第22話 深海古竜の像
ヴィルへリアの腹も引っ込み、エリザも紅茶を堪能し終えたでの俺たちは店を出る。
新鮮な魚などもあったのに食事代は割とリーズナブルだった。流石港街だ。
俺たちは港の方へとやってきた。木製の船がずらりと並んでおり、丁度漁を終えて帰ってきた漁師達が魚を陸へと上げている最中だった。
「おお!! 鱗がキラキラと輝いておる!! 旨そうじゃ!!」
「おいおい、さっき食べたばかりだろ。それより、像の元へ行こう」
「ふふふ、そう慌てるなレイク。像の場所は私が知っている」
エルザは得意げに俺に言った。
「本当か!?」
「ええ、まぁ私に付いてくると良いわ」
エルザを先頭に俺たちは港を沿うように歩いて行く。左を見るとキラキラと太陽の光によって輝く海の水が見えた。
こんなに綺麗な海だから、美味しいさかながとれるのかもしれないな。
そんなことを考えながら歩いて居ると、エルザの歩みが止まった。
「ここよ」
エルザが指さすところは海を一望できるほど開放的な広場だった。海と陸の間には柵があり、海に落ちないようになっていた。その広場の中央で鎮座する1つの像がある。
俺たちは像の前に立ち、像の姿を見た。
像は竜の顔だけを模した物で、ヴィルへリアが竜になった時の顔のように厳つい顔をしていた。
像の足下には花や魚などのお供え物が置かれている。
「どうやら、この街の者達がおいているのだろう。こいつの信仰心はこの街の者達で成り立っているのだな」
「信仰心?」
「説明してなかったかしら。竜王は誰かの信仰によって成り立っている。私ならば私の住処にいるクリス達のようなロックデュークに住む竜人達だ」
なるほどな。でもそうなるとある疑問が浮かんでくる。
「そうなると、ヴィルへリアは誰に信仰されているんだ?」
「ヴィルへリアは……特別なの。どの竜王とは違ってヴィルへリアは信仰を必要としない極めて珍しい竜王なのよ」
「そうだったのか」
ヴィルへリアは綺麗な海を柵から身を乗り出して眺めていた。俺は遠くからヴィルへリアを眺めていたが、少しだけヴィルへリアに対して胸が強く締め付けるような感覚に襲われる。
「つまり、今までヴィルへリアは一人ぼっちだったのか」
「大丈夫よ。その代わりに私も居るし、貴方もいるでしょレイク」
「ああ、そうだな」
ちょっと暗い感じになってしまったが、俺たちの事なんか気にもせず笑顔で海を眺めるヴィルへリアを見て、少し気分が良くなった。
俺たちが暗くなってどうする。本人が元気なら、俺たちも元気でいろ! そう胸に手を当てた。
「そんなことより、この古竜様に会いたいんでしょ?」
エリザはヴィルへリアの元へと歩いて行く。
「ヴィルへリア、行くわよ」
「もう行くのか?」
「ええ、事は直ぐに動いた方が良いわ」
エリザはキョロキョロとまわりを確認する。
「よし、誰も居ないわね。行くわよ!」
「おう! ではレイク! ちょいと留守番よろしくなのじゃ!!」
「あ!? おい!!」
すると、2人は突然海の中へと飛び込んだ。ぶくぶくと泡を立てて2人は沈んで行った。
「おいおい、大丈夫なのかよ」
最初は心配していたが、最強の竜王達なら水の中でも平気だろうと思い、俺は銅像にもたれて座り、2人の帰りを待つことにした。
☆☆☆☆☆
数十分経っても中々出てこない2人が心配になってきた。
俺は立ち上がり、改めて水面を見た。すると、水面にぶくぶくと泡が出始めたかと思うと3つの影が飛び出してきた。
「ただいまレイク!」
「もう! すぐに来なさいよシンシン!!」
「ふぇ……寝てたのにぃ……」
ヴィルへリアとエリザが帰ってきた。しかし、1人だけ見たこともない少女がいる。
緑色の猫のようなフードがついた寝具のような服に海のように青い髪の毛がちらちらとはみ出ている。
その少女はプルプルと震えて涙目になって居た。
「いいいいい、一体なんですぅ? きゅ、急に来たと思ったら突然地上に連れてくるなんてぇ」
フードで顔を隠しながら少女は言う。
「会いたかったぞ、シンシン!!」
ヴィルへリアは少女に間髪入れずに抱きついた。エリザの方を見るとちょっと羨ましそうにしている。
少女は顔を耳まで赤くして慌てていた。
「ヴィヴィ……ヴィルちゃん! ひ、久しぶり! ……なんだけど、離れてぇ!」
嘘かも知れないが、俺の目の前に居る気弱な少女が次に出会う竜王だった。
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