第23話 ”深海古竜”シンシン

 びしょびしょになった2人の身体を拭いてから改めて話をするために像のある広場の隅のベンチにヴィルヘリア達を座らせて話を聞くことにした。

 ヴィルヘリアが連れてきた少女はおどおどとしており、警戒するようにきょろきょろと周りを見ている。

 俺が声を掛けようとするとびっくと驚いたような素振りを見せて、ヴィルヘリアの後ろへ隠れようとする。


 なんだろう、まるで小動物を相手にしているような感覚になってくる。全然竜王の威厳なんてものは無いような……


 俺は改めて、ゆっくりと優しく竜族語で話しかけた。


「初めまして、えっと……」


 俺が声をかけると涙目で震えていた少女ははっとした顔で俺を見る。


「え? 竜族語、話せるのぉ?」


「そうなのじゃ、こやつはレイクと言って妾の眷属なのじゃ! 人間じゃが竜族語が話せるんじゃ!!」


 お優しいことにヴィルヘリアが俺の言いたいことを全部言ってくれた。

 少女はそれを聞いて少しだけ心を開いてくれたのか、ヴィルヘリアから少し離れて俺の方を向いた。


「わ、私は”深海古竜リヴァイアサン”のシンシンですぅ。私の言葉も分かるんですか?」


「ああ、分かるよ」


「本当に!? はわぁ……凄い」


「もう怖くないか?」


「んーーちょとだけ」


「なんだそりゃ」


 でも、最初よりはシンシンの警戒が解けたような気がする。それは良かった。


「詳しい話はヴィルヘリアに聞いてくれ」


 俺はヴィルヘリアに話を丸投げした。

 ヴィルヘリアは待ってましたと言わんばかりに勢いよくベンチから立ち上がるとシンシンの前へと出た。

 シンシンは困惑した様子でおどおどとヴィルヘリアの顔を見る。


「ずばり、シンシン! 妾達と協力関係を結んで欲しいんじゃ!!」


「きょ、協力関係ってどういう意味ですかエリザちゃん?」


「言葉の通りよ。それに私がヴィルヘリア達と一緒に居る理由が答えになっている筈よ」


「ええ……で、でも協力関係って私は一体何をすればぁ……」


「簡単じゃ! 妾達に付いてレイクと冒険するのじゃ! シンシンにもレイクを立派な竜種代表に育てる手伝いをして欲しんじゃ」


「竜種……代表……?」


 改めてシンシンは俺の方を見た。

 そりゃ困惑する気持ちもわかる。急に陸に挙げられて、一緒に旅を使用だなんて言われたら驚くだろう。

 シンシンは少し悩んだ後、答えを出した。


「よくわからないけど……わ、私で良ければ、みんなの為になるなら行くぅ! えへへ」


「うむ! 良い返事じゃ!」


 あっさりと返事をしたシンシンを心配して俺は確認を取った。


「本当に良いのかい?」


「うん! 私、ずっと深海に居て独りぼっちだったから、偶にはみんなと一緒にあ、遊びたいなって」


「私たちならいくらでも遊んであげるわよシンシン」


「わぁ! エリザちゃんありがとう♪」


 とまぁ、こんな感じで”深海古竜”シンシンと言う新たな竜王が冒険の仲間に加わった。さて、次はどこに行こうか。

 そう思っていた時だった。


「そこに居るのはレイクか?」


 俺の後ろから男の声で、声を掛けられた。

 後ろを振り向くとそこには兵士たちがおり、俺たちを取り囲んでいた。

 都市リバイアタンにやってくる兵士など、統治している国はイブニクル王国の兵士くらいしかいない。


「何じゃ何じゃ?」

「何よこいつら」

「わわわ! に、人間がいっぱい!!」


 俺は竜王たちを後ろにやり、ここは俺が前へと出る。


「い、一体何なんだ!?」


 俺は到頭竜王たちと一緒に居るのが王宮にバレてしまったのかと思っていた。

 俺が身構えていると、奥から兵士たちを掻き分けてやってくる1人の男が出てくる。

 顔を見たとき、その男の事はすぐに分かった。


「久しぶりだな、レイク」


「貴方は、ジークフリード総司令!!」


「ジークフリードで良い、貴様はもう王宮の人間ではないのだからな」


 俺たちの目の前に現れたのは、俺がイブニクル王国の兵士時代の上層部であるジークフリードだった。

 どうして彼がここに来ているのか、その理由が衝撃的なものだったとはこの時の俺は予想できなかったのである。

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