第10話 ハンハリー二の猫 (ヘバ・黒猫)
田中敦子夫人から電話が掛かってきた。
私が疲れで体調を崩しているのを聞いていたので遠慮していたが、体調がよくなったのなら色々ご案内したいだけどどうかしら?と、おっしゃる。
まあ‥ね…。
色々あるけどオトナだし、同じ海外勤務の奥様同士なので、お付き合いはそこそこちゃんとしないといけないよね。和也の為にも。
私は二つ返事で了解した。
「まあ!よかった!それでね、近々で申し訳ないのだけど、明後日にハンハーリにオーダーしておいたアクセサリーを取りに行くのだけど、ご一緒しません?他にもご紹介したい奥様がお二人ほどいらしゃるの」
オーダーしたアクセサリーだあ??田中夫人、やっぱりセレブ!!
「はい。ハンハーリは1回だけ和也の案内で見学しただけなので、お店巡りとかできると嬉しいです」
「まあ!じゃあ、いろんなお店を紹介するわね。うちのI商事の代々御用達のお店とかもあるのよ。ああ!そうそう、もしよければ、夢乃さんもオーダーされるといいわよ?好きなアクセサリーの写メとかを持参すれば、それと同じように作ってくれるから」
は?うちがアクセサリーをオーダー???無理無理無理!
「市場ですからね、日本に比べて原材料も工賃もお安いのよ」
「ありがとうございます。写メでいいんですか?」
「ええ写メで大丈夫よ。他にもエジプトらしいデザインとか、アラブ特有のデザインもあるから楽しみになさっていてね。もちろん!回れたら雑貨系のお店もみましょうね」
雑貨!それならハードルが低そうで楽しみだ!
私はお礼を言い、電話を切った。
当日、田中さんは社用のベンツを借りて迎えに来てくれた。
中を見ると、知らない上品な女性達が(また同年代という世代??)二人ほど微笑んで座っていた。田中さんは助手席に移り、私に後部座席に座るように言った。もち、素直に指示に従うのが鉄板だ!
田中さんが私と同乗者の二人をそれぞれ紹介し、車は一路ハンハーリに向かった。
道中は通り過ぎる街並みを、3人があーだーこーだと説明してくれて、結構楽しかった。
おそらく、こうして各社事にあるカイロ情報を交換しあっているんだろうなあと思う。奥様情報は侮れないからね~~~。
私はグーグルマップで検索しては、そのお店を記録していった。カイロの街に☆の数がどんどん増えてなんだか嬉しい。
「ハンハーリは日用品からお土産系に服やアクセサリーまでいろんなものが揃っているエジプト最大のスークなのよ。14世紀に頃に作られて、今でもその当時の雰囲気を残していると言われているの。中は迷路のようになっているから、私達をみうしわないでね」
田中さんは今日がとても楽しみだったらしくかなりご機嫌で色々話してくれる。この間とは大違いだ。
車はアル・フセイン・モスクのそばに停まり、そこから私達は歩いていく。モスクも見たいけど、今日はお買い物に付き合うのがメインなので我慢我慢。
有名な老舗Café、Fishawi Caféを横目に見ながら、私は田中さん達の後について行った。
角を曲がるとそこはもうエキゾチック・カイロ!の世界が広がっていた。軒先にも道にも壁にも所狭しといろんな物が並べられ飾られ売られている。
アラビア風の服に、刺繍が細かい革の靴やサンダル。カラフルでかわいいランプ。水たばこの道具。おもちゃ。クッション。アクセサリーに楽器。香辛料もある。香水の店にパピルスの店。
そして店先ではいろんな言語を駆使して客引きもしていてとても賑やかだ。
あちこち目移りしながらもついていくと、小さな一つの店に入った。
五人入ったらいっぱいになるようなお店で、ちょい薄暗い。何故かと言うと、壁やショーウィンドウに飾られた宝飾品を綺麗に見せるために明かりを落としているらしい。
店主が立ち上がり田中さん達と握手して、ニコニコしながら席をすすめる。少年が奥の部屋に行き、飲み物を持ってくる。ミントがぎゅうぎゅうに入った甘いエジプト風紅茶だ。
実はこれ結構好き!
紅茶を飲んでいると、奥から店主がビロードの箱を持ってきて三人の前にならべる。キラキラした大きな輝石のリングやペンダントを、三人がそれぞれとって品定めしてる。
私は壁のショーウィンドウに飾られてる、エキゾチックなデザインの腕輪や指輪をみていた。
「オッタ?」
そこには猫の横顔の金細工の可愛い指輪があった。よくよく見ると、猫が走ってるように連なるブレスレット。サファイアのような輝石の眼の猫のイヤリングと、猫だらけのアクセサリーが並んでる。
私は猫は好きだけど、猫グッズはあまり集めないタイプの猫好きだ。でも!これは可愛い!!
食い入るように見ていると、くいくいと袖を引っ張るのに気づいた。さっきの少年が、部屋の隅を指差す。
薄暗くてよくわからないけど、、そこには赤い皮の椅子に寝そべる、真っ黒な猫が寝ていた。まるでビロードのようなツヤツヤした毛並みだった。
「ガミーラ」と、思わずつぶやくと、店主と少年が嬉しそうに笑った。少年は猫を大事そうに抱くと、夢乃に抱かせてくれた。
それは宝石のようにとても手入れされた美しい猫だった。猫はうっすらと目を開けると、夢乃を見上げて、あら!と言う顔して、つん!と横を向いた。
「可愛いですね」
至福の気分でなでなでしてると、アクセサリーを受け取ったらしい田中夫人が振り向いた。
「あらあら、ヘバが大人しく抱かれているなんて珍しいわ。夢乃さんの事をとても気に入ったのね。
夢乃さん、ここには猫モチーフが沢山あるでしょう?店主のハサンがヘバをデザインして作っているオリジナルなの。可愛でしょう?」
田中さんがそういうと、ヘバはちらりと私を見上げ、パシパシと長く黒いつややかな尻尾でウインドをた叩いた。
そこにはさっき目に止まった猫の横顔のリングと走るように猫が連なるブレスレットがあった。
店主が何かいい、少年が鍵束を持ってきてウインドを開けると、中からブレスレットを取り出した。
そして、ヘバを抱いたままの夢乃の腕にするりとつけた。
スポットライトのような灯りの中、連なる猫達はキラキラと輝く。
よくよく見ると細かい細工がされてて、光を乱反射している。
「綺麗。可愛いい」
うっとりと言うと、ヘバが目を細めて、にゃーんと鳴いて、美しい逆三角形の頭を、夢乃の顔にすりすりと頬擦りさせた。
「で?買っちゃったんだ?その金細工のブレスレット?」
家に帰ってきた和也は呆れたように言う。
はい。そうです。ヘバにすりすりされて、にゃーんと鳴かれたら頭がぼーっとなって、気づいたらクレジットカードで買っちゃってました。
恐るべし!ハンハリーリの猫!!
「当然値切ったよね?あそこはそーゆールールなんだよ?」
「言い値で買おうとしたら、、田中さんがびっくりして値切ってくれた。半額になったかな?」
「うわー!田中さん凄いな。あの店主相手に半額にさせるなんて。もしくは投資かな?夢乃がいい客になりそうだから」
「まさか!私は宝飾品には興味ないから、ナイナイ!」
そう笑う私の腕には、ヘバにまんまと買わされた金細工の猫のブレスレットが、シャラリと揺れた。
ハンハリーリの猫!侮り難し!!
追記:
看板猫だけでなく、ハンハリーリにはあっちこっちに猫が寝ていました・笑。
売り物の上で寝ている猫もいます。猫だらけです・笑
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