第2話 (フランス)パリの本屋の猫 (レオ・キジトラ)
花の都のパリ~と、誰が言ったんだ?と、花岡夢乃は犬のうんちだらけの道を見渡しながら、顔をしかめた。
夫の花岡和也のエジプト駐在に一緒に赴任するために、成田から家族や友人達に見送られ飛び立ち、中継地のパリに到着した。
一応、ここがハネムーンの地になるのだが、あまりピンとこない。
なにせ、和也は朝ご飯を食べたら、パリ支店に出勤?挨拶に出て?行ったまま、新婚妻の夢乃は一人放置状態だ。
事前に聞いていたけど、マジで放置とか!ちょっと驚きだよ!和也!!
まあいいけどね。携帯電話のアプリがあればどこにでも行けるから。
夢乃は一人で観光の為に街にでたが、ホテルを出たとたんに、うっ!と立ち止まった。
目の前で大きなセッターが屈みこんだと思ったら、いきなり脱糞し、飼い主はそのまますっきりした犬と共に颯爽と立ち去った。
驚いた!!!
よくよく見ると全部の飼い主がそうではないが、結構脱糞したままの残骸があちこち残っている。
夢乃は見なかったことにして、最初の目的地のノートルダム寺院に向かった。
朝一で行けば空いていると聞いてたノートルダム寺院は確かに空いてて静かで荘厳な雰囲気だった。また後で和也と来るので、下見程度で次に向かう。
サント・ペシャル協会はステンドグラスが綺麗と聞いていたけど圧巻過ぎて、少し長居しすぎて慌ててルーブル美術館に向かう。
事前予約ぎりぎりに間に合い、中に滑り込むが、あまりの人の多さに閉口した。とりあえず、最短時間で名物の絵画を見ていこと、気合を入れて建物の中に入った。
ルーブル美術館の中の熱気と人の多さに疲れ果て、凱旋門の前の公園のベンチでコーヒーを飲んでいると、またまたお犬様と残しものがあちこち目に入る。
ここは自由なんだなーと思いながら、青い空を見上げる。
セージに会いたい。
猫に会いたい。
でも不思議なことに、野良猫1匹にも出会わない。なんでだろう???
ぱぱぱぱと、携帯電話で猫Caféとかを検索する。
おおお~~!パリにも猫Caféがある!でも全部予約済みで今日の空きはない。
ちえーと、つぶやいて、立ち上がると、横に座っていた女性が笑いながら「Chat?」と声をかけてきた。
きょとんとしていて暫く言葉が脳みそで変換されなかった。
「あ!猫!?キャット!?」
「ウイ、ウイ」
と言いながら、彼女は携帯の地図を出した。自動翻訳アプリを起動して話を聞くと、ここの本屋のウインドウに猫が寝ているということだった。
素敵!
夢乃は彼女に感謝の握手をして、教えてもらった店に向かうためにメトロに走った。
その店は大通りとは違う商店街的なこじんまりとした通りにあった。
有名なのか?既に数人の各国の猫好きが集まり、写メを撮りまくっている。その人混みの間から背伸びをしてみようとしたら、前にいたアジア人の男性が「ねこ?どぞー」と言いながら前を空けてくれた。
専門書らしい文字の羅列の分厚い本が展示されているウインドウに、大きなふさふさのキジトラ猫が本を枕に寝そべっていた。
「可愛い!!」
思わず叫ぶと、一斉に周囲からも「カワイイ!」「カワイイ!!」と声が上がる。
カワイイは世界標準語になりつつあると誰かがいっていたけど、マジ本当なんだと夢乃は驚いて周囲を見回した。
「二ホンのヒト?」
そう声をかけてきたのは、先程のアジア人の男性だった。
「はい。そうです。あなたは?」
彼は真白な歯を笑わせた。
「台湾です」
「おー!台湾!私、前に行きました!タイペイ、ファーレン、タイナン、タイトン、行きました!」
すると何人かのアジア人の女性達が振り返り、自分達も台湾人だという。すると他の人達も自己紹介みたいにお国の名前を言う。
タイ、ドイツ、ノルウエー、ジョージア、インド、メキシコ、アメリカ。みんなで英語や翻訳アプリで猫談義をしていると、この猫の説明をしてくれた。
名前はレオ。立派なふさふさのキジトラ猫だから。
(キジトラなのに何故レオ(ライオン)??)
もともとは野良だったらしいが、ある寒い雪の日に店の前で動かなくなっていたのを店主の娘が発見し保護したのが始まりなんだそうだ。
レオは頭のいい猫で、絶対お店の中や家の中や商品で爪とぎや粗相はしない。最初はお店に入れる気はなかったが、商品搬入でドアを開けていたら、2Fの住居スペースから降りてきて、いつの間に飾り窓で商品を枕に寝ていたそうだ。
そして誰かがSNSにあげたことから瞬く間に世界中に拡散。今ではレオ・ファンクラブ?みたいなSNSまでできて、そこに毎日誰かがレオの寝姿をUPしているんだそうだ。そして世界中からレオに会いに来るようになったと。
「へええ~~そういう経緯があったのね。レオ君、素敵な店主さんに保護されてよかったね」
そういうと先程の台湾人の男性が「違う違う」と笑う。
「レオは女の子。店主達が猫の性別を見分けられなくて、外見から男の子だと思ったらしいよ。でも病院で検査したら女の子とわかったんだけど、レオで定着していたのでそのまんまなんだって」
そこにいた人達は日本語は分からなくても、何を話したかわかるらしく、どっ!と一斉に笑い出した。
そんなギャラリーをレオは、うるさいなーと言わんばかりに琥珀色に斑の緑の入った宝石のような目を開けて睨んできた。
するとみんな一斉に写メを撮る。夢乃も夢中で写メを連写した。レオはお尻を向けてしまい、みんな嬉しそうに笑う。
レオを堪能したあと、数人の猫好きが、猫が集まるCaféにいかないか?と誘ってきた。
「猫Caféはどこもいっぱいだったわよ?」
「そういう猫Caféではないんだ」
「そうそう。本当のCaféに、午後過ぎになるとどこからか猫達が集まるCaféがあるのよ」
「凄い!」
夢乃はわくわくしてもちろん同行した。
猫好きで猫の写真を見せあいながらメトロで移動し、賑やかな通りのよくあるCaféの外の席に座る。すぐにギャルソンがメニューを持ってくる。みんなコーヒーや紅茶を頼んでいると、
「ほら」
と、肘をこつんと当てて目配せしてきた。その視線の先に、レオと同じキジトラの猫が優雅に通りを歩いてくる。
「凄い!パリの猫は歩き方も優雅ね!」
みんなどっと笑い、しー!と指に手を当てて声を落とす。他の席の人達は、ゆったりと夕刻の時間を楽しんでいるため、騒々しいものはいないからだ。
猫はゆっくりと近づいてくると、くるん、くるんと各席の客の足に体をこすりつけていく。
くるんくるん。
夢乃の足にもこすりつけ、軽くウインクして他の席に行く。
「可愛い!」
「カワイイ!」「カワイイ」「カワイイ」
夢乃の可愛いに一斉にみんな小声で言い、くすくす笑う。よくよく見ると、そこあちこちに猫の姿が見える。
「不思議ね。昼間はいないかったのに、どうして午後になると出てくるのかしら?」
「猫は夜行性だからじやないか?」
「猫集会の時刻なんだよ」
「単に夕食タイムのCaféのおこぼれに預かりに来ているんじゃないか?」
成程と夢乃は頷き、じゃあ何か食事も頼めばよかったなあと後悔した。
何故なら、丁度夫の和也から「仕事が終わったけど、どこ?」というメッセージが入ってきたのだった。
名残惜しいけど、夢乃はひと時の猫好き仲間に別れを告げて、猫達に分かれを告げてホテルに戻った。
ホテルに戻ると既に和也が戻っていて、すぐに着替えてパリ支店の人達と食事に行くことになったという。
夢乃は大慌てでシャワーを軽く浴びて着替えて、和也と共に夜のパリに繰り出した。
夜だし、猫はいるかな?と時々建物の影や通りを見たが、何故か猫は1匹も見つからなかった。残念と思いながら、そういえばいつの間にかわんこの置き土産の臭いとかが気にならくなっている自分に気づき、夢乃はくすくすと笑った。
追記:
犬も歩けば脱糞!てなくらい、どこが花の都なんだよ~~!でしたね。
猫はお店に看板猫としている猫が多かった気がしました。
そしてなんとなくオシャレ猫な感じ。
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