第12話 ゴルフ打ちっぱなしの猫 (白黒ブチ豪胆猫)

 

 接待ゴルフって知ってる?

 

 まあ読んで字のごとしのゴルフで接待するんだけどね、来月、日本から出張でくる一団が接待ゴルフをすることになり、奥様達も参加することになったのだ。

 

 灼熱地獄の砂漠の国エジプトでゴルフ?と、驚いたけど、意外や意外!カイロにはゴルフ場が多いらしい!びっくり! 


 カイロに来た時に、上空からパッチワークみたいに緑の部分が結構あるなーと思っていたら、それ、意外とゴルフ場だったらしい。


 もち、川沿いの広大な緑はほぼ農地。エジプトは意外と農業大国なんだって!

 砂漠の国なのに!?凄い!!


 で、意外と接待ゴルフに限らず、お付き合いとか、日本人会での行事だなんだかんだと、奥様でもゴルフをしなくてはいけない事があるので、カイロに持参した道具の中に、新品ゴルフセットも入っているのだ。

 ゴこれも海外駐在の大切なお仕事なのよ~~。


 で、問題は…私はゴルフをしたことないと言う事。まずい…暑いので練習行かなかったつけが今来た感じ…。

 

 なので、急遽、ゴルフレッスンを受けることになった。和也が仕事でアレキサンドリアに行っているので、同じく接待ゴルフに参加する、高田夫人と田中夫人が、打ちっぱなし練習に行くついでに、私に付き添ってくれることになった。


 ありがたいです!


 アパートメントのバーブ―を呼んで、ゴルフクラブをエントランスまで下ろし、田中さん達を待つ。暫くして社用のレクサスが横付けされ、おなじみサイード君が運んでくれる。


 向かう先はゲジラ。スポーツクラブ。徒歩で行けるけど、ゴルフクラブがあるので和也が手配してくれた。もちろん、高田夫人と田中夫人も同乗していかれる。


 ところで、私達の住んでいるのは、ゲジラ島と言うナイル河に浮かぶ??中州??みたいな島。島と侮るなかれ!もかなーーり広大。

 大使館とか古き良き建物とか、高級ホテルとか、島の中央にそのスポーツクラブとか植物園?とかが、どーーーん!とある、ちょっとした市なみの大きさはある。

 

 大使館とか多いので、外国人が多く住んでいるし、日本人も結構多い。大使館多いのであちこちポリスボックスがあるし、比較的治安がいいので女性一人で歩いても、まあ大丈夫。

 徒歩圏内にスーパーもお店もレストランもホテルもなんでもあるので便利。

 

 昔は日本人の居住区はここ一択だったらしいけど、今はアメリカ人が昔から多く住むマーディーとか、新しい地区のヘリオポリスとか分散されつつあるらしい。

 

 公共交通機関が整えられて移動も楽になり、新しい設備や施設のある所が好まれるようになっているかららしいとか、日本人同士で固まって住むと、どうしてもいろーーーんな理由で!窮屈な事も多くなるので!と いうことらしい。

 私はザマレクで十分満足しているので問題ない。


 さて、スポーツクラブにはなんと!大小5個のコースだあると、高田夫人が苦笑しながら教えてくれる。

 苦笑して言う所が気にかかるが、5コース!!他にも馬場とか運動場とかプールにバスケとかテニスとか色々施設があるのに!さらにゴルフ場!?

 ゲジラ島!凄すぎ!!


 完全会員制クラブなので、ゲートでまずパスのチェック。私も最初の頃の登録行脚の中で、ここのクラブにも会員登録していたのでもちOK。


 中にはいると、大きな街路樹の連なる大きな道が広がり、ちょっとした町だ。とても島の中にあるとは思えない広大さ。グーグルマップで見ても、島のほぼ中央にぽどーーん!緑の区間があるが、それ全部がクラブの敷地らしい!


 で、クラブのザマレク寄りにあるゴルフ場の方に行き、クラブハウス??みたいなところで今日の予約確認。私は自分のクラブを預けに行き、置き場所確認(必須)。そこで管理人にバクシーシ(チップ)を渡す。

 

 そしてコーチとご対面だ。ハウスのそばの椅子にだらだら座っていた男性陣達の中の一人が立ち上がり、にこにこしながら握手をしてきた。


「夢乃さん、彼はタイガーさん。まあ愛称ね。似た名前の人が多いので、ここでは愛称で呼ぶことが多いらしいの。タイガーさんは片言だけど、日本語を喋れるので大丈夫よ」


 高田夫人がそう紹介してくれる。タイガーさんはニコニコしながら、こっちだよと案内する。私一人で別の所かと思いきや、みんな同じ方向に歩いていく。


 着いたのはグリーンとラフ、雑草が茂る絶対入り込みたくない周囲との境がくっきりしている場所。


 ‥‥なんか…コースっぽいんですけど???

 

 と、思っていると、田中夫人が苦笑して言う。


「夢乃さん、ここは打ちっぱなし専用ではないの。目の前にあるのはコースのフェアウエイよ。時々コースを回る人が通るから気を付けてね」


 ええええええええ!?マジですか!?


「あ…あたったりしたらどうするんですか??」

「それは大丈夫、そのためのタイガーさん達だし、ボール拾いの子供達も見ているので、ちゃんと ファー!と叫んで注意してくれるわ」


 練習場で「ファー!?」と、驚愕していると、田中夫人と高田夫人は間隔をあけて並ぶと、それぞれに指定したコーチと共に球を打ち始めた。


 仕切りも何もない所。地面にティーをブチ刺して、コースのフェアウエイ向けて何のためらいもなくナイスショット!!


 ぽかんとしている私に、タイガーさんが、身振り手振りに片言(マジ片言)日本語でレッスンを開始してくれてた。アドレス、スタンス、スイングアートと色々細かく指導する。本格的である!

 なんでもここのコーチはプロや元プロの人達なので、ちゃんと教えてくれるんだそうだ。

 

 そして、コースに向かって、私の危なっかしいボールが飛んでいく。

「ファー!!!」

 どこからともなく少年が叫ぶ。私の最初のショットはファーだった…。

 ちえっ。


 ゴルフボールは自前持参で、見分けがつくように印をつけておくように言われたので、私は当然猫マークをマジックで書いた。

 

でもバカスカ一列に並ぶ練習者の打つタマが乱れ飛ぶコースに、どうやって取りに行くのだろうか??

 

 と、思っていると、籠を抱えた少年や、高田夫人についていたコーチが、ごみ拾い用のトングみたいなので回収してきた球を、ぱぱぱぱぱ!とより分け、持ってきてくれる。


 いやさ…いろんな意味ですごくない?


 その籠の中に…猫が入っていた。

 

 猫です。

 ええ、本当に猫。

 色とりどりのゴルフボールの上に、猫が寝ています。白黒のブチ猫です。グースか寝ています。


 人形??と首をかしげて繁々見ていると、少年が笑いながら言う。


 どうも私のゴルフボールに猫の絵がかいてあるので、猫が好きなんだなーと思った。で、コース脇の草ボーボーの日陰のあたりには、沢山の野良猫がいて、寝ていたので喜ぶかと思い1匹連れて来たと。


 連れて来た?ゴルフ場のオプションみたいなものですか???


 私は苦笑して、「ショコラン」とお礼を言い、無防備にゴルフボールの上で寝る猫の背中をそっと撫でた。ゴルフボールが冷たくて気持ちいいいのか、実に幸せそうな顔で猫は寝ている。

 

 何というか…バカスカと固いゴルフボールが飛んでくるコースの外れとはいえ、寝ているとは豪胆猫だ。なので触ったくらいでは起きない。


 カイロの猫、凄いなーと思っていると、遠くに見えるグリーンらしきところで、数人の男性達が何か怒鳴っているのが聞こえた。

 

 田中夫人達が苦笑して教えてくれた。

「ああ、きっと猫がグリーンで寝ているんだわ。カップインできないから怒っているのね」

 

 は?猫がグリーンに寝ている?

 目を凝らしてもよく見えないが…確かにはためくピンのそばで、キャディーらしき人達が何かを追い払おうとしている。でもどかないのか、延々怒鳴っている。


「犬なら蹴り飛ばして追い払うけど、猫は神様だから蹴り飛ばすこともできないから、大変よね~。まあそれもカイロのゴルフの醍醐味と思って楽しむのがいいのよ。カッカしてはダメダメ」


 そう高田夫人は鷹揚に微笑み、綺麗なスイングでナイスショット!田中さんも流れるフォームでナイスショット!!


 カイロの猫はゴルフ場でも一味違うなあと思いながら、私もスイングしてぱきーーーん!と飛ばす。


「ファー!!!」


 私の球は99%ファーだった。なんで人がいる方に向かって飛んで行ってしまうんだろうか???とほほほほほ。

 

 そして練習がおわると、ファーと叫んだ少年と、ボールを集めた少年や他のキャディー達がバクシーシを要求しに集まってくる。

 バクシーシ大盤振る舞いである。


 そして猫はそのままボールが集められた籠の中で寝ていて、最後はそのままクラブハウスの方まで運ばれ、私達が帰るときもまだ寝ていた。


 豪胆すぎるよ!ゴルフ場の猫!!!


追記:

 ゲジラスポーツクラブには、よくてけてけ歩いていきました。

 春先になると咲き乱れる、ジャカランダの並木道が好きでした。

 ゴルフ場もあるのですが、オプションの様に必ず猫が寝ていましたね。オプションなのかな?笑

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る