第7話 ペットショップと猫 (いろんな子猫)


 そんなこんなで、私はますます猫を飼いたい病にどんどん嵌っていく。

 カイロで猫ってどうやってゲットするんだろうか?


 田中さんはゲジラ・スポーツクラブでタマに出会ったと言っていたよね?でも、あの広大な敷地の中で、どうやって猫を探すの?大体野良猫は触るの厳禁!だし…。うーんと悩む。

 

 ペットショップ!


 そう言えば、なんて道だっけ?大通りにペットショップあったよね?そこに行ってみよう!もしかしたら猫が売られているかも!


 熱が下がった翌日に、私は和也と散歩ついでにその店に誘導するように向かった。

 

 いろんな肉屋(肉屋の前には捌いた肉がどーーーん!とぶら下がっているのですぐわかる)に魚屋(綺麗な店内の冷蔵ケースの中に氷と共に並べられてい)、バーにcafe、色々なレストラン、食器屋、屋台もある。

 ここの通りには食品関連のお店が多く並んでいる。

 

 その一角に小さなペットショップがある。店先には小鳥やウサギやアヒルとかが入れられた籠が並んでいて、中にも水槽の中に魚なんかがいる店だ。

 

 ウサギに興味がある顔して、茶色と白の斑模様のうさぎを「可愛いねえ」と見ながら、ちらちら店内を見る。

 

 いた!!猫がいた!!奥の店主の座る椅子のそばのテーブルの上で寝ている!!


 すかさず中に入り、「オッタ(猫)!ガミーラ(美しい)」と褒めたたえながら傍による。猫を褒められて嫌な顔するエジプト人はいない。

 店主はニコニコしながら、「猫が好きかい?」と、英語で聞いてくる。私も英語で返す。


「もちろん!好き!猫はこの子だけ?」


 すると店主は黒い瞳をキラン!とさせて、横にいた男の子に何か言う。男の子は奥に消えると、暫くして小さな子猫を数匹腕に抱いて運んできた。


 猫!きたーーーー!!しかも子猫おおおおおおおお!!!

 私のテンション爆上がりだ!!


 埃だらけのテーブルを袖で軽く拭いて、男の子は子猫達をテーブルに並べる。白、白茶色斑、キジトラ、サバトラ、シールポイントもいる。


 可愛い!可愛い!かわいいいいいいいいいい!!! 


「夢乃!」

 店の外から和也が不機嫌な顔で呼ぶ。

「まさか猫を買う気じゃないよね?」

 まさかと私は笑う。


「いつかは飼いたいから、そのリサーチだよ~。大体、あんな裏から連れて来た、飼い猫が産んだような猫を売るわけないじゃん。ただ見せてくれているのよ、きっと」


 和也は懐疑的な顔をする。

「アラブ人はどんな物でも売るというぞ?俺はあの子猫達を夢乃に売る気満々だと思う」


「まさか」

 と、私が笑うと、店主が「マダーム?」と呼ぶ。戻ると、みゅーみゅー動き回る子猫を見下ろしニコニコして言う。


「マダム、ケダ、オッタ、ハムサ」

(マダム、この猫は5です)


 5???この間のミント売りも「ハムサ」と言ったけど、エジプト人は5が好きなのかな???

 小首を傾げると、店主はにやりという。


「ファイブ マネー キャット」


 え?5ポンドってこと??日本円で言うと…23円くらい??

 あり得ないでしょう。


「5£?」

「ラー、マダム、ヤパーニ、50US$」

(いいえ、あなたは日本人だから。50US$です)


 50US$??えーと…8,000円くらい???え?何?この子達を売るってこと???へ???


 ぽかんとしていると、和也がずかずか中に入ってきて、何かアラビア語で言うと、店主が肩を竦めて、少年がさっさか猫を回収し奥に行ってしまった。

 店を出て歩きながら、和也が呆れて言う。


「ほら見ろ!野良猫を売りつけられるところだったんだぞ!」

「えーでも…8,000円なら…安くない?」

「夢乃!しっかりしろよ!騙されるなよ!!大体!あそこは肉屋だぞ!!」

「は???」

「あそこの店で売られている動物は全部!食材なんだよ!ここら辺は肉屋とか魚屋とか八百屋に果物屋に食材を売る店が多いだろう?要は、そういう食材を売る店の通りなんだよ」


 私はぽかんとした。


「え?でも…あのうさぎも鳥も生きているよ??」

 

 和也は深呼吸して行き交う車の騒音に負けない声で言う。


「生きている方が新鮮だろ?!」


 雷が落ちるほどの衝撃と言うのはこういう事なんだろうか。

 周囲の騒音が聞こえなくなるほど、私は呆然を和也を見た。肉?新鮮??生きているから???


 うそ!!

 

「え?じゃあ…あの子猫達は!?」 ぞっとした!!


「子猫は食べないよ。猫は神様だからね。あり得ない。純粋に夢乃が子猫欲しそうだったので、裏で生まれた子猫でも捕まえてきて、売れるなら売ろうと思ったんじゃなかな。でも…一番下の籠にいた犬はわかんないなー。犬を食う文化の国の人もいるからね」

 

 犬!?


 私は思わず店の方をふりかえったが、街路樹の陰で店はもう見えなかった。和也ははあ…とため息ついて説明してくれた。


 本来、食材は市場で売られている。私はまだ連れて行って貰えてないけど

 (場所により結構ヘビーらしい)

そこではホントに食べられる物は何でもどんな状態でも売らている。もちろん生きたままでも。

 だが、市場まで行くのは大変なので、こういう住宅街には食品を扱う店が並ぶ通りが必ずある。市場よりは割高だが、行く手間考えると便利でいいらしい。なので市場と同じ感じで店が並ぶ。生きたまま売る店も。


 で、私みたいにあそこで売っている動物達をペットと間違えて買う外人は結構いるんだそうだ。もしかしたらそれが狙いなのかもしれないけどね、と、和也は言う。

 

 日本人でもペットとして買ってきて、ベランダとか置いていると、大概勘違いしたメイドの手により、こんがりオーブンで焼かれたり、スープになってしまったアヒルにウサギに鶏に魚が沢山いるらしい。


 ひいいいい!!!食卓にだされたペットを見た瞬間を想像しただけでもぞっとする!!!


 メイド達にしてみれば、あの店で買ってきた動物は「食べる」ための動物だから、悪い事をした意識はない。文化や習慣の差なのだから仕方のない話なのだ。

 それはわかるけど…わかるけど…あの子達はそういう意味で売られているのかと思うと…もう二度とあの店の前は通れないと思う。無理。


 しゅんとうなだれていると、和也がちょんちょんと腕をつつく。彼の指さす方、街路樹の下に猫達が沢山あつまり、だらんと寝ている。子猫もいる。

 白、黒、ブチにシールポイントもいる。


「もしかしたら、ここから連れてきたのかもよ?」

 そういう和也と二人、かがみこんだ。


「今は肉も魚も日本みたいに処理済みパック済みのを、大型スーパーで買う人も多くなってきたので、ああいうスタイルの店は都心では少なくなってきているらしいよ」


「紛らわしいから、なくてもいいのにね」


「はははは。まあね。だからさ…ここは食材の通りだけど、要はペット専門の店が並ぶ通りもあるんだよ」

 

 私はばっ!と和也を見た。

 

「え?どこ?どこにあるの?!」


「今度、ムハンマドに聞いてみるよ。犬を飼ていると言っていたから。だからさ…それまで待っていてよ。

 夢乃がさ…田中さん宅でのお茶会後に体調崩しただろう?そして、梨田夫人の車の一件を聞いて…あーなんかあったんだなあと思ったんだ」

 

 夢乃は驚いた顔を和也に向けた。そんなことを考えていてくれたとは思ってもいなかったからだ。


「夢乃は俺に心配かけまいと、何も言わないでいてくれるけどさ…。奥様同士の間のトラブルって結構多いらしいし、特に新参者は巻き込まれやすいので、奥さんの様子をちゃんと見ていなさいよ!と、高田夫人に忠告されていたんだ。

 ごめん、気づけなくて」


「高田夫人が?」

 へーと思う。

「駐在はさ、日本に帰るまでが駐在だよっても高田支社長にも言われた」

「ハハハハハ!家に帰るまでが遠足です!ってのと同じだね!」


「ああ…俺たち、何年ここにいるかわかんないけどさ。いつか無事に帰国できるまで…なんでも話し合って協力し合って頑張って行こうよ。

 猫もさ…夢乃がセージを連れてくるのを我慢したんだし、でも夢乃には猫は必要だと思うからさ…だから、もう少し待っててよ。必ずいい子猫探すから」


「子猫かあ…いいねえ…。猫種は選べれるの?できればセージと同じ感じのがいいなあ」

「ロシアンブルーみたいな猫かあ…探してみるよ。だからさ、あんまりこんな感じで、あちこち猫を見るのは少し自重してよ」

「え?なんで?誰かに言われた?」


 和也は不愉快そうな顔でいう。

「まあね。なんでそれを今ここで言うんだよ?って人もいるんだよ。夢乃はここに来たばかりだから目立つらしいんだ。どのサークルにも入ってないからともいわれた」


「サークルかあ…猫好き同好会とかあればいいけど、ないよね」

「無かったねえ」

 二人はおかしそうに笑いあう。子猫達が興味津々でこちらに来て、足元にじゃれて来た。裸足の足に、子猫の肉球がぷにぷに当たりこそばゆい。母猫がにゃーと、木の根元で涼みながら鳴くと、子猫達はよたよたと戻っていく。

 

 可愛いなあ。


「あのさ、無理はしなくていいよ。サークルとかお茶会とか奥様同士の付き合いとか。確かに必要な事だと思うけど…。無理して頑張って、壊れて…帰国したり離婚した夫婦の話も沢山聞くからさ…。俺は夢乃にそんな風になってほしくない」

 

 夢乃はなんだか胸がじんわりきて、目頭が熱くなった。

「…ありがとう」

「どういたしまして」


 夢乃はぱっ!と立ち上がると、和也に手を差し出した。

「だったらさ、こうして道端で夫婦でかがんで猫を見ていたら、また誰かが口さがない噂を流すんじゃない?」


 和也は笑いながら夢乃の手を掴んで立ち上がる。

「今更だよ!もうさ、何言われてもいいと思ったよ!今日の猫にギラギラした目を向ける夢乃を見ていたらさ!」

「え?そんなことないよ!酷いよ和也!」

 二人は笑いながら、夕飯を食べにタイ料理の店に向かった。そんな二人を、街路樹下の猫の親子は、あふうう~~とあくびをして見送った。



追記:

 カイロのペットショップは病院+ペットグッズ+生体売り な、感じかなあ?

私が案内されたのがそういうのだったのかもしれません。ペットグッズは欧米品が多かった気がします。

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