第16話 ムハンマド・アリー・モスクで出会った猫 (旅する灰色の子猫)
「ムハンマド・アリー・モスクはカイロの中心部から、やや南側の旧市街の高台にあるシタデル、城塞の中にある荘厳なモスクです。
1828年に、マハマンド・アリ王朝を築きあげた創始者ムハンマド・アリが建設を始め、約50年以上の歳月を掛けて完成したそうです。
建築様式は有名なアヤソフィアを真似て建てられた、オスマン様式建築。トルコのインスタンブールからわざわざ建築士を呼び、トルコ風に建てたそうです。
また、白大理石や、この白いアラバスターという石膏石を多用しているため、アラバスターモスクとも呼ばれています。
実はここ、元々はそれ以前の王朝のハーレムがあった場所だったそうです。
建物の両側に側にある尖塔、ミナレットは高さは84メートル。エジプトで一番高いミナレットです。中央のドームを取り囲むように複数のドームがあるのも特徴的です。
内部の装飾も大変美しく荘厳です。
礼拝室のアーチを4本の角形のピアが支え、その周囲を取り囲むようにランプと中央に大きなシャンデリア。あのドームの内側にも黒色に金彩色の綺麗なレリーフが施されていて見応え満点です!
また・・・」
と、ムハンマド・アリ・モスクで、ガイドみたいな事を言っている夢乃だが、実は本当にガイドしてる。
そう!日本からの出張者の皆様のご案内をしております~~。
なんでそんなことをしているのか!?
と、言うと、本日案内をする筈の和也が今朝いきなり風邪でダウンして、しかも代わりがいないからだ。とほほほほ。
なのでピンチヒッターで来たのだが、ガイドさんが来ない!(エジプトあるある)
ガイドは途中で、交通事故渋滞に巻き込まれて動けないらしい!(エジプトあるある)
だけど出張者の予定は詰まってるので、急遽、和也がくれたあんちょこガイドと、速攻で調べた内容を織り交ぜて、さも知ってるかのように、夢乃が真面目にガイドする羽目になったのだった。
(マジ間違えてないか、冷や汗ダラダラで暑さなんか吹っ飛んでるけどね!)
今のところうまく行ってるようで一安心。
だけど、夢乃はすこしもやっとしている。何故なら、一生懸命ガイドしてるのに、彼等の最大の注目は夢乃の格好だからだ!
今日の夢乃の格好は、モスク観光があると聞かされていたので、ヒジャブと長袖でくるぶしまで隠れるロングスカートの緩めのワンピース。風で煽られスカート下の足が見えても大丈夫なように、夏仕様のスパッツも履いてます!
暑いけど、完璧!!
本当はヘリオポリスのショッピングセンターで買ったカバヤを着たかったんだけど、日本人出張者には、ちよっとやり過ぎかなー?と、思ったのでやめた。
ただ色合いがちょい派手だったようだ。
カイロでは比較的よく見かける、綺麗なピンク色のヒジャブ。ワンポイントに同色のレースをチラ見せしている。そして涼しげな印象を与えたくて、またガイド的に目立つようにと、ワンピースは真っ白な白!!そしょて鞄はハンハリー二で買った、真っ赤な革のエジプト風柄の入った、肩掛けの大きなトートバック。
これなら派手な旗を振り回さなくても、ガイド的にも目立つからいいかなーと思ったんだけど・・・日本から来た皆様にはエキゾチックすぎたらしい。
最初にホテルのロビーでで会った時、エジプト人と間違えられて、英語で話しかけられてしまった。
よく見てよー!この顔はどう見ても日本人でしょー!?
さて、なんで夢乃がこんな格好をしているかと言うと、モスクに来ているからだ。
モスクは神聖な場所なので、外国人といえども観光客といえども他宗教であろうとも、ある程度のルールには従ってもらう!ルールがある。
その際たるのが、女性の肌露出禁止!
もちろん観光用に開放されているモスクでは、簡易のヒジャブと、簡易ガラベーヤを貸し出ししてけれるけど・・・。やはり!カイロに住んでいる者の嗜みとして!事前に自前で用意しておくものでしょう!
(嘘です。最初の歓迎会で現地職員の奥様達のつけてたヒジャブとかが可愛かったので、普通に欲しかったんです!!)
と、言う事で、事前にショッピングセンターの専門店で、和也の秘書をしているファージと一緒に購入したヒジャブでこの格好をしてきたのだ。
彼らは夢乃の了承なく、こっそり写真を撮ってはニンマリしてる。
なんかやだなぁ。一言断ってくれれば全然問題ないのに。
でもこのまま調子に乗って勝手気ままに写真を撮られると、トラブルになりそうだ。
むん!と、気合いをいれて、夢乃は彼等を振り返りにっこり笑って言う。
「カイロあるある、お写真撮るルールはご存じですかあ?」
彼等は怪訝な顔をする。
「風景や建物を撮る場合は、観光場所ならある程度自由に撮っても大丈夫です。ですが、ここは、神聖なモスク!祈りを捧げる為にくる場所です。普通は男性のみが多いのですが、家族連れで来ている場合もあります。
この場合、建物を撮っている場合でも、その先に人がいた場合は、必ず許可を取ってください。
特に!!女性や子供は絶対に撮らないでください!酷いときには喧嘩になりますしので、トラブル回避に写真撮影は本当に気をつけてくださいね!」
忠告聞かないで、エジプト人の奥さんの写真(民族衣装を着ていたから)を撮って、その夫からぼっこぼこに殴られたとか、金品巻き上げられたとか、たまーに聞くのよね。
彼等も出張先でトラブルに巻き込まれるのは困ると判断したらしく、携帯電話やカメラをしまい出した。
よしよし。
内部を案内し、集合時間を決めて自由見学タイムにすると、夢乃は解放されて外に出た。
むわんと熱気が城壁の外からせり上がってくるように吹いてくる。その城壁の縁に行き、そこから眼下に広がる広大なカイロの街を堪能した。
ここからの風景好き。
眼下の古い建物がひしめく旧市街、それより洗練された白茶色っぽい壁に、緑や青の濃い色の窓枠の建物が続く。その街並みの間に、ニョキニョキと最新のビルが、あちこち立ち並ぶ光景は、ちよっと日本の下町地区を彷彿とさせる。
蒼い空を写し込んで滔々と流れるナイル川のせいか、余計そんな感じだ。
カイロタワーもスカイ・ツリーに見えなくもくもない。
夢乃はおかしそうに笑った。随分自分もここに馴染んできたなあと思いながら。
しかし暑い・・・。夢乃は日陰を求めて太陽の死角になる壁に移動した。そこには暑さでへばってる観光客達が、顔を真っ赤にさせて座り込んでいた。
うわー、あれ、絶対痛くなる日焼けだよねー。大丈夫かしら?
そう思いながら座ると、彼達がカメラを取り出して、写真撮ってもいいか?と聞いてくる。夢乃は苦笑して、OKと言うと、彼達は目を丸くした。
「エジプト人じゃないんだ?どこの国?私達はアメリカ合衆国」
彼等はその場から伸ばすように手を差し出す。それを握り返して夢乃は笑う。
「日本人ですよー。ガイドしてましたー。ガイド初心者です」
なるほどと、彼らは笑う。
「中庭の八角形のキオスクとか、回廊にあるフランス王から送られた時計塔とか見ました?」
「見た見た。凄いね、あれ。動いていたらもっと感動したなー」
カイロの事を褒められると、エジプト人ではないけどなんだか嬉しい。
「この後はどこに行くんですか?」
「今日はモスクを色々見て回ろうとしたけど、この暑さだから一端ホテルに戻ろうと思っている」
「うんうん、無理は禁物だから良い判断よね」
「違う違う、俺達が暑いんじゃなくて、こいつ」
そう言うと、彼は目にも鮮やかな緑の簡易ガラべーヤをめくると、膝の上で伸びている灰色の子猫を見せた。
「猫??猫と旅しているの??」
猫と旅するYouTubeを幾つかみたなあと思いながら、夢乃は子猫をそっと撫でた。少し骨張った背中がぴくりと動く。そして夢乃を緑色の瞳で見た。
可愛いいなあ。どこかセージに似ている気がする。
日差しが当たらないように、彼はまたガラベーヤで子猫を隠した。
「どこからだっけかなー?鞄に紛れ込んできていたんだよ。アスワン?」
「いや、ハルガダの時にはもういたじゃないか」
「ルクソールじゃないか?あそこにも猫が沢山いただろう?」
「エジプトはどこへ行っても猫だらけじゃないか」
彼等はあははははとおかしそうに笑う。
「まあ、そういう縁でずっとエジプト国内をこいつと旅していたんだ」
「へええ~~。ホテルとか、飛行機とか大丈夫だったんですか?」
「ああ、レンタカーで回っているから移動は問題ないよ」
「レンタカーで!!凄い!!」
「飛行機で移動のところは空港で預かって貰ったりな。結構みんな親切だよ」
猫は神様だからね~と夢乃は思う。
「ホテルも意外と猫OKのところ多いしな」
「安宿だからだよ!」
彼等はまたあははははと陽気に笑う。
そういう旅もいいなと夢乃が思ったとき、モスクから出張者の一団が出てきた。
夢乃は彼等に別れを告げ、良い旅をと言い、出張者の一団の方に走っていった。モスク観光を満喫したようで、全員いい笑顔で夢乃はほっとした。次に向かう場所へ行く為に、バスが停まっている駐車場に向かう。
そしてふと、あの猫は最終的にどうなるんだろうかと心配になり振り向くと、もう彼等の姿はなかった。少し後ろ髪を引かれる思いで、夢乃は出張者達の後を追った。
追記:
ムハンマド・アリー・モスクは観光では是非に行ってください!色々いですよお!
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