第18話 新しい家族猫 (ファリーダ・灰色 雑種)
朝の4時。
にゃー!にゃー!にゃー!にゃー!!
朝の静寂に流れるどこかのモスクのコーランよりも早く、新しい家族のファリーダは朝だよー!と鳴きながら家中を走り回る。
朝ハイ?それとも雄鶏の生まれ変わり?ファリーダ(宝石)じゃなくてババガーウ(雄鶏)とでもつければよかったかなあ?
夢乃はもっそり起き上がり、大理石タイルの床をぺたぺた歩き、目をこすりながらリビングルームに行くと、大喜びのファリーダがぴょんぴょん走ってきて、にゃ!と抱き着くようにジャンプする。
「サバーハ・ルヘイル、ファリーダ。毎日朝から元気だねえ」
ファリーダは宝石のような黄緑色の瞳をキラキラさせ、ぐるぐる喉を鳴らしながら頭をぐいぐい押し付ける。
そのまま抱いてキッチンに行き、棚からファリーダご飯を取りだし、陶器のお皿にからからと出すと、ぴょい!と飛び降りると、あぐあぐとご飯を食べだす。
ふふふと、至福に夢乃は目を細めて微笑む。
朝一番の太陽の光が、砂漠を超えてリビングに差し込んで来た。
花岡ファリーダ。
つい最近、花岡家の新しい家族になった。
エジプト生まれエジプト育ちのエジプシャンキャット。
雑種。雌。およそ5か月くらい?
毛色は全体的にロシアンブルーみたいな灰色。
でもお腹と足先の一部分が白。瞳はペリドッド色。
元飼い主?保護主?は、ジェフにアディにマックスの陽気なアメリカ人青年3人。サマーバケーションで、レンタカーでエジプト中を旅している強者のトラベラー。
立ち寄ったどこかの町か村で、彼等のトートバックの中にファリーダが入り込み、気づいたときは既に何マイルも離れた砂漠の中。
どの町か村の猫かもわからないし、戻るにも時間がかかるので、これも縁だと思い、ずっとエジプト中を旅してきたらしい。
彼等のSNSにはおびただしいファリーダとの思いで写真がUPされている。とても大事に可愛がられていたことがわかる。
夢乃は偶然ムハンマド・アリ・モスクで彼等と出会い、ファリーダが彼らのカバンから、夢乃のカバンに移動してついてきたことから、花岡家の飼い猫になった。
みんな曰く、旅の終着点に夢乃のそばを選んだんだいい、夢乃は感激で号泣してしまった。ちょい恥ずかしい…。
ジェフ達から譲渡された翌日に、前にロシアンブルーの子猫斡旋をしてくれた動物病院に予約をして検診に連れて行った。
一応元野良猫なので、感染症とか検査も兼ねてね。
ドクターはファリーダを見て、綺麗な猫だと何度も褒めてくれた。健康診断や検査は無事にクリア!大きな感染症にはかかっていない健康優良児と言われて、わが子を褒められたようで嬉しい!
ついでにワクチンとマイクロチップを打ってもらい、一瞬遅れて刺されたことに気付いたファリーダは、ぎゃ!と叫んで夢乃に抱き着いて、みんなの笑いを誘った。
そこでご飯系とかを買い、ドクターの紹介のペットショップで、首輪(脱走した時用の目印に)と細々した猫グッズを買いそろえた。
家に戻りそれらを広げると、一気に家の中が賑やかになった気がする。
ヤシラにも紹介すると、ヤシラは大喜びで、ファリーダ用のご飯用にと大量の骨なし鶏肉とか、アレキサンドリアから運ばれてきた新鮮な魚だ!と、色々買ってきて、細かく分けて大きな冷凍庫にぼんぼん入れていた。
毎日、ファリーダ用に湯がいて用意しておいてくれる。
ファリーダはジェフ達が言っていたようにとても頭が良くて、トイレの場所も、ご飯の位置も、自分が寝るところもちゃんと直ぐに覚えた。柱や家具でがりがりもしなけど、唯一、トルコで和也が買ってきて大事にしているシルクカーペットで爪とぎをするのが難点なくらい。
あと、朝早起きなのも…。
でもまあ、こうしてベランダから毎日、カイロの街に朝日が昇る光景を見られるのでヨシとするか!と、夢乃は思う。
搾りたてのオレンジジュースを飲みながら、遠くにビルの間からきらきら光るナイル河を見ていると、街はもう喧騒に包まれ始めていた。
追記:
ファリーダが来てくれたことで、本当に生活が一変しました。それまで砂漠色だった生活に突然色がついたムービーになった感じ。
朝ハイは暫く続きましたが、可愛いのでヨシとしました。
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