閑話 昨夜のこと

 エレンはロゼ魔法学園の卒業者である。

 ロゼ魔法学園とは、一人前の魔法使いへ育て上げるための魔法教育成施設であり、魔法について研究する研究施設である。

 入学を希望する者であれば誰であれ歓迎し、平等に魔法の知識や基礎をはぶくみ、経験を積ませて成長を促している。

 世界中で嫌われている魔族ですら心置きなく入学でき、誰もが“生徒”として平等に扱ってくれるほど、ロゼ魔法学園はふところがデカい。


 魔法を学びたいと強くこころざすひとたちの入学を受け入れる他に、魔法の研究者と学者を雇うことで、魔法の発展を進めている。



 今でこそ、魔動機マギアの存在と性能、便利差が魔法より目立ってきてはいるものの、(魔法が)あることに越したことはない。

 魔法は太古より、人々が主に使い続けてきた武器すべだ。魔法があったからこそ、魔動機マギアが生まれた以上に、

 どんな魔物であれ魔族であれ、環境であれ、人類はどんな強敵や困難に打ち勝ち、生きて存続きた。


 今も魔物や魔族といった脅威は完全に消えてはいないものの、自分たちがこうして“平和で波乱な日々″を送れているのは、現在きょうまで努力を紡ぎ、未来を切り開いた人類の栄光そのもの。

 であるからこそ、人類が掴み取った世界未来に責任を持ち、胸を張って生きていく。

 例え人類自分がいつか滅ぶとしても、どんな結果となっても。

 結末に辿り着くその日まで、歩み進化は止まらない。



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 卒業してから少しして、エレンは冒険者となって生活を送った。

 ロゼ魔法学園で培った実力を利用した生活を始めたのだ。



 アウル周辺に生息する魔物はそれほど活発的でもなく、まあまあな強さを持っているのがほとんど。戦闘経験に貧しい素人しろうとでも、落ち着いて対処法をしっかりおこなって戦えば勝てるほど、比較的に安全地帯である。


 その為、アウルを拠点として活動する新人冒険者たちがほとんどいて、魔物を倒せたから、と自分を過信して冒険者になろうとする人もいるくらいだ。



 さ~て、今日も依頼をこなすか、と覇気が抜けたエレンは一枚の依頼書に目がとまった。



『緊急依頼  森の奥で奇妙な姿をした魔物が発見された。

 

 パーティ仲間の冒険者さん達が森の奥で見たこともない魔物を発見したそうです。

 目撃した冒険者さんたちからの情報だと、その魔物は人型の異形な姿をしていて、一目見ただけで気持ち悪かったそうです。

 もしかしたら脅威の一種になるかもしれないかもしれませんので、この依頼書を目にした冒険者は、森の奥へ向かってその魔物の調査をお願いいたします。

 討伐に失敗したとしても違約金を請求はいたしません。 


 魔物に関する情報が不足している為、討伐推奨は「竜級」に指定させていただきます。 


 冒険者ギルド役員より 調査報酬:5000  討伐報酬:20000』




 エレンがいるドラゴニス大陸は“竜王″ギラが支配する大陸である。

 大陸内で起きていることは全てギラに全部筒抜けであり、

 建物や洞窟、地下などに隠れたとしても、ギラの“眼″を誤魔化すことはできず、ドラゴニス大陸縄張り内の全てを一切見逃さない。

 未知の魔物が発見されたということは、ギラはその魔物が脅威にならないと理解した上で見逃しているのだと思った。


 よそから飛来した魔物によって生態系が変わり果ててしまった事例は幾つかある。

 その為、見たことがない魔物や起きていた変化は必ずギルド職員へ伝える義務が冒険者に課せられている。


 冒険者ギルドへ帰ってきた冒険者たちはギルド職員に事情聴取は行なっている。

 事情聴取で嘘を付いたり隠し事をしたとしても、職員には人の嘘を見抜く魔導機マギアを必ず持っている為、騙し通すことができない。

 事によっては罰金、冒険者の資格剥奪以上に、何とか罪の容疑で逮捕されるほど、外来種の魔物は危険だということだ。



「ま、このまま考えてても分からないから仕方ない。とりあえず、久しぶりの肩慣らしに引き受けるとするか」



 そう言って、エレンはその依頼を引き受けた。

 雑魚魔物ばかりを倒してきていい加減飽きていた上、なまった自分の腕を治すための強い相手を探していた。

 アウルには駆け出し兎級冒険者しかいない為、自分以外に適任な者がいないと僅かながらそう思った。

 

「あれが依頼書に書かれていた魔物か」



 エレンは依頼書に書かれていた魔物を発見した。 森に散らばった気配の一つ一つから目的の魔物らしき気配を特定し、その気配を辿ってようやく見つけ出した。


 魔力を長きに渡って魔力を使い続けた者は皆、「魔力」や「気配」などの力の存在を感じ取れるようになる。

 特に魔力を主な武器とする魔法使いは皆、この段階に至りやすい。


 


超炎噴吹ブェラプジョン!」



 エレンが得意とする超級炎魔法が魔物を直撃した。

 さっさと終わらせようと思い、まずは様子見と、杖先から放たれた《ブェラプション》を軽く一発おみまいした。



「流石は冒険者役員が緊急に依頼したことだけはある。この程度で終わるなら脅威にもなりえる訳がねえ」



 エレンはそう言い、ますますやる気とワクワクが湧き上がってきた。今まで雑魚魔物の討伐で退屈していたエレンにとって、この魔物は最高の獲物ターゲットだった。


究極零度伊吹コリュブォレス!」



 杖先から放たれた氷結吹雪超級氷結魔法が魔物を直撃し、魔物を氷づかせた。しばしの間その魔物は氷漬けとなっていたものの、魔物はすぐさま氷を破壊した。


 



 エレンはあらゆる手を尽くし、あらゆる手段を模索して実行したものの、魔物にはほとんど通用しなかった。攻撃はどれも確実に効いていたものの、魔物の異常なまでの再生能力、ほとんど疲れきっていない身体からだと体力を前にして、

 エレンは逃げるしかなかった。



 エレンは必至となって逃げた。

 肉体を鍛えろと、子供の頃にお母さんがよく叩き鍛えてくれた修行が今となって役に立ったのだ。

 魔物のスピードは速くなく、魔物をまくことができた。だが、


「も、 もうだめだー」



 逃げた末行き止まりにたどり着いてしまった。魔物はエレンの後ろに来ている為、もはや逃げ切ることは不可能。

 何とか逃げ切る方法を考え、模索しているものの、魔力が空なエレンはもはや羽をもがれた鳥も同然。


「はあああああああああああ!!」

「……・え!?」



 死を覚悟し、いざ魔物に食われようとした間際、横からなんらかの力をまとった一人の少女が割って入って、魔物を拳で殴った。

 少女の強力過ぎる力によって魔物は砕け散り、灰となって消滅した。



 少女の顔が自分に向かった。

 まるで月が少女を祝福するかのように、月の光が少女を照らし出した。



 一目惚れしてしまった。

 窮地だったところを助けてくれたからかもしれんが、少女の姿を一目見た瞬間、オレの目は少女の姿にくぎ付けとなっていた。


「大丈夫? 怪我しているところはない?

 ……・やっぱり異世界だから言語が違って、私の言葉が分からないのかな」



 無意識に少女の姿をガン見していただけのオレは、少女が言っていることが頭にはいらなかった。

 少しして正気を取り戻したオレはアケノさんをオレの家に泊めた。


 これが、オレと明野さんとの出会いだった。

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アークブレイヴ 暁辰巳 @santuki

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