第15話 ”氷銀古竜”エリザ
レイクとヴィルヘリアは雪が降り荒れるロックデュークの地を歩んでいた。こんなところ、普通の人間が歩いていたら体力が持たないぞ。
こうやって俺が普通に歩けているのを見ると、自分が人間からかけ離れたようで自分自身に対して少し不気味に感じてしまう。
そんな風に少し憂鬱な気分で歩いていると前を歩いていたヴィルヘリアの歩みが止まった。
「ここじゃ」
俺が正面を見ると、そこには巨大な洞穴が姿を現していた。大きな入り口はまるで廃墟から盗んできた木製の扉を取って付けたような簡素に閉じられているが、そのボロボロな様子と凍てつく寒さによって出来た氷柱により、一層不気味さが増している。
「ここにお前の知り合いが居るのか?」
「恐らく、巣を変えていなければじゃがな。まぁでも、あやつの性格上そんなことをせぬだろうな」
ヴィルヘリアは扉の前に立ち、その木製の扉をノックした。すると、少し間を置いてからゆっくりと扉が開かれた。
「あら、お客人とは珍しいですわ」
声と同時に出て来たのは180㎝程の高身長の女性だった。服装は王宮でも見た女性が身に付けるメイド服を着ており、長く後ろにまとめられた髪は光が当たるとキラキラとオーロラのように輝く不思議な色をしている。そして、一番を特徴的だったのは頭にはキラキラと宝石のように輝く角が付いていることだ。
「久しぶりじゃのクリス! どうじゃ元気にしておったか?」
「ま、まぁ! ヴィルヘリア様! お久しぶりでございます。もう地上に出ていらっしゃったとは」
クリスと言う女性はかがんでヴィルヘリアと同じ目線に糸目を合わせる。
「いやぁーー、本当は勇者の封印魔法はとっくに解いてたんじゃが地上に出る理由が無くての」
クリスは流れるように糸目を俺へ向けた。
「ヴィルヘリア様、この殿方は?」
「こやつはレイク! 妾の眷属じゃ!」
「あらあらまぁまぁ♪」
クリスは立ち上がると俺の方へと歩み寄り、笑みを向けた。
「初めまして、私は
「あはは、ご丁寧にどうも」
この人もドラゴンだった。まぁ想像通りだ。
「レイクな人間じゃが我らの言語も喋ることができるのじゃ」
「あらーー♪ 通りでお話が通じるお方だと思ってましたーー♪ びっくりですーー♪」
クリスはリアクションが軽い方のようだ。
「クリスよ、エリザはおるか?」
「はい、ご主人様はいらっしゃいますよ。ご案内いたします」
「うむ!」
「ではこちらへどうぞ♪」
クリスの後ろについて、巨大な扉の奥へと向かうことになった。
洞窟の通路には松明が付けられており、一定の間隔で明かりがともされていた。その横にはクリスと同じようにメイド服を着ている者や、ボロボロの
しかし、クリスと明らかに違うのはその外見だった。クリスは人族と言われてもおかしくない程、外見が人間に近い。一方で、周り居る者たちは顔が人間になり切れていない者やもはやトカゲの様な面持ちで人族と言えない者たちまでいる。
この者たちは
上級竜人は下級竜人よりも知能はより高くなり、人間と変わらない生活をするようになるのだ。この洞窟ですれ違う者たちの数を見るに、村程度には竜人族たちが暮らしているのだろう。
時々俺に対して睨みつけてくる奴いらもいるが、隣のヴィルヘリアを見るや否やびびってすぐに跪くのだ。そう考えているみると、ヴィルヘリアってすごい存在なのだろう。
「着きましたわ」
周りの様子を見ながら歩いていたら、いつの間にか目的の場所に着いていた。
入口より小さな扉には派手な装飾が付けられており、明らかに今までよりも雰囲気が違った。
「ご主人様、失礼いたします。ご主人様に会いたいとご客人が来られております」
扉の奥から冷淡な声が帰ってくる。
「誰だ?」
「ヴィルヘリア様でございm……」
「通せ」
「はい♪」
食い気味な返答だったと感じたのは俺だけだったのだろうか。ここの主との謁見はすぐに認められ、その扉が開かれた。
扉が開かれると同時に中から冷たい冷気が一気に流れ出てくる。扉の先を見ると氷でできた大きな椅子があり、そこで足を組んでいる人影が見えた。
クリスについて行き、その姿を近くで目の当たりにすることになる。
ヴィルヘリアと同じ背丈だが、きりっとした鋭い目つきとシャープな顔立ち、水色のきらきらと輝いたドレスによってどこか妖美さが漂っている。額から青い角は霜が掛かっており、雪が解けたような薄青い髪が肩まで流れている。
クリスは主人の前に来ると素早く膝まづいた。
「ご主人様、ヴィルヘリア様とその眷属様を連れてきました。レイク様、ご紹介いたします。こちら私達のご主人様であり五大竜王の一人にございます、”
氷銀古竜……五大竜王のうちの一人で氷結系のスキルや魔法を司ると言われている最強の竜の一人だ。まさか、こんな近くで目にかかるなど考えもしなかったため正直驚いている。
「クリス、無駄だ。竜は人と会話することはできないわ」
「エリザ様、レイク様は人間でありながら竜族語が話せる方なのでございます」
「なに?」
「ようエリザ!! 久しぶりじゃな!! 元気でおったかの?」
ヴィルヘリアは静かにぴょんぴょんと手を振る。その様子を見てエリザはため息を吐く。
「……クリス、ありがとう。下がりなさい」
「畏まりました」
クリスはニコニコとしながらこの部屋から出ていく。クリスが出て行ったこと確認すると、エリザは俺の達の方へ目線を向けた。
「あんた、やっと外に出て来たのね」
「そうじゃ! 出る理由が出来たからの」
「理由って言うのは」
エリザは目線をヴィルヘリアから俺へと向ける。鋭い眼圧が向けられ、仰け反りそうになるのをぐっとこらえる。
「そうじゃ、我が眷属になったレイクじゃ!!」
ヴィルヘリアは嬉しそうに俺の腰に勢いよく巻き付く。俺は緊張で自分の事に精一杯だった。
「は、初めまして。レイクです」
俺は人族語ではなく、竜族語であいさつをした。すると、肘掛けに肘を着いていたエリザは驚いたように肘を浮かせるがそれを隠すようにすぐに肘を元に戻す。
「まさか、竜族語話せる人間がこの時代に居たのね」
エリザは椅子から立ち上がると俺の方へとゆっくりと歩み寄ってくる。そして、俺の顔を見回し、匂いを嗅ぎ、ニタリと笑う。
「ふーーん、ヴィルヘリアと同じ匂いがする……」
「そうじゃ! レイクとはしっかり眷属としての契約を交わしたからの!」
「……そう。貴方、確かレイクって名前だったかしら? 良かったわね
「は、はぁ」
「レイク、今から私とヴィルヘリアの2人だけで少し話がしたいの。少しだけ外に出て待っていられるかしら?」
優しい口調なのだが、どこか言葉にどす黒い妖気を感じた。まるで『一旦出てけ』と念を押しているようだった。ここは空気を読んで出て行かなくては好感度が下がってしまうだろう。
そうなっては俺の命がいくつあっても足りない。
「……分かりました」
「良い子ね」
俺は腰に巻きついたヴィルヘリアの手を振りほどき、言われた通り早々とこの部屋を後にした。外に出ると手の内が汗でびしょびしょになっていることに気が付く。
とてつもないプレッシャーだった。これが竜王の覇気と言うものだろうか。この先、あれほどの者たちと出会って行くと思うとこの先不安だ。大丈夫なのだろうか……本当に……
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