第26話 次なる目的地
ジークフリードからの願いを断り、港を離れた俺たちは今夜寝泊まりする宿へと来ていた。
気がつくと辺りは薄暗くなっていたため、今日は宿で休むことに決めた。
都市リバイアタンの街並みに並ぶ店の中におしゃれな宿が所々に点在している。
リバイアタンは観光名所に訪れる者やギルドの仕事を行う冒険者達が立ち寄ったりする事が多いので宿屋や店が多く立ち並んでいるのだ。
色々ある宿屋だが俺たちは適当に安めの宿ヘと入り、部屋を取った。
部屋割りはヴィルへリア、エリザ、シンシンの3人と俺1人で2つ部屋を借りた。
それは当然、竜王であっても側から見れば可愛らしい少女達なのだから、一緒に居て間がもたないのは俺だ。
それと、1人で居て気持ちを休めたいって言う考えもあったから部屋は別にした。
「ふぅ……」
取り敢えず、俺は部屋へと入り一息ついた。
柔らかく清潔なベッドへと座り、俺は天井を見上げた。
考えていたのはイブニクル王国のジークフリードの事である。
本当に断っても良かったのだろうかと、俺の心の弱い部分がそう語りかけてくる。
だが、ゆっくり落ち着いて考えるとやはりヴィルヘリアの方が正しい。
俺に良くして来なかった者の願いをどうして易々と聞く必要があるのだろうか?
そうやって悩むから俺はいつまで経っても弱いのだ。
「もっと強くならないと」
そして俺はベッドに大の字になる。
すると、これまでの疲れがどっと湧き上がってきたのを感じると、瞼が重くなってくる。
レイクは自身の欲求に身を任せ、そのまま目を閉じた。
☆☆☆☆☆
一方、レイクのいない竜王達3人、特にヴィルヘリアはフカフカの布団に目を光らせていた。
「わふぉ〜!! この寝床はふかふかで気持ちが良いんじゃ!!」
ヴィルヘリアはベッドに勢いよく乗り、ぴょんぴょんと跳ねている。
「もう、ヴィルヘリアったら落ち着いて」
エリザが宥めるが、ヴィルヘリアは興奮しており止まる事はない。
「シンシンも疲れてるんだから……」
そう言ってシンシンの方を見るとヴィルヘリアと一緒にベッドの上で跳ねて遊んでいたのである。
「楽しいぃ〜えへへ」
「はぁ、全くもう」
エリザは跳ねて遊ぶ2人の間に座る。
「ところでヴィルヘリア、明日からどうするのよ?」
「うむ? そうじゃなぁ……どうしようかの」
「考えて無かったの!?」
「うーーむ、レイクに竜を統べらせるのが目標じゃからの残りの竜王達にも会わなきゃいけないんじゃが……」
ヴィルヘリアは嫌そうな顔をしながら流し目でエリザの目線を逸らす。
「会いたくないんでしょ? ヴァルダンテに」
「な!? どうして分かったのじゃ!?」
「そんな嫌そうな顔したら誰だって分かるわよ。でも、レイクを竜の代表にしたいのであればいずれ会わなきゃいけなくなるわよ」
ヴィルヘリアは更に苦い顔をする。
その隣でシンシンが不安そうにヴィルヘリアに近づく。
「そうだよね、昔からヴィルちゃんヴァルちゃんの事が苦手だもんね。私も得意って訳じゃないけど」
ヴァルダンテとは"
その古竜はヴィルヘリア達と同じ五大竜王のうちの1人で竜王の中でもヴィルへリアに続いて脅威とされている竜王である。
竜王間でも実はあまり良しとされていない竜王で、人間に対して強い反抗心を抱いているのだ。
そんな竜王に対してこれから人間と友好な関係をレイクを使って築いて行きたい計画を話したらどうなるかヴィルへリアは知っている。
絶対に喧嘩になるのを。
だからこそ、ヴェルダンテに関しては少し様子を見ようとヴィルへリアは思っていたのだ。
「そ、そうじゃ! シンシン、ぬしはどこか行きたいところはあるのじゃ?」
話題を変えるようにヴィルへリアはシンシンへ話題を振った。
「うーーん……あ! わたしぃイブニクル王国へ行きたいですぅ!」
その言葉を聞いて、エリザがずっこけた。
「ちょちょちょっと! さっき、レイクが行くの断ってたわよね!?」
「えぇ~……だって、私、折角地上に出て来たから素敵なお城見たいし、それにレイクさんはイブニクル王国に協力しないだけ行きたくないとは言って無かったかなって」
エリザはシンシンの言い分に対して強く反論することはできなかった。
そう言われてしまえば、そう捉えられると思ったからだ。
「ねぇ、ヴィルへリアはどう……」
「良し! 明日はシンシンの為にイブニクル王国へ行くぞ! 城下町へ言って羽根を休めようでは無いか!!」
ヴィルヘリアは目を光らせて腕を大きく上げた。
そして、そのままぱたりとベッドに倒れるとぐうぐうといびきをかいて寝てしまった。
自由奔放なヴィルへリアに対して溜息を吐くがエリザは思わず口元を緩めた。
「全くもう、自由な竜なんだから。シンシン私達も寝ましょうか」
そう声をかけた頃にはシンシンもすやすやと寝息を漏らしながら寝ていた。
「もう! みんな、自由すぎ」
エリザは一ツッコミ入れてから、ゆっくりと眠りについた。
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