第14話 ロックデューク山脈の頂へ

 家を出てからレイクたちは行く当てもなくゼパル村周辺を彷徨っていた。

 勢いで家を出て旅が始まったといえど、最初は何をすればよいかもわかっていない。

 こうやって考えている間にも隣ではヴィルヘリアは街道の野原にいる虫たちにくぎ付けになっていた。はたから見ればただの美少女なのだが、勘違いしてはいけない。


「お前は美味しいのか? どうなんじゃ?」


 虫に向かって声をかけるヴィルヘリアの後ろで俺はため息を吐いた。


「呑気なものだな。で、これからどうするんだ? 何かあてとかあるのか?」


 ヴィルヘリアは勢いよく立ちあがり、俺の方へと駆け寄ってくると満面の笑みを浮かべた。


「ある!」


「あるんだ」


 今のは無いと言われる流れだと思ったけど、しっかりあったらしい。


「今からロックデューク山脈の頂上へ行くぞ!!」


「はぁ!? ロックデューク山脈!?」


 ロックデューク山脈とはこの大陸を縦に分けるように出来た巨大な山脈である。その山脈の巨大さから『公爵』から名がつけられたとされている。


 ロックデューク山脈の麓は森で生い茂っており、頂に近づくほど雪原地帯となる。勿論、蛮族も多く住んでおり、竜族なども暮らしているとされている。


「うむ!! 山脈の頂上に妾の旧友マブダチが住んでおるのじゃ。久しぶりに地上へ出て来たのじゃ、そ奴と話がしたくての」


「なるほどな、でも今から歩いていくのか?」


「たわけ、何を言っておる。妾達は竜種じゃ。飛んで一発に決まっておろう」


「なるほど」


「じゃが、ここで竜化しては面倒な事態になろう。ロックデューク山脈の麓の森に向かうとするかのそれまでは徒歩じゃ。さぁ向かうぞい」


 ヴィルヘリア鼻歌を奏でながら尻尾をフリフリと振っている。相当知り合いと会うのが楽しみなのだろう。


 疑問に思ったがヴィルヘリアの知り合いも恐らく竜種だろう。となると、ヴィルヘリアと同じ力を持った竜王なのだろうか!?


 いやいや、びびっているわけではない。というかもう序盤でビビり散らしたから少しは慣れていている自分がいる。それに、俺たちは今から竜を統治するという目標を掲げている以上竜王との邂逅は逃げきれない運命なのだと思う。


 そんなことをグダグダ頭の中で考えているとロックデューク山脈の麓の森に入っていた。

 じめじめとしており、不気味な森を抜けた先にロックデューク山脈の入り口が姿を現すが、今回は入り口から入るわけではない。


「この辺で良いじゃろう」


 ヴィルヘリアが選んだのは人族が木を伐採して一部が開けた空間だった。ここならば、少しは人の目を隠すことはできるだろう。


「どれ、レイク。下がっておれ」


「お、おお」


 俺はヴィルヘリアから距離を取って樹木の陰に隠れる。ヴィルヘリアは大きく深呼吸をして呼吸を整える。すると、風によって靡く草木の揺れが段々と激しくなっていくのが見えた。


 そして、ヴィルヘリアが大きな雄叫びを上げると小柄だった少女の姿は変貌していく。右腕、左足、右脚、左足、尻尾と肥大化し、その白く綺麗な肌は黒赤色の鱗に覆われていく。


 首と顔が肥大化して伸び、可愛らしい顔はおぞましいく厳つい竜頭になる。背中には巨大な身体を広大な空へ飛び立たせることを可能にした2枚の巨翼が急速に伸びていく。


 こうして、俺の前にはあの穴の中で出会った時と同じ竜が姿を現したのだ。


「ふぅ、この姿は威厳が出て好きじゃ」


 どうやらヴィルヘリア自身はご満悦の様である。

 それにしても、本来の姿を見ると恐ろしく感じてしまう。これと戦える勇者と言う存在がいかに化け物なのか近くに居れば身に染みて分かる。


「ではレイクよ、お前は特別じゃからな。妾の誇りある背中に乗ることを許そう。感謝するのじゃ!!」


「あーー、ありがとうございます」


「うむ! くるしゅうない!」


 すると、ヴィルヘリアは意気揚々にその巨大な手で俺を掴むと、背中に乗せた。掴まれた時、押しつぶされるんじゃないかとひやひやした。


「では行くぞ!! しっかり捕まっているのじゃ!!」


 ヴィルヘリアがかけ声と共に大地を蹴り上げた瞬間、大きく開かれた翼を羽ばたかせて空へと舞い上がった。


「うぉおおおおおおおお!!!!」


 一気に高度が上がり、俺は必死にしがみ付く。ヴィルヘリアは俺の事などお構いなしに上昇していく。俺は怖くて目を開けず、ただ落ちないようにヴィルヘリアの鱗を掴んでいた。


「レイク見てみろ!! これが竜の世界だ!!」


 ヴィルヘリアに促されて俺はゆっくりと眼を開けた。


 ヴィルヘリアの背中から見た世界はまるで地図を広げたかのように大陸を一望することができた。地平線の向こうから昇る太陽の光と滑空によって当たる風が気持ち良く感じる。


 あんなに大きく感じたロックデューク山脈よりも高く、ゼパル村など草原に佇む虫程の大きさだ。あのイブニクル王国までもが小さく見え、今まで俺を見下していた者たちをさらに俺は高いところで見下ろすという優越感が俺の中にあふれてくる。


 まるで、自分がこの世界の支配者と錯覚してしまうほどに綺麗な世界だった。


「凄い、凄いぞヴィルヘリア!!」


「これが空の支配者の特権じゃ。レイク、これからお前は妾と共に強くなってこの大陸の竜を統べるのじゃ、この光景をしかと眼に刻め! お前は妾はこの世界の同族を束ねる覇者となるのじゃから!!」


 ヴィルヘリアはロックデューク山脈の頂上へと滑空を続ける。ロックデューク山脈の横は大陸を2つに分ける山岳地帯『ベルトマウンテン』、その麓の大森林『ダークネイチャー』が見える。


 全ての竜を統治するのだ、この土地にもいずれ行くことになるだろう。



 ☆☆☆☆☆



 数分経ち、ヴィルヘリアの飛行によってロックデューク山脈の頂上付近へとやってきた。俺は忘れていたことがある。ロックデューク山脈の頂上付近は雪原地帯なのだ。高度が上がり麓よりも気温が大幅に低下したことによって周囲は雪が積もっている。俺の吐く息は白色へと代わっており、今の服装では絶対に低体温で垂れてしまうだろう。


 一方で少女の姿に戻ったヴィルヘリアは俺の服装なんかよりも肌の露出が多いはずなのだが元気な様子だった。それ見てふと気が付く。


「あれ? 寒くない?」


「妾にはEXスキル【環境適応】があるからの。極寒じゃろうが灼熱地獄じゃろうがどこでも生きられるようになっておる」


 ヴィルヘリアにそのスキルがあると言う事は俺も持っていると言う事だ。そんな便利なスキルまであるのか、凄いな。


「ここらに妾の旧友がいる巣があると思うじゃが、探してみるとするかの」


 こうして、俺たちはヴィルヘリアの旧友? を探すためにロックデュークの地を歩き始めた。


《現在ステータス》

 name:レイク


 称号:破滅古竜の眷属


 《(判明済み)所持スキル》

 コモンスキル:【威嚇】【風切り】【拘束鎖】


 EXスキル:【仁王覇気】【多種結界】【耐性無視】【環境適応】


 竜種固有スキル:【炎ノ息吹】


 言語スキル:【竜族語】


 耐性:【状態異常無効】

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