのお陰でなんとかなったけど、イベント、まだ先でしょ?ここにずーーっとあれがあるなんて!!梨田夫人じゃないけど、私も嫌だよ!」
「まあね…とにかく…夢乃、ごめん。お騒がせしました」
頭を下げる和也に、私達が言い争いをしているのに驚いたのか、ファリーダがにゃーにゃー!言いながら走ってきた。そして「怒らないでよ」と言うように、私の足の周りをうろうろする。
ファリーダのすりすりで怒りが急速にぽしゃる。
まあね…和也に当たっても仕方ないか…と、夢乃は怒りを収めた。大体なんで私達が喧嘩しないといけないんだよ。
夢乃がファリーダを抱き上げると、ごろごろ喉を鳴らす。喧嘩仲裁するとはやるじゃん!ファリーダ!
「それにしてもさ、なんであんなに水の種類があったのかな?」
「好き嫌いがあるからじゃないか?日本人が軟水育ちだろ?硬水は胃腸に会わない人多いしな」
「でもイベントで配布する物でしょ?家で使うとかならわかるけど、会場で配られる水に好き好み言う人なんていないんじゃない?いやならNoと言えばいいんだし」
「だから俺に聞かないでくれよ~~マジで許してよ夢乃~」
と、和也が泣きついたので、大笑いして許してあげることにした。
そう、カイロでは基本、飲用水はミネラルウオーターを飲んでいる。日本と同じく、ペットボトルや瓶に入った物か、ウオーターサーバーの水を飲む。
種類は豊富で、硬水から軟水、世界的に有名なメーカーから出すカイロの水から、輸入用の有名な水等色々ある。
会社や家ではウオーターサーバを利用するのが多分普通。
あと、キッチンの水道水には大概、浄水器がついている。でも浄水器で濾過した水でも基本そのままでは絶対に飲みません。必ず加熱します。
洗濯機や洗面台、シャワーにお風呂等にはついていないのは殆ど。うちは、先代の方が洗濯機につけていたのと、洗面台1個に浄水器がついています。あとシャワーは取り付けタイプの浄水器。お風呂と他の洗面所にはついていない。もちトイレにもついてませんよー。
水道水をを飲まない理由は、やはり上水道取水として利用するカイロ近郊のナイル川の汚染。川の澱みには住血吸虫がいるから、絶対!ナイル河の水を飲んだり!触ったりしないように!厳重注意を言われていますから。
インドじゃないけどいろんなの流しちゃうからねー。たまーに〇体流れていることもあるらしいし~~~(マジで)。
アスワンとかルクソールとか上流はまだ綺麗だけど…下流に行けば行くほどで…。
でも、上水道を安全に飲めるようにと、濾過技術とか配水技術構造をUPしているらしいけど…途中の水道管やビルの水道管等の管理がいまいちなので…まあ…みんな信用していない感じかな?
以前、ゲジラのマリオットホテル傍の波止場から、ぐるっとナイル河岸を散歩コースにしていたことがありましたが、その時初めてみたナイル河に…
「カイロ近郊のナイル河は、遠くからか、船の上から見るのが一番かもしれないね!!」
です。マジで。
でもね、そういう汚いナイル河のそばにも猫は沢山いるんですよ。そしてカイロの猫は水を恐れないのか?それとも暑さにはかなわないのか?水辺にはだらーーーんと寝そべって涼んでる猫を見るのは面白い。
大きなクルーズ船が行き交うと、どばーん!ざぶーん!と水が寄せるのだが、それも察知して、すっと下がるのも凄いなあと。一時期それ見たさにナイル河に通ったことがある。
でも水辺にはやはり虫が多くて、人もゴミも多いし辟易して散歩も猫観察も直ぐにやめたけど。雰囲気はあっていいんだけどねえ。
と、言うことで、その大量のミネラルウオーターは無事に地下駐車場に移動し、水騒動はそれで終了したかと思いきや…
続きがあった。
翌日、バーブ―がうちに突然やってきて、ヤシラと何か話している。ヤシラがどこかに電話をかけ、直ぐに和也から電話がかかってきた。
「夢乃?ごめん、ちょっと確認しに行ってほしんだけど、昨日駐車場に置いておいてもらった水、誰かが回収したらしいんだ。本当にないのかヤシラと確認してくれる?」
意味不明。でも確認しにいかないといけないね。
急いでヤシラとエレベータで地下駐車場に行く。地下駐車場はよくある地下駐車場。高級車が結構止まっているし、トヨタも多い。その中の一角にバーブーは案内し、ヤシラに説明する。
翻訳アプリで話を聞いていると、どうも朝早くにトラックがきて、指定の場所に運ぶと持って行ったらしい。
半分だけ。
半分が残っているので、いつ取りに来るのか?と、さっきうちにバーブ―が聞きにきて、それで発覚したらしい。
だが、和也も誰もそんな指示は出していないので、現在支社では大騒ぎになっているらしい。
確かに半分?しか箱がない。水の箱はどこに行ったのだろうか???
夢乃は現状を写メして箱の数を数えて、和也にメッセージを送る。残りの箱は誰がきても動かさないようにとヤシラ経由で言い含め、これでミッションクリア!!
部屋に戻るとファリーダが両足揃えてきっちり姿勢でお出迎えしてくれた。
「疲れたよ~~~!!」と抱き着こうとすると、するりと逃げていく。
む~~~ドライな奴め。
さて、お水の行方はその午後に判明した。
梨田家に運ばれたらしい。
何故?
梨田氏曰く、お水を発注したのはなんと!!奥様!しかも梨田夫人カード支払いだったらしい!
何故?
理由はポイントが付くから。
なので、実は半分は自分達用に頼んだらしく、イベントで使用するのはその半分なのだそうだ。なので、半分は自分の物だからと、奥様が回収したらしい。
梨田夫人って、時々びっくりするくらい行動的!
それなら何故?最初の時にアパートに入れるのを拒否したの??半分自分の物なら自分の家に配達でもいいじゃないの??
何故?
いろんな意味で突っ込み満載だけど、和也はそれ以上は説明してくれなかったので…それ以上は聞かない方がいいなと言うことで聞かないことにした。
因みに、イベントの時に提供された水は、ホテル仕様の水だったと、別会社のイベントに参加した方の奥様経由で聞いた。
え?あの残ってた水はどうなったの?!
謎が謎呼ぶ水事件だったが、以来、ミネラルウオーターのボトルを見るたびに、この不可解な水事件を思い出すのであった。
海外駐在してると、時々意味不明の事に巻き込まれたりするのが驚き。
因みにファリーダのお水は、キッチンの浄水器を通した生水です~~。それで大丈夫と、動物病院のドクターがいったので。ファリーダはお腹を壊さず元気である。
追記:
砂漠の国でもどこでも水は重要ですよね。
観光でいらした方、駐在でいらした方の初めの頃は、ミネラルウオーターを飲まれるのを絶対推奨します。あと、硬水が多いので、日本人はお腹壊しやすいので注意してくださいね。水道水は歯磨きとか洗顔とかシャワーとか風呂なら全然大丈夫と思いますが…まあ気になるなら口すすぎはミネラルウオーターで。
あと、ドリンキングウオーターは安いものだと水道水まんまの事もあるらしいので、気を付けてくださいね~。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます