if 「という夢を見たのさ」

ㅤパチパチパチ。肉の焼ける音、空腹を刺激する匂い。笑い声。昼下がり、窓の向こうからは子供達のはしゃぐ声が聞こえてくる。

どうしてこうなってしまったのだろうか。どうして、も何もない。予定調和だ。君に「食べてしまおう」と告げたあの日から、決まっていた結末だ。驚くこともない。訪れるのが、思ったよりもずっと早かったというだけで。

「先輩と仲良くなったんだ」

ㅤ嬉しそうな声が、脳の奥で響く。

「先輩と仲良くなったんだ」

ㅤ迫り上がる胃液に、焼けつく喉の奥に、思わず喉を抑えたことを覚えている。どうしようかと思った。どうしよう。君が、世界を必要としてしまったら。閉ざしていた可能性が、開かれてしまったら。


ㅤフォークに刺した君を口に運ぶ。味がしない。肉だ。自分が今食べているものは肉だ。君の肉だと言い聞かせる。咀嚼して、嚥下する。焼きすぎてしまったのか噛むのに労力がいる君は、それでも君なので、美味しいような気がする。君に出すにはあまりに及第点を下回る出来に、溜息すら出ない。ね、どうだろう。美味しいかな? 目を瞑って、開いて、誰もいない椅子に問いかける。

ㅤこれからもずっと一緒だから、寂しいなんて思わない。思わないんだ。君だって望んだ安寧のはずなんだ。ね、そうだろう? 空っぽの椅子に問いかける。胸の奥がザラザラとする。本当は、なんだか、とっても。首を振る。微かに感じる苦味を、君の大好きな甘いコーヒーで流し込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る